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紫雲清夏と葛城リーリヤについて

 今日も今日とて、ソシャゲの学園アイドルマスターをしている。

 学園アイドルマスターはリリース前から例えば條澤広の鶏ガラみたいなビジュアルで耳目を集めていた。リリースされて以降は、月村手毬の狂犬ぶりや花海姉妹のスポ根さながらな切磋琢磨に脳を焼かれるプロデューサーが増えた。私も学園アイドルマスターから初めてアイマスシリーズに片足を突っ込み、今はどっぷり浸かっている。
 もともと二年超やっていたソシャゲの「アークナイツ」をデイリー消化の二番目にするくらいにはもう夢中である。こんなんじゃどの面下げて私はロドスに帰ればいいんだろう。アーミヤやケルシーの声が聞こえる。ごめんね、ドクターは今、初星学園にいます。ここには鉱石病がありません。平和な園です。もう理性という理性をかなぐり捨てて、私は全身全霊で、学園アイドルマスターをしている。

 「学園アイドルマスター」には現在、数えて10人のヒロインが実装されている。その誰もが魅力的なのは言わずもがなであるが、私の財布を最も使わせたのは一人である。紫雲清夏という。

 https://gakuen.idolmaster-official.jp/idol/sumika/

 紫雲清夏は不真面目なギャルである。公式の説明にそうある。なるほど、ギャルか。もう食傷気味のジャンルだ。そう思って、プロデュースを始める。おや? 二週目あたりで気づく。本当にギャルか?

紫雲清夏親愛度4コミュ

 紫雲清夏のギャルなんてレッテルは、彼女をプロデュースしているとすぐに仮面だと分かる。嘘の一つだと。ギャルという装いを凝らして、おちゃらけてみせて、紫雲清夏は彼女なりに出来ることをしようとしている。それは幼馴染の葛城リーリヤの応援だ。紫雲清夏をプロデュースしようとすると、彼女は冒頭で、葛城リーリヤを推す。あの子、いい子なんだよと。あたしなんかよりもずっと――。リーリヤをプロデュースしなよ、と言いたげに。

 紫雲清夏はバレエで海外に行ったこともある才女であり、その縁で葛城リーリヤと親しくなったようだ。時を経て中学三年生の時に、初星学園のアイドルの演武をリーリヤと目の当たりにして、ふたりでアイドルになるために初星学園を受験する。二人とも受かる。ここまでは予定調和だ。しかし歯車は狂いだす。紫雲清夏にはトラウマがあって、それを克服できなかった。しかしリーリヤと、二人でアイドルになろうねという約束を交わしている。紫雲清夏は嘘をつく。そんな約束忘れちゃった。あたしはおちゃらけたギャルだよ。これから友達と遊びに行くんだ~。リーリヤはレッスン頑張ってね。応援してるからね。

葛城リーリヤ親愛度7コミュ

 現在、紫雲清夏と葛城リーリヤについて、公式から出されている情報はあまりに少ない。私が知っているのは、ふたりはバレエを縁にして出会って、リーリヤは負けず嫌いで、清夏はおちゃらけているという、集めても足らない断片ばかりである。このふたりは、初星学園の寮で同室のルームメイトをしている。私も寮暮らしをしていた学生時代の過去があるので、ルームメイトとしてやれているということは、そこにある程度の信愛がなければ難しいことを知っている。紫雲清夏と葛城リーリヤの間にはまだ公式から語られていない親愛の情があるはずであり、私はそれを想像力で補う。清夏とリーリヤの過去を思う。今を思う。未来を思う。幸せであればいいと願う。
 
 寮生活、集団生活とは中々どうしてたいへんなものなのだ。現在新たに公開されたコミュでは、寮の隣室である主人公的立ち位置の三人の騒音に、笑顔で苦言を呈す紫雲清夏を見られる。留学生で言葉少ななリーリヤに代わって、ちょっとうるさいわといえる清夏の胆力には度肝を抜かれる。リーリヤの臆しがちなところをフォローする、良いコンビなのだと思う。あんたたち誰、とぶしつけに訊く月村手毬とかいう見かけだけ強気なヒロインにも、臆することなく接している。紫雲清夏は、きっと見抜いている。月村手毬のストイックさが見せかけであるということを。なぜなら紫雲清夏自身が、見せかけているからだ。誰に? 葛城リーリヤに。何を? 見せかけの強い自分を。

