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PERCHの聖月曜日 73日目

1 聴覚的空間

感情へ話しかける音

耳は人間の感情生活と密接に結びついている。それはもともと生存のためだった。ワトソンは「突然の大きな音」は、幼児に衝動的な(学習によらない)恐怖反応をひき起こすと考えたが、この「突然の大きな音」は成人にも急激な(条件反射による)恐怖反応をひき起こす。これは自動車の警笛を考えてもわかる。救急車の場合でも、最初に警告を与えるのは、くるくるまわるブリンカー灯でなくて、サイレンではないか。タクシーも、通行人に危険を知らせるのに、旗かなにか目に見えるものを振っても役に立たぬではないか。たまたま自動車が突進してくる方向にいるのでなかったら、自動車そのものを見るだけでは危ないとわからない。

この場合、唯一の希望は次元のない聴覚作用である。聴覚作用は方向を選ばずキャッチされるので、どんなに突然の音でも、どの方向からのでも、すぐに注意を向けられる。

あらゆる音が突然起きるわけではなく、あらゆる音が恐怖感をまき起こすわけでもない。聴覚的空間は、マーチからオペラにいたるまで、さまざまな種類の感情を私たちからひき出す。目が要求するような「対象物」がない音によっても満たすことができる。なにかを表現しなくてはならないわけではないが、物語ることはできる。いうなれば直接感情に話しかけることはできる。もちろん音楽は標題音楽のように視覚をひき起こすことができるし、歌詞に合わせて創作したり、模倣する歌謡曲の場合のように視覚的提示の目標に従属させることもできる。しかし音楽はそうしなくてはならないわけではない。

ーーーM・マクルーハン+E・カーペンター『マクルーハン理論 電子メディアの可能性』平凡社,2003年,p66-67

Ceiling
16th century

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