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『龍が如く』と『探偵!ナイトスクープ』に共通する「感動と笑い」


 『龍が如く』とは


『龍が如く』は僕が愛してやまないゲームである。
東京の歌舞伎町をモデルにした「神室町」を舞台に、
裏社会を生きる人々の抗争や人間ドラマを描いた、
「大人のための」ゲーム。
裏社会での裏切りや対立をきっかけに、
大きな事件に巻き込まれる壮大なメインストーリーだけでなく
街の人たちと繰り広げられるサブストーリーも魅力で、
シリーズを通して熱狂的なファンがたくさんいる。
原作ゲームから着想を得た実写ドラマが
Prime Video で配信されるなど、今注目されている。

今年1月に発売された『龍が如く8』は、
シリーズ初の海外「ハワイ」が舞台。
「龍が如く7 光と闇の行方」の主人公・春日一番と、
シリーズを象徴する存在である桐生一馬のW主人公。
発売から1週間で全世界累計販売本数100万本を達成するなど、
シリーズトップクラスの完成度と評されている。

僕はメインストーリークリアまでに100時間以上費やした。
ミニゲームなどのプレイスポットが充実しており、
時間を忘れて楽しめる大作である。

特にお気に入りだったのがサブストーリー。
過去作同様、街中で出会った人との会話の中で
起こった問題を解決する、
短めのイベントが52個も用意されている。
その中でも『スノースマイル』というサブストーリーは圧巻だった。

歴代のどのサブストーリーと比べても、
頭ひとつ抜けているクオリティである。

このストーリーの魅力は、
エモいというような言葉で片付けられるものではない。
なぜ『スノースマイル』は素晴らしいのか、
自分の中で思いを巡らせているうちに、ある一つの答えに辿りついた。

このサブストーリーは『探偵!ナイトスクープ』であり、
関西人になじみ深いエッセンスがふんだんに注ぎ込まれているのだ。
『龍が如く』と『探偵!ナイトスクープ』の共通点を
3つのポイントから考えたい。

※以下、『龍が如く8』のネタバレを含みます。
※『龍が如く8』の主人公・春日一番について、
「一番」と呼ぶ方が馴染みがありますが、
「一番」と「1番」を混同しそうなので、
このnoteでは「春日」と呼ぶことにします。

『龍が如く』サブストーリー史上NO.1の名作『スノースマイル』

春日がハワイの街を歩いていると、
老人が大盛りかき氷の「氷のみ」を注文し、
空高く投げ上げて頭から被っている様子を目にする。

かき氷店の店員からは「大事な商品で遊んで欲しくない」と叱られ、
「遊びなんかじゃないんだ」と言い返す老人。
反論虚しく、周辺のかき氷屋を出禁になり、頭を垂れている様子の老人に
春日は声を掛け、話を聞くことにする。

老人の名はオーランド。
彼がかき氷を買っていた理由は、
妻・エリーのために「雪を降らせること」だった。
雪は寝たきりになっているエリーとの大切な思い出だという。

新婚旅行で日本に行ったオーランドとエリー。
そのときに見た雪景色は絶景だった。
結婚後は家族のために働いたオーランド、
仕事が忙しく旅行には行けない日々が続いた。
退職し、2人の時間を過ごそうと思った矢先、
エリーが倒れた。
旅行に行くどころか、弱々しくなっていくエリー。
会話もできない寝たきりのエリーがつぶやいた言葉が
「あなたともう一度雪を見たい」だった。

心を打たれた春日は、
オーランドに協力することを約束する。

協力するといったものの、解決方法に悩む春日。
ハワイの街を歩いていると、
ショッピングモールのエスカレーターを転がる
一台のベビーカーを目にする。

エスカレーターを滑り落ち、転がっていくベビーカーを追う春日。
やっとの思いで追いついたベビーカーを覗くと、
そこに乗っていたのは、過去作にも登場した、
権田原組の組長・権田原進だった。
赤ちゃんプレイが趣味でおむつ一丁のイロモノのキャラである。

組総出でハワイ旅行に来ていた権田原。
春日を誘拐犯と勘違いした、
おむつ一丁の組員たちに襲われるハプニングもあったものの、
命の恩人であると感謝される。

勘違いで襲ってしまった春日に
権田原は「詫びミルク」を振る舞うことにする。
しかし、近くにミルクを売っている店はなく、
仕方なく近くのかき氷屋で練乳をもらうことにする。