 紫雲清夏と葛城リーリヤは相反しながら背中合わせになっているひとつの概念であり(背中合わせがお互いに見つめ合うには一番遠い距離なのだ、こんなにも多く触れ合っているというのに)、紫雲清夏を語るということは、葛城リーリヤを語ることと同じだ。

 葛城リーリヤは毎朝七時に起床するベッドを整え歯磨きをして詩集を十分間朗読した後寝ている紫雲清夏の元へ向かい朝だよそろそろ起きてと言う。もうちょっと寝かしてと返事がある。葛城リーリヤは言う。そんな人には、朝ごはん、作ってあげません。今日はねフレンチトーストだよ。紫雲清夏は目を覚ます。はい、起きたっ! 起きたからリーリヤお願い~! あたしの分もめちゃうまフレンチトースト作ってよ~! 昼は必ず一時間昼寝をし起きた後は決まってチーズクリームココアを一杯飲むこっそりお菓子やプレゼントをくれようとする同級生がいても丁寧に断る一方で見知らぬ怪しげな者に出会うと紫雲清夏の後ろに身を隠し避けるように俯いて歩く午後はヴィジュアルレッスンまたはボーカルトレーニングをし終わったら教室を隅々まで掃除してから電気を消す夜は部屋に帰って本を読む読書に疲れたら紫雲清夏の宿題の手伝いをするが少し褒められると照れてしまう就寝は夜十時前である隣室からことねと手毬の喧嘩する声が聞こえるどうか忘れないでほしい葛城リーリヤは我らの光であり――

https://youtu.be/ZcCs6csGCnE?feature=shared

 葛城リーリヤの底なしの努力は、光と評して差し支えない。それは己が身をいくら傷つけてもへこたれない葛城リーリヤの根性に根差している。葛城リーリヤのアイドルを目指す気概はあまりにまぶしい。葛城リーリヤをプロデュースしているとわかる。彼女の天性の努力の才が、その力強さが。破れかぶれの情熱に思わず目を背けたくなる。誰もが背けてしまった。しかし紫雲清夏だけは、見ていた。葛城リーリヤを。彼女の努力を。狂気の域に至っているみたいなリーリヤのまっすぐさを、紫雲清夏は受け止める。今のリーリヤが、あたしにはちょっと眩しいや。そんな一言を残してこともなげに。それは紫雲清夏が、葛城リーリヤの輝きを更に更に知っているから。知り尽くしているから。こんな明るさはもう見たとさえ言って一蹴しそうだ。リーリヤの光はまだまだこんなもんじゃないだろう? 紫雲清夏は葛城リーリヤを信じている。それはあまねく世界にわたった光を阻む影。葛城リーリヤは光であり、紫雲清夏は闇である。闇があるからこそ光は際立ち、光なければ闇の色を知れない。紫雲清夏と葛城リーリヤは一蓮托生なのだ。光と闇はそのどちらもがあって初めて彩りを成す。欠けていいものなどどこにもない。紫雲清夏の物語と葛城リーリヤの物語は、本人たちにしか解けない知恵の輪のように絡み合って、学マス公式のアンサーがいかなるものか、私は楽しみでならない。早く魅せてほしい。紫雲清夏と葛城リーリヤの行く末を。

 さて、数日後には、葛城リーリヤの誕生日がある。7月24日。学マスもそれに併せてアップデートするらしい。言わずもがな、葛城リーリヤの新規ガチャが始まるようだ。思い返せば学マス初期から、毎度毎度十日足らずで次から次に新規衣装や異格キャラを実装してきた。あの、もうお金がないんですけど。もしかして運営さんは、プレイヤーを叩けば金を出す打ち出の小槌だとでも思ってます? アークナイツはもう少しガチャが優しいですけど。しかし、背に腹は代えられない。リーリヤあるところに清夏あり。江戸時代からの故事にもそうある。私は紫雲清夏の闇の深さを知るために、葛城リーリヤという光の力強さを知らなければならない。夜明け前がいちばん暗い。私は紫雲清夏の夜明けを待っている。明けない夜を終わらせてくれ。とりあえず稼げるだけジュエルを稼いだ。さあ、来い。葛城リーリヤの誕生日。俺はせいいっぱい祝福してやる。光を、闇を。


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