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虹色の羽根
2010年にうけた、ちょっと不思議な「セッション」の投稿(以下)がふいに現れ、すっかり忘れていたので、自分でも新鮮に読んだ。
2010年は39歳で、ゆるく婚活をしていた。あれから14年。このセッションの最後に現れる「虹色の羽根」は、結婚や妊娠、出産、子育てを含んだ「家族」はもたらさなかったけれど、代わりに「京都移住」や「酒場の店主」「ライターから文筆家への移行(途上)」「尊敬できる恋人」をもたらしてくれたと思う。だいぶ幸せです。
***
5年ぶりに友人のマッサージを受けた。
5年前までは、アロマオイルマッサージ+鍼灸だったんだけど、久しぶりに受けたら、ぜんぜん内容が変わっていた。心理療法的なものが付加されていたのだ。
簡単なカウンセリング(どこが疲れているかとか近況とか)があり、最初にまずアロマオイルを選ぶことから始めた。20種くらい、名前をふせたオイルの瓶のなかからインスピレーションで選んでください、と言われ、1つを選ぶ。嗅いだらとても好きな、心地良い匂いだった。それを手首につけて、まずは瞑想から始める。
そのあとベッドに横になり、友人はまず私のかかとを握り、身体全体に気を送った。
次に友人は、身体は男性性と女性性の両方でできていて、右側に男性性が、左側に女性性があると説明した。
「では、カオルさん、身体の右側に意識を集中してください。あなたの男性性がどんな男性なのか、見て行きましょう」
私は少し戸惑いながらも「はい」と答えた。
「男性をイメージしてください。……何歳ですか。どんな髪型、どんな背格好、何をしている人ですか」
私は男性のイメージを思い浮かべた。33歳、髪は短くもなく長くもなく、ちょっと癖があって柔らかい。背は177cmくらいで、体型は中肉中背。仕事は……何をやっているかわからないけれども、私と同じフリーランス。
「どこに住んでいますか?」
……マンション。3階くらい。1LDKのこざっぱりしたところにいる。
「家族はいますか?」
……いません。
「恋人は?」
……いるみたい。(でもあまりうまくいってない。)
「趣味は?」
……なんか料理を作って人にふるまうのが好きみたい。でも、いまはリビングのソファに座って、じっと考え事をしています。
「その男性は家族を欲しがっていますか?」
……いずれは欲しいけれども、いまは仕事のことで頭がいっぱいみたい。一人でいる時間が非常に必要みたいで、ずっと思い悩んでいる。
そんな感じで脳裏に浮かんだ男性のことを話すのだが、この男性、本当にちっともソファーから身動きしないのだ。考え事から離れられないみたいに。
友人は次に身体の左側に意識を集中させ、「同じように今度は女性をイメージしていきましょう」と言った。
思い浮かんだ女性は意外にもめっちゃ笑顔だった。すごく楽しそうな、嬉しそうな笑顔。
「いくつくらいですか?」
……27歳。身長は163cmくらい、わりとスタイルがよくてほっそりしている。髪は肩にかかるくらいで、すごく笑っています。
「彼女はいまどこにいますか?」
……女性3人くらいと一緒にいる。
「家はどんなですか?」
……家はないみたい。
「家がない?」
……旅の途中みたい。
「家族はいますか?」
……いません。
「恋人はいますか?」
……いない。でも探している。
「家族を欲しがっていますか?」
……いずれは。いまはとにかく、信頼できる恋人が欲しいみたい。
そんな調子で脳裏に浮かんだ彼女について答えていく。
そして次に友人はこう言った。「では体の中心に意識を戻していきましょう。いまその2人が会うことになりました。2人はどのようになりましたか?」
私に見えたのは、彼女が彼の部屋の中に入り、彼の手首をつかんで「外に出よう」と言うシーンだった。そしていま彼らは、多摩川の川べりを散歩をしている。
「仲が良さそうですか?」
……はい。手をつないで散歩しています。
「2人の様子はどうですか?」
……彼は久しぶりに外の空気を吸って、いい気持ちみたい。彼女は……、ほらね、って顔をしている。
「彼らは一緒に住めそうですか?」
……住めそうです。彼女は荷物がないので、今日からでも彼の家に住めそう。
「では、最後です。彼らからあなたにメッセージがあるみたい。なんと言っていますか?」
手をつないで川のほうに向かって立っていた彼らは、ふたりで一緒に振り向いて私に言った。
……自分が持っていないものを持っている人を探しなさい。
***
その後、アロママッサージを受けた。
友人が言う。「カオルさんは結婚したい、家族が欲しいと言っているのに、男性も女性も家族が欲しいと言わないのがおもしろいですね」
私はその言葉で、コンカツブログを読んでくれている人が「ホリさんさ、本当に結婚したいの?」と言ったことを思い出した。
「……私は本当に家族が欲しいのだけど、具体的なイメージは実はないのかもしれない。つまり、結婚の準備ができていないのかもしれない。 前にマイミクの女性から『怖くて開けられない箱の中に、本当に欲しいものが入っている』と言われて。箱の中に家族が入っているんじゃないかなとは思うけど、箱を開けられないから、それがどんな家族なのか知らないのかもしれない」
「興味深いですね」と友人は微笑んだ。
それから過去に妻帯者と長らく恋をしていた話もした。友人が「ご両親も離婚とか不倫とかしていましたか?」と言うので、素直にその話もした。
友人はこう言った。「子どもって、親が見本なので、親と同じ生き方を選択しがちなんです。お父さんが浮気をしていたのなら、カオルさんは自らが不倫することでお父さんの気持ちを理解しようとし、その不倫相手が帰ってしまってひとり孤独を味わうときに、家を顧みない夫を持ったカオルさんのお母さんの気持ちを味わっているんです。でも、もうご両親の人生を肩代わりするのは今日でやめましょう。カオルさんは今日から自分自身の人生を生きるんです」
帰り際、私が選んだアロマオイルはなんだったかを尋ねた。友人はオイルの名前が書いてある面を見せてくれた。そこには「Rainbow Wings」と書いてあった。
友人はにっこり笑って言った。
「カオルさんはもう虹色の羽根をゲットしたんですよ。脱出してください」