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50代の母の推しが「山﨑賢人」から「木浪聖也」に変わっていた
阪神タイガースの新監督に藤川球児が就任し、昨日会見を行った。
岡田監督から引き継いだことに対する思いや、
監督としての野球観を語っていたが、
強化すべき点として「ベテラン選手の力」を挙げていたのが印象的だった。
かつてベテランしかいないと言われていた阪神。
40歳を過ぎた福留がセンターを守っていたのは過去の話。
ここ5年くらいの鳥谷、能見、糸井らの退団で急速に若返りが進み、
現在は33歳の西勇輝が最年長である。
いまの阪神の年齢層でベテランに当てはまるとすれば
岩崎、梅野、原口、岩貞といった選手たちだろう。
そして、来季31歳の木浪もベテランの域に差しかかっている。
木浪聖也は社会人を経て、2019年に阪神に入団。
オープン戦から巧みなバット捌きで結果を残し、
1年目は主にショートとして113試合に出場。
そのままレギュラーに定着するかと思われた。
しかし、2021年に入団した中野が
ルーキーながら盗塁王を獲得する活躍をみせると、
そこから徐々に出場機会を減らし、
2022年のショートでの起用はわずか7試合に終わった。
2022年オフ。
矢野監督が退任し、2005年以来の優勝に向けて岡田監督が就任する。
岡田監督は、日本代表に選ばれるまでになっていた中野の、
セカンドへのコンバートを明言する。
木浪にとっては思わぬ形でチャンスが回ってきた。
2023年。
開幕スタメンこそ、期待の若手・小幡に奪われた木浪だったが、
4月初旬から「8番・遊撃手」として定着。
満塁での勝負強さが光り、127試合に出場。
『恐怖の8番打者』として日本一に貢献し、
自身初のベストナイン・ゴールデングラブ賞に輝いた。
キャリアハイの成績を残したことで、木浪のファンも急増。
それに比例して、タイガースショップも
多くの木浪グッズで溢れていた。
木浪の活躍によって加速したものがもう一つある。
50代を迎えた僕の母の「木浪推し」である。
昔から阪神ファンだった我が家。
2003年の優勝当時、4歳の僕が桧山のユニフォームを着て
両親に抱かれている写真が残っている。
幼少期から、毎年夏に野球観戦に行くのが恒例だった。
母は野球のルールをしっかり理解していない、桧山の顔ファンだった。
母にとってはピッチャーが完封するよりも、
代打で桧山が出てくる方が重要だった。
暗黒時代を支え、2度の優勝に導いた『代打の神様』桧山も、
2013年、ミコライオからポール際に
劇的なホームランを放ったのを最後に引退。
母は野球中継よりも『おはよう朝日です』を追いかけるようになっていた。
そんなが母が、タイガースで久々に見つけた推しが木浪である。
桧山引退後、俳優の山﨑賢人を追いかけるようになっていた母。
それまで長らく山﨑賢人の写真だった母のLINEのアイコンが、
バッターボックスに立つ木浪の写真になっていた。
いつか山﨑賢人に会ったときのために、
山﨑賢人の出演している映画を全て見に行っていた母。
原作未読でジョジョの実写映画を見に行って、半分以上目を瞑っていた母。
『orange-オレンジ-』を観てから、うっすら土屋太鳳を嫌いな母。
そんな母のLINEのアイコンが木浪聖也に変わっていた。
「代打の神様」→「実写映画の申し子」→「恐怖の8番打者」という
母の推し遍歴3連発。
これには槙原もびっくりである。
2024年。
2年連続の優勝を見届けようと意気込んだ母。
前年日本一になったことでチケットが取りづらくなるなか、
7月21日、日曜日の甲子園での試合のチケットを確保した我が家。
日本シリーズ以来の観戦ということもあり、
母は数ヶ月前から木浪をこの目で見られることを楽しみにしていた。
インターネットでタオルやユニフォームを買い、万全の体制を整える母。
しかしそんな母のことなど知らない木浪。
6月の交流戦で負傷交代。左肩甲骨骨折が判明した。
この状態ではおそらく7月末の試合には間に合わないだろう。
母は木浪が怪我をした日の夜、枕を涙で濡らしたという。
おそらく木浪本人の母より泣いていただろう。
落胆する母とは対照的に、
控えに甘んじていた小幡が攻守で活躍を見せていた。
7月中旬、我が家にあるニュースが飛び込んでくる。
木浪に代わって出場を続けていた小幡が、
17日の巨人戦で左太もも裏を負傷。
19日の広島戦からは、怪我からの調整をしていた木浪が緊急で昇格し、
スタメンで出場することとなった。
昨日までは「鳴尾浜で調整している木浪くんをなんとか覗けないのか」
と父に相談していた母。
小幡の負傷に対しては気の毒に思いながらも、
木浪との運命の出会いに胸を躍らせ、甲子園へ向かった。
その日の試合はというと、
開幕直後は不振だった打線が嘘のようにつながり12対3で快勝。
木浪もタイムリーヒットを放つ活躍を見せた。
ドラマのような展開を味わった母の「木浪熱」はより強いものとなった。
2024年シーズン、阪神は終盤まで首位争いを演じながらも2位に終わり、
クライマックスシリーズも3位ベイスターズに連敗。
木浪も打率.214と前年より成績を落とした。
ベテランの域に入りつつある来シーズンの木浪。
今季の不振もあり、
来季は若手との定位置争いになると予想される。
藤川新監督の下で、木浪は活躍できるだろうか。
そして木浪のグッズは作られ続けるだろうか。
母の推し活は来季も継続できるだろうか。
梅田の阪神百貨店1階、
タイガースショップのビジョンに映る木浪に、
母のためにも頑張ってくれ、と野次を飛ばした。