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poem1948
暖かい冬の昼食に十割蕎麦
冬の昼下がり、穏やかな陽気に背中を押されて、近所の小さな蕎麦屋へ足を向けた。カウンターだけの店は、間接照明と木の香りの静かな空気に満ちている。今日は奮発して、十割そばのざると辛味大根を頼むことにした。この店は、粗めに切られた蕎麦が特徴で、今朝ふと頭に浮かぶと、何故か無性に食べたくなったのだ。
そば茶を飲みながら、抑揚をつけ且つ無駄はなく、頭に手拭いを巻いた大将の動きを観て茹で上がるのを待つ。これぞ職人技。運ばれてきた蕎麦は、太さも形も少しずつ違い、手打ちならではの味わいを感じさせる。先ずはつゆをつけずにすり下ろしたワサビだけ乗せて三口食べる。鼻に抜ける清涼感と蕎麦のコシが良い塩梅。次に辛味大根をつゆに溶き、蕎麦をくぐらせると、大根の鋭い辛さが舌を刺激し、蕎麦の香りと甘みを引き立てた。
一口ごとに心がほどけていくようだった。落ち着いた店内から外の陽ざしを感じ、そば湯をゆっくり飲み干す。ふと肩の力が抜け、背筋を伸ばして店を出る。冬の空気は、まだ少し春の気配を隠しているようだった。
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