日記(2024/10/27)

◆10月27日

 朝、起きる。六時半。今日は映画を二作観る予定だった。一作目はアニメ映画「がんばっていきまっしょい」。二作目は「残酷の国のアリス」。

 「残酷の国のアリス」というのが、先日観た「シン・デレラ」という監督の手になる最新作らしく、感想や評判を調べたらとても悪い。面白くないらしい映画をそうと知りながら観に行くのは、なかなかどうして楽しいものなのだった。予想外に面白かったらそれはそれで結果オーライだし、面白くなかったら期待通り面白くなかったねと笑い飛ばせる。どっちにどう転んでも構わない。前日に原作となった「不思議の国のアリス」を読んで、予習もばっちりだ。

 昼頃、劇場のあるサッポロファクトリーに向かう。

 土日のサッポロファクトリーって、苦手だ。家族連れやカップルの巣窟で、どうしても浮いている気分になる。しかもお昼時とあってはどこの飲食店街も混んでいて、映画前に何かつまもうと思っていたがあまりの行列に気が挫けた。やむなくほかの雑貨店や服飾店を冷やかして時間をつぶした。

 開場時刻になって、シアター内に入る。客の入りはまばらだった。

 今回の放映は公開記念舞台挨拶のライブビューイングが本編前にあり、主演の声優五名と監督が各々、「がんばっていきまっしょい」ではこういうところも注目すると良いと教えてくれたので、ますます楽しみになった。以前原作である小説も読んだので、これも予習はばっちりだ。

 映画は3dCGで、キャラがとにかく動く動く動く! 画面が楽しい! 内容も、物語の展開こそ原作とはまるで違うが、現代ナイズされた世界観で原作には負けず劣らずのまっすぐな青春もの、王道中の王道で、大満足。いい改変だと思う。ふとした挙動やオールの動かし方、そうした様々な細部が登場人物の機微をきちんと物語っていて、これは何度見ても面白いやつだとわかった。

 しばらく余韻に浸った。ほんとうなら続けて「残酷の国のアリス」を観に行くつもりだったけれど、この気分のままスプラッタホラーを観る気にならないので、パスすることにした。いい映画を観たなあ、と頭の中で思い返し思い返し、友人に『「がんばっていきまっしょい」いい映画だったぞ』なんてラインを送ったりした。

 パンフレットを買って、映画館を出る。その足でブックオフに行った。昨日「不思議の国のアリス」一冊を読んだから新しく本を買う権利が生まれたのだ。

 ブックオフは、土日といえども独り者にやさしい。単行本・文庫本コーナーを存分に回った。ノーベル文学賞を獲ったハン・ガンの絶版本があればいいなあと思ったが、なかった。早くハン・ガンを読ませろ!

 文庫3冊を購入。

鮎川哲也「沈黙の函」と垣根涼介「室町無頼」(上・下)

 鮎川哲也「沈黙の函」は私が初めて読んだ鮎川哲也の小説で、そこからミステリの世界に入ったのだった。それから鮎川哲也の本を何度か読み返したけれど、「沈黙の函」はなかなか再版もされず再読できなかった。今回見つけられてとてもラッキー! 十何年も前に読んだから犯人ももう忘れているし初読の気分で楽しめる。

 垣根涼介「室町無頼」は、2025年初頭に大泉洋主演で映画化される時代ものらしい。このまえ「侍タイムスリッパ―」という映画の上映前予告で観た。大泉洋が嫌いな北海道民はいないので必ず観るとして、原作を読んでから映画を観ると楽しいということに最近気づいた。映画自体は楽しくなくても(2敗)、映画化されるほどの原作はたいてい面白いのだ。時代小説って時代劇と同じくらい私は食指を伸ばしたことがなかったのだけど、「侍タイムスリッパ―」が良すぎて、観ず読まず嫌いを治すかと思った次第だ。時代小説なんておととし読んだ司馬遼太郎が最後かもしれない。「歳月」という長編。一気に読んでしまうくらい名作だったのだけど、時代小説を読みなれてなくて、続けて別の時代物を読む気力がなくなり、ミステリやら何やらにうつつを抜かしている間に、司馬遼太郎は積読の山の一画にすっかり埋もれてしまった。垣根涼介、名前しか知らない作家で何ならミステリ作家とばかり思っていたのだけど、どうか私を時代小説の世界に導いてくれ。

§ § §

 家に帰ると、もう外は薄暗い。すっかり冬だな。我が家の卓の上に、選挙のハガキがぽつんと置かれていた。そうか、今日は選挙か。

 私は選挙に行ったことがなかった。ずっと”見”に回っていた。俺の一票で何も変わらなくない? しかし今日は「がんばっていきまっしょい」を観たので、すこし前向きだった。そろそろ、世界を変えちゃいますか。このクソッたれな肥溜めみたいな現実を、俺のこの一票で。

 投票所は歩いて行ける近くにあった。私は、投票所にドレスコードがあってまかり間違って投票できないことがあってはいけないと思って、一軍の服を引っ張り出して、髪もセットした。洗面所の鏡の前に立つ。よし、余所行きの俺だ。

 家を出る。少し肌寒い。俺は肩で風切って歩いた。世界を変えるぞ。世界を変えるぞ! 歩きスマホしながらマニュフェストとやらも目を通してみた。皇居に米軍基地移設する政策を掲げている政党を探したが、なかった。じゃあ、まあこいつらでいいか。そんな風に決めて、投票所に着く。

 場所は高校で、高校の敷地に入るなんて十何年ぶりだろう! 投票所用に改装されていたが、空気感は、私が高校生だったころの爽やかに若々しいにおいがして、玄関を抜けて飾られているトロフィーや表彰状を、まるで自分の母校みたいに眺めた。

 さいわいドレスコードはなかった。案内のままにハガキを見せて、小選挙区の人名を書き、比例区の党名を書く。なんだ、これだけのことだったのか。案外、選挙なんて何でもないじゃないか。これで俺の投票先が当選したら景品とか送られてくるかなあと期待しながら、投票所を出た。

 そういえば職場の人が、選挙に行って外食するんだ……、みたいなことを言っていて、お宅は選挙ってそんなイベントなんですかと訊いたら、昔の歌だよ、と寂しい目で見られた。何の歌です? モー娘。え、知らない。

 そうして、調べた。2001年の曲だった。

 出だしを聴いたら、なんか聴いたことある! となったが、そんな歌詞だと知らなかった。当時の私といえば7歳、まだ物心はついていなくてたぶん首も据わっていなかった。私に物心がついたのは去年の暮れくらいだから、知らなくても無理はないやね。フルで聴くと、悪くなかった。元気になる歌でいい。 

 投票の帰り道、外食の気分ではなかったのでコンビニで酒とタバコを買った。意味ないけど、コンビニが好き。私は歌を思い出しながら、人気のない住宅街、鼻唄交じりにゆっくり歩いた。世界が変わればいいと思った。今までよりも良いように。

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