立春朝搾り(まだ間に合うかも)
昨晩、車内で読んでいた甘粕りり子さんの随筆『鎌倉の家』で、「立春朝搾り」のことを初めて知った。
2月4日、立春の明け方から搾った生酒を当日味わうというもの。しかも、蔵元・酒販店さん総出の出荷作業の合間には、近隣の神社の神主さんによるお祓いが行われる。
日本名門酒会のサイトによれば「お酒を造る人・届ける人・飲む人……〈立春朝搾り〉に関わるすべての人の無病息災、家内安全、商売繁盛を祈願。皆さまに幸多かれと、穢れのない新酒をお届けします。」とある。
「前日にこれを知るなんて、なんてタイミング!」と思ってよくよく調べたら、予約者しか購入できないと書いてあるではないか。ショック。
しかし、電車を降り、鎌倉の御成通りを歩いていたら、グレイスワインを買ったり角打ちを利用したりしている酒屋に「明日は立春朝搾りを取りに行くため、13時ごろに開店します」という内容の張り紙が。
そこで、念のために本日(2月4日)14時過ぎに電話をして、「予約者しか購入できないのでしょうか」と尋ねたところ、「予約分以外に数本用意してあるので、お取り置きしましょうか」と言ってもらえた!
というわけで、ご興味ある方は会社のそばや自宅の近所の酒屋さんにいまから電話して聞いてみてください。どこの酒屋でも販売しているわけではないですが(日本名門酒会加盟の酒販店で限定販売される)、手に入ることもあるようです。
以下は『鎌倉の家』の該当部分。しかし、なんていい随筆なんだろう。さくさく読んで読み終わってしまうのがもったいなくて、一章一章大事に読んでいる。今月、鎌倉在住5年生になる私には到底追いつけない、鎌倉ならではの思い出の数々。向田邦子が遊びに来ちゃうんだもんなあ……ため息。
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ここに通うようになって、日本酒には立春の「朝しぼり」という楽しみ方があることを知った。二月四日に、文字通り明け方からしぼり始めた生酒を、当日のうちに味わうのだ。蔵元か蔵元近くの酒屋でないと手に入らない。立春の日はお昼頃に茅ヶ崎から山田屋に届く朝しぼりを買い、近所の友人を誘うのが楽しみになった。
朝しぼりは無濾過の生原酒で、微発泡。未完成の魅力といったらいいだろうか。原酒が発酵し、日本酒になっていく道のりの味である。白濁した色や控えめな発泡の感触が、そこまで来ている春を思い起こさせる。
食卓も春らしいメニューにしたいところだけれど、二月の頭はまだ寒いので、鍋にすることが多い。先日は丹波から猪肉を取り寄せて牡丹鍋にした。母の発案で、前菜には猪が食べているものを揃えた。畑を荒らして食料を得る猪は、長芋やむかご、落花生などを好むそうだ。
味噌味の鍋と微発泡の日本酒の取り合わせは思った以上に相性がよく、食卓の上では冬と春が仲良く交差していた。
朝しぼりの天青は飲み干さずに残しておくと、時間の経過を味わえる。だんだん発泡が抜けていき、味の角が取れていくのがわかる。日本酒も生きているのだなあと思う。
──甘粕りり子『鎌倉の家』「雨過天青」より