そこにいたのは、またしても氷を求めたオーランド。
あいかわらず氷のみを注文し煙たがられていたが、
以前会ったときより深刻そうな様子。
春日と権田原はかき氷を食べながら詳しく話を聞くことに。

どうやら、「今夜が山だから覚悟をするように」と
医者から宣告されたようで、
エリーに雪を見せるためには
もう目の前で氷を削ることしかできないのでは、と嘆いていたのだ。
タイムリミットは迫っているが、良いアイデアが浮かばない3人。
やるせなさを感じた春日は、かき氷の空の容器を地面に叩きつける。
すると、オーランドは地面にキラキラした雪のようなものを見つける。

先ほどの春日と組員の乱闘騒ぎで、
組員の履いていたおむつが破れ、地面に散乱していたのだろう。
おむつの吸収剤と、空き容器に残っていた水分が反応し、
雪のように輝いていたのだ。

これは使えるのではないかと気づく3人。
権田原は赤ちゃんプレイを楽しむために、
大量のオムツをハワイに持ってきていた。
春日と権田原は、オーランドの妻に、きれいな雪を見せる約束をする。

その夜、自宅にもどったオーランド。
元気なくベッドで横になるエリーに、日本から来た春日の話をする。
オーランドの話を笑わず、力になると言ってくれた春日を
「王子様のような存在だ」と紹介する。

話す体力も残っていない妻に、
これまで仕事を優先し、寂しい思いをさせてきたと振り返り、
エリーにとって自分は王子に程遠い存在だったと詫びるオーランド。

立ち上がり窓を開けようとしたとき、
エリーが口を開く。

「…あなたは、素敵な私の、王子様、ですよ
 今も昔も、ずっとね」

仕事に明け暮れた日々の中でも妻を思う優しさ、
そして、今も妻のために頑張っている姿にエリーは気づいていたのだ。

お互いの気持ちを再確認し、夫婦の想いが通じ合ったそのとき、
窓から白い雪が舞い込んでくる。

真夏のハワイに雪を降らせる春日と権田原組。
屋根の上から、オーランドのために
2人だけの時間を作り出す。


日本で見た雪を思い出す2人。
他に欲しいものはないかと尋ねるオーランドに、
エリーは最期のメッセージを伝える。


『探偵!ナイトスクープ』とは

1988年から朝日放送テレビで放送されている長寿番組。
視聴者から寄せられた依頼に基づき探偵を派遣し、
謎の解決や夢の実現等を手助けするというもの。
間寛平や石田靖といったベテランや
霜降り明星・せいや、カベポスター永見といった勢いのある若手など、
タレントが探偵として、依頼者に寄り添い依頼を解決する、
関西では知らない人のいない番組である。
バカバカしく笑えて、時に泣ける。
先日亡くなられた2代目局長の西田敏行さんが、
VTR終わりで涙を流していることも多かった。

笑って泣ける、10分ほどの短いストーリー。
『スノースマイル』にはナイトスクープの要素が多く入っている。

『龍が如く』と『探偵!ナイトスクープ』の共通点

1.依頼者を笑いものにするのではなく、寄り添う姿勢

『スノースマイル』のオーランドは、
ストーリーの冒頭でかき氷を頭からかぶり、
店員や周囲から白い目で見られている。
春日一番は決して茶化したりはしない。
なにか理由があるはずだと声をかけ話を聞く。

ナイトスクープの依頼者に最も必要なものは熱量である。

依頼者は自分の依頼に対して真っ直ぐでなくてはいけない。
「私の依頼なんかにここまでしてもらうなんて」
と遠慮するのではなく、
探偵がブレーキをかけなくてはいけないほど
暴走してしまう依頼者の方が、
見ている側も応援したくなるものである。

周囲の目を気にせず、ありのままの姿であること。
テレビだからこんな感じに演じてみよう、とか
大袈裟にリアクションしたりすると、
探偵もプロなので、これは心から願っている依頼ではないんじゃないか?
テレビに出るためにとりあえず書いた依頼なんじゃないか?
という風に、信頼関係を揺るがすことにもなる。

『スノースマイル』の場合、
オーランドは、妻に雪を見せたい一心で街中でかき氷を被る、
言ってみれば少し危ない人である。

春日はオーランドを敬遠するのではなく、
なにか理由があるのではないかとじっくり話を聞く。

オーランドの先ほどの奇行には全て理由があり、
彼の人間性や優しさが詰まっている。

春日がオーランドに協力したのは、
彼の真っ直ぐさに共感したからだろうし、
ストーリーが進むうちに、権田原組が協力したり、
見ている我々がオーランドを応援したくなるのは、
探偵役である春日の、人に寄り添う姿勢があったからである。

