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紫雲清夏

 ソシャゲ「学園アイドルマスター」には、紫雲清夏というヒロインが登場する。

授業やレッスンをサボる不真面目なギャル。おちゃらけた態度ではあるが、元気で明るく、誰とでも仲良くなれる気質は彼女の魅力だ。入学前にはバレエで世界に羽ばたいた実績もあり、期待されていたものの、当人にやる気はない。懸命にアイドルを目指している親友のリーリヤを応援している。

公式より

 紫雲さんの誕生日は11月11日で、暦の上では晩秋。そんな時期に生まれた子供なのに、名前に「夏」の一字が入っているのは、きっと彼女の両親が、夏という季節さながら燃えるように輝いてほしいという祈りを込めているのだろう(あるいは四人姉妹の次女で、長女から春夏秋冬と連なっているだけかもしれないが)。

 学園アイドルマスターを始めてもう一月余、私は紫雲さんに魅せられつづけている。それは彼女の性格やメインストーリーが気に入ったのもあるけれど、ひとえに、私と同じく北海道出身というのが大きい。

 私は北海道が好きだ。生まれてこのかた30年、生粋の道産子である。これまでもこれからも内地で暮らすことはないだろう。北海道の人間は、というと主語が大きいが、北海道に好意的なゆかりのある人物や物事に好印象を抱く。道産子は大泉洋が好きだしタカアンドトシが好きだし、田中義剛は毛嫌いしている。ドラマや映画の舞台が北海道なら何となく観るし、今年のコナンの映画は道民全員観た。道産子はみな北海道を愛している。
 そういうわけで出身が北海道だと嬉しくなるのもむべなるかな。「学園アイドルマスター」でも、登場人物一覧を見たときに、北海道出身という設定を紫雲さんに認めて、北海道ポイントが5アップした。さて、学マス君は北海道という要素をどう調理してくれるのかな? 私は腕を組んで紫雲さんのプロデュースを始めた。
 北海道だからといって、「なまら」だとかふざけた方言を多用するのは芸がない。そんなもの使う人間もうどこにもいない。関西弁キャラででんがなまんがなを多用するキャラのうさん臭さと同じくらい、顔をしかめたくなる。紫雲さんがまかり間違ってなまらなどと口にしたら北海道ポイントは10下がる。

 私は喝采した。「〇〇っしょ」という語尾に。これは紛れもなく道産子ギャルだ。内地の人間には、北海道の臭みをギャルという要素で脱臭して、一見するとギャル設定の言葉遣いだと受け止めさせている。それでいて、ネイティブの北海道弁発話者には、これは彼女の北海道要素だとさりげなく伝えている。ポイント20加点。ギャルと北海道という水と油(北海道は寒くてギャルが生息できないため)な要素を、上手に攪拌している。水と油は乳化して、バターになった。道産バターだ。全国津々浦々、どこに出しても恥ずかしくない、至高のバター。よつ葉バター。

 
 先日、学マスのアップデートとともに、紫雲清夏の新規衣装が実装された。
 水着だ。

 学マスの責任者のひとりが、紫雲清夏さんはセクシー路線で売っていないと主張している。ごまかすな、ごまかすなよ。俺の眼が節穴だとでも思っているのか。ふざけやがって。水着なんてセクシーそのものだろうが。どれ、確かめてやる。10連……出ない。20連……出ない。なに? もうジュエルが足らない? 私はコンビニに走った。15000円で、ようやく拝めた。

 100点……♡

 同時ピックアップのサポートカードにも彼女が登場するらしい。なるほどね。引いた。コミュを読んでみた。

 サポートカードに付随する上掲の会話ログを読んだとき、私は北海道を感じた。
 文節や語尾にかかる「さ」。

「昔の話だけど」「なかなか泳げなくて」「もう一回やるって聞かなくてさー」「何度も何度も繰り返して」「あたし

 さ、という語尾に方言要素があるわけではない。内地の人間でも多少は使うだろう。けれど、道民はその割合がとても多い。自分では意識できないくらいに。私は大学で、内地出身の友人から指摘されたことがある。例えば「あのさ私さ、これからさ山岡家食べにいくんだけどさ、いっしょにどう?」誇張しすぎのきらいはあるが、道産子には日常にあり得る口調であり、道民に囲まれている環境ではなかなか気づきにくい一種の方言だった。よく想起される「~~だべ」という田舎口調さえ、道産子は「~~だべさ」と言う。文節や語尾の「さ」の多さはあればあるほどそこはかとなく北海道ポイントを加点するものであり、学マスでいえば好印象カードである。+760

 たとえば九州出身のキャラが「~~ばい」、名古屋が「~~じゃけ」みたいに、方言キャラが何人もその土地の要素を誇張されて世に出て幾星霜、ネイティブとはかけ離れた方言がはびこって久しい。方言なんてもう食傷ものなんだよ。標準語でしゃべってくれ。しかし、標準語なんてものは、ほんとうはないんだ。フィクションにすぎない。私たちは私たちの生まれ育った場所の言葉遣いで、話して相槌を打って笑って泣いて語って愛する。その時点でのフィクションの標準語など、当人の本質には届かない。北海道もその例にもれず、「なまら」だとか「したっけ」だとか、そんな言葉づかいをさせておけば北海道ポイント貰えるでしょ、みたいな安易であさはかなキャラが何人かいる。そんな資本主義御用達なキャラクターに用はないんだ。ポイントはあげないよ。北海道であればなんでもいいってわけじゃないんだ。
 そんな私の偏見に満ちた鎧を、紫雲さんは脱がせた。俺と紫雲さんは見つめあった。

俺、プロデュースとか、初めてなんだけど……。

大丈夫だよ、昨夜っち♪ 

昨夜っち? 

うん、プロデューサーだから昨夜っち♪ 

――あなたをプロデュースさせてください。

あ、あたしを!? なんで!? 

紫雲さんには才能がある。

こんなにおちゃらけてて、ぜんぜんやる気ないやつなのに?

どうでしょう。そうは見えませんが。

節穴だね、昨夜っち。

節穴かどうか、確かめたいのです。紫雲さん、最初はお試しで構いません。考えてみてください。

ま、別にやったげてもいーよ。昨夜っち、話しててけっこー面白いから。
あ、じゃあ1個条件つけよっかな。

何でしょう? 

その紫雲さんって呼び方やめない? なんかl距離遠いな~。あたしは昨夜っちて読んでるし、もっと気安く呼んでよ!

 清夏

私はあなたが好きだ。

 おためしに水着清夏を使ってみたらめちゃ強かった。俺と清夏の愛のなせる業だと思った。清夏と俺の夏が、いま始まる。
 北海道の夏は心地いい。

ひなたのなまらは可愛いから許す❤️

 木下ひなた、俺と一緒に道南で牛の乳搾りをしよう!

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