最近読んで良かった本1選/なぜ『白鯨』を読んだのか
ブンブンハロー。僕が最近読んだ本を紹介します。なぜ1選なのかというと、単純にここ最近で読んだ本がそれしかないからです。
その本が、これ。
『白鯨』 / メルヴィル
『白鯨』を読みました。岩波文庫版で、上・中・下通して読むのに1ヶ月くらいかかりました。結構読みやすくはあるんですが、単純に長いのと、僕の読むスピードが遅いこともありかなり長い間捕鯨船の上にいるという読書経験をしました。
『白鯨』という小説の名前を知っているという人は結構多いのではないかと思います。読んだことがなくても、他の作品に引用されていたり、オマージュされていたりといったことがよくされている印象があります。細田守監督の映画とか。
その知名度に反して、『白鯨』という小説を読んだことがある人、読んだことがなくてもそのあらすじや内容を知っているという人はかなり少ないのではないかと思います。僕もずっと名前を知っていたけど、内容にまで興味が及ばず、うっすらと「たぶん鯨の漁に出る話なんだろうな」くらいにしか思っていませんでした。
じゃあなぜ僕がこの小説に興味を持ち、1ヶ月にかけて読むに至ったのかというと、かなり明確な理由があります。なんか面白そうとか、知ってるからではなく、もう情報から入りました。食べログでレビューの点数が高い店にラーメンを食べに行くように、あらかじめこんな小説を読みたいと思ったところにピッタリ当てはまる小説がこの『白鯨』でした。
「人生」を描いた小説
この『白鯨』を読む前に僕がハマっていた小説家がいます。それは誰かというと、『ホテル・ニューハンプシャー』や『ガープの世界』で有名なジョン・アーヴィングです。
関係ないけど、『グランド・ブダペスト・ホテル』とか、ホテルが舞台の作品にハズレがない気がする。
そんなことは置いておいて、ジョン・アーヴィングがどんな小説家かというと、「人生」を書き切る小説家だと思っています。『ホテル・ニューハンプシャー』なら、主人公が子供の頃から始まり、父親のホテル経営の夢を巡り、大人になるまで長大な物語の中で時間が確かに進行していきます。僕がそれまで読んできた小説はどちらかというと話の時間軸が短い小説が多かったので、かなりの衝撃を受けました。
ジョン・アーヴィングは古典的な手法を用いて小説を書く小説家であり、時間軸が短い小説のほうが時代の流れとしては新しい小説に分類されます。しかし、最近の若者が「昭和レトロ」などといって昔のものを逆に新鮮に感じる現象と同じで、新しい手法の小説に慣れてしまっていた僕にとってアーヴィングの小説はとても新鮮に映りました。
(ちなみに、アーヴィングは古典的な手法を用いて小説を書きますが、今もご存命のれっきとした現代の小説家です。)
そのような「人生」を書くというスケールの大きさに魅了された僕は、そのようなスケールの大きさを書いている小説は他にないのかと調べた結果、『白鯨』にたどり着きました。
「世界」を書く小説
「人生」を書いた小説では飽き足らず、さらに長大でスケールの大きい物語を求めて、僕は「世界」を書いた小説を読みたいと思うようになりました。そういう小説はいくつかあります。
リチャード・パワーズのこの小説は、「森」を通して「世界」を描いています。これは最近買ったけどまだ読んでいなくて、時間がまとめて取れるときに読む予定です。
トマス・ピンチョンの『重力の虹』は、「ロケット」を通して「世界」を描いている小説です。かなり長く難解な小説で、「読破した人よりも、ドアストッパーにしている人のほうが多い」と言われています。
こういった小説がある中で、まずは『白鯨』を読むことにしました。他の小説よりも前に書かれた小説であることから難解すぎないだろうと思ったからです。
で、そもそも「世界」を書くということがどういうことを意味しているのかについてですが、昔話をイメージするとわかりやすいと思います。
昔話では、子供でもわかるように、守るべき行動規範などの抽象的な物事を物語という具体的な形に変換しています。「このように、~~なものは、~~なのだ」と締めくくられる話は、物語→行動規範という理解を促す文言になっています。
『白鯨』は、乱暴に言ってしまうと、鯨についての説明と、捕鯨船を舞台に繰り広げられる物語によって「世界」という抽象的な物事を具体化した昔話的なものの寄せ集めです。脱線が多く、正直退屈なところがありますが、それでもこの小説が面白いと感じるのは、「世界」を「捕鯨」で全部例えてみる、という規格外の試みと、それが実現されていることに起因するのではないかと思います。そのような小説を書こうと考えた時点ですでに勝負に勝っている。そんな小説だと感じました。まあ書こうと思って書けるような小説ではないけど。
どうしてこの本を読んだのかということばかり書いて、この本自体の感想を全然書いてないですが、この記事はここらへんで終わります。もしメルヴィルが描いた「世界」に興味を持たれましたら、ぜひ読んでみてください。
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