『スノースマイル』の春日とオーランドの関係は
ナイトスクープの探偵と依頼者の理想の形になっているのである。

2.正攻法ではない、どこかばかばかしい解決法

『スノースマイル』は、雪が見たい老夫婦に
「おむつで雪を降らせる」話である。
雪を見せる方法史上、一番ばかげていて、
かつ斬新な方法である。

『探偵!ナイトスクープ』は、一風変わった
「普通ではない」解決法が持ち味である。

「19歳の娘と4年間会話をしていない父」という依頼があった。
口喧嘩が原因で娘と話せなくなったという41歳の男性。
単なる父娘の意地の張り合いにも思えるが、
父は「一言目が出ない」「何を話せばいいかわからない」と言う。
この難題を解決した、カベポスター・永見探偵は
「娘さんが話しかけざるを得ない状況を作ればいい」と提案。
顔を白く塗り、全身タイツを着て
部屋に入ってくる娘を
「オバケのQ太郎のメイク」で待ち受けるという方法を計画した。
しかしこれだけでは終わらない。

父に内緒で娘にも話を聞いた永見探偵。
父の印象を聞くと、怖くてなんと話しかければ良いか
わからない、とのこと。
親子で同じことを悩んでいたのだ。
そんな娘に、永見探偵は
「お父さんが話しかけざるを得ない状況を作ればいい」
という理由で、オバQメイクで父の待つ部屋に入るという提案をする。

オバQメイクで待つ父のいる部屋に、オバQメイクで入る娘。
自分だけがオバQだと思っていた2匹のオバQは、
顔を合わせた瞬間、思わず笑ってしまう。
対面した瞬間から笑顔の2人は徐々に打ち解けていく。

話すうちにすれ違いを振り返り、涙を流す2匹のオバQ。
普通の番組ならまず双方の意見を聞いて、
第三者が間に入り、厳かな雰囲気で対面していただろうが、
「笑い」が2人の間に入ることで、
「感動」を生み出したのである。

ナイトスクープの「ダブルオバQ」にも、
龍が如くの「おむつで雪を降らせる」にも共通しているのが、
いろんな解決方法からバカげたものを選んだのではなく、
最適解が「バカげた解決法」だったことである。

『ナイトスクープ』の方は、
対面した時に黙ってしまうだろう2人に
話のきっかけをつくるにはどうしたら良いかの最適解であるし、
『スノースマイル』の方は、
ハワイで妻に雪を見せるための最適解だった。

さらに、2人の「探偵」の人間性も出ている。
ナイトスクープの永見探偵の解決法は、
落ち着いていながらも、角度のついた大喜利を得意とする
彼らしさのある作戦だし、
春日一番の解決法は、彼の親切心と人を集める能力、
そして体を張った方法になっていた。

一見バカげているだけの方法だが、
最適解で、その探偵でしかできない
理由のある方法になっているのだ。


3.感動のあと、最後は笑えるストーリー

『スノースマイル』は、
妻に雪を見せ、約束を果たした感動のラストかと思いきや、
おむつが無くなり、履いていたおむつまで投げ、
裸で横たわる屋根の上の一同で終わる。
感動的なVTRも最後は笑って締める。
「ちゃちゃちゃん」という効果音が聞こえてきそうな
理想のラストである。

ラストシーンではない。
『スノースマイル』には感動と笑いが行き来する
細かな工夫が込められている。
部屋の中で最期の会話をする老夫婦と、
屋根の上でおむつ一丁で雪を降らせる男性たちの
2つのシーンが切り替わる。
そのなかで一度だけ、屋根の上の春日たちから
パンダウン(上から下にカメラを降りおろす)し、
窓からオーランドの背中が映るシーンがある。
静と動でかけ離れていた2つの場面がつながる瞬間。
この構図には、テレビ番組をつくっているものとして
シビれる演出だと感動した。

『スノースマイル』はストーリー、演出、どれをとっても
すばらしいサブストーリーだった。
龍が如くスタジオのみなさんがナイトスクープをご存知かはわからないが、
関西人として、このサブストーリーは感動・笑いとともに、
忘れていた関西の懐かしさも感じた。


最後に


ナイトスクープの探偵に求められるのは、
人に寄り添う姿勢と、
バカげたことにも全力で立ち向かう人間性である。

春日一番は探偵としても超一流である。
龍が如くシリーズの『JUDGE EYES:死神の遺言』のように、
探偵に転身した春日一番も、一度見てみたい。

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