『こいいじ』
お風呂屋さんの娘、まめちゃんは、幼馴染の聡ちゃんが好き。
何度フラれても、ずっと好き。
聡ちゃんに彼女が出来ても、奥さんが出来ても、奥さんが亡くなっても…
30歳になった今でも幼馴染に叶わない片想いをし続けている女性の物語。
ぬるま湯な業の深い恋愛を絶妙なバランスで描いていく志村貴子という人は不思議な才能のある人だ、と思う。
出てくる人達が基本的に善良なので、まめちゃんのネチこくて可愛らしい片想いがいつまでも続いてしまって素晴らしい。
寂しさからついとか、大人になったらありそうなシチュエーションに陥らない天性の品の良さを主人公も片想いの相手も持ち合わせている。
主人公は家族で自営、自宅住まいで、仕事上の悩みなんかも一切出てこない。
だからといって、決して爽やかなわけではない。
好きなのだ。手に入らない。好きなのに。ずっと。
登場人物がそれぞれに自分の心の揺れ動く様をきちんと見つめて日々の生活をしているので、状況の仕方がない様がよく解ってしまう。
つい、主人公に強く肩入れするでもなく全体を見守ってしまう。
出てくる女の子達がパジャマ代わりのスウェットを着て、箒でお掃除をして、御近所さんとのお付き合いがあって。
そんな下町の中での恋愛観は、いきなりドラマチックに走らない。地に足着けてゆっくりとなんとなく酷いんだけれど本質的に優しい。
『こいいじ』志村貴子 全10巻
まめちゃんの長年の恋がどうなるのか、最後まで見てあげて欲しい。