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PERCHの聖月曜日 22日目
氏の魂は劇を知らない。氏の苦悩は樹木の成長する苦悩である。
人々は「和解」を読んで泣くであろう。それは作者の強力な自然性が人々の涙腺をうつからだ。泣かない人があったとしたらそれは君の心臓が枯渇しているからではない。君の余り悧巧(りこう)でもない脳髄が少々ばかり忙しがっているに過ぎない。観念的な人間を感傷的に或(あるい)は神経的に泣かせるのは易しいことなのである。最上芸術も自然の叫びに若(し)かないのではない。最上芸術は例外なく自然の叫びを捕えているのだ。
「私は何も苦しもうと思って苦しんだのではないのだ、私は、唯(ただ)、私の苦しみの独創性を尊敬しなければならなかっただけだ」–––マルセル・プルウスト。芸術家の心というものは、いつの世でもかかる清潔以外のものを指さない。
––––小林秀雄「志賀直哉」『作家の顔』新潮文庫、昭和36年
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Moriz Jung
Wiener Werkstätte
1907