是枝裕和監督著『映画を撮りながら考えたこと』〜パルムドール受賞に寄せて〜
是枝裕和監督最新作『万引き家族』がカンヌ最高賞パルムドールを受賞したということで、『映画を撮りながら考えたこと』について、ちょっとだけお話を。
この本の企画を立てたのは約10年前、『歩いても 歩いても』の公開後でした。そこから是枝監督の映画作品とドキュメンタリー作品を一作ずつ丁寧に(一作につき3時間程度)取材し、紆余曲折あって完成したのが2016年です。8年もかかってしまったのは一重に私に仕上げる力量がなかったことにつきますが、それでもその8年の間に「新幹線」というお題を得て撮った『奇跡』、「福山雅治」というお題を得て撮った『そして父になる』、『幻の光』『空気人形』以来の原作モノ『海街diary』などの映画作品があり、是枝監督が父のように慕ったふたりの師の死があり、『空気人形』まで取材してサクッと出すよりは、さらに監督の内奥があらわになった本に仕上がったのではないか、と自負しています。
それと、取材をして感じたのは、あくまで個人的な見解ですが、村上春樹が小説と翻訳という二本柱を仕事に据えて、一方でトライして得た成功や失敗や学びを他方で活かす、ということを繰り返してきたとしたら、是枝監督も、映画とドキュメンタリーの二本柱で同じようにしてこられたのではないかな、ということ。今回の『万引き家族』のパルムドール受賞は、自作を毎回客観的に分析しながら、この二本柱の螺旋階段を上へ上へと登ってきたひとりの映画監督の「集大成かつ新境地」なのではないか、と考えています。
『映画を撮りながら考えたこと』は、つまりその20年に及ぶ思考と分析の履歴を辿れる一冊です。映画好きの方や、クリエイティブに関わる人だけでなく、仕事につまづいている人(是枝監督も20代のときは使えないダメダメADくんだった)や、小さなアイデアを大きなビジネスへと変貌させるプロデュースに関心のある人にも何かしら得るものがあると思いますので、ご興味あればぜひ!(笑) ちょっと長くて(400ページ超)、値段も高いですが、お手にとっていただけたら嬉しいです。
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