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飛行機の離陸と共に、スマートフォン入れた音楽がランダムに再生され デヴィッドボウイのスターマンが 微かに聴こえる様に流れた

羽田を飛び立った直後 沿岸のガスタンクや工業地帯が小さくなるにつれ、 僕の心は現実から離れて逝く 

そして想いに耽るのはいつだって そう

あの頃の事だ。 



34、5年くらい前だろうか

小学校4年生時代に一人の男と出会った

地域では比較的裕福でいつも朝の登下校の際に
彼の家の門扉を開け、玄関を開け名前を呼んだ 

そんな時代だった 


『 木内く〜ん おはよ〜 』

開けるといつも トーストの焼ける良い匂いに
静かな音で クラシックが流れていた 

いつも僕が玄関を少し開けて待ってると

木内の父親が
『 おはよう、紅茶飲んで待ってたら?』

『 はい、ありがとう御座います』

父親はいつも深いネイビーのスーツを綺麗に着こなし 髪をポマードでオールバックにしていた 

今でもあのポマードの匂いは思い出せる 

そして広い玄関に置かれた椅子に腰を掛けて
磨き抜かれた美しい茶の靴に足を通し
鈍く光る銀色のライオンの頭をモチーフにした靴べらで静かに靴を履き紐を結ぶ 

そして

『 今日は良い日になると良いね お先に 』

と云うと同時に玄関の門の前に靴と同じ様に磨き抜かれた黒い車がいつも着けられ
白い手袋をした、彼と同じ様に紳士的で穏やかで 判るか判らないかくらいの笑みを僕と父親に向けて投げかけ 微かな会釈をし

彼を車に招き入れ、静かに穏やかに
車は出て行く 

それは毎日 太陽が登り暮れて行くのと同じ様に 

まるで自然に、小学生の僕げ何も不自然さを感じる事も無く当たり前に繰り返された。 

全てはそうで有る事が最初から決まっていた様に。 

そして 腰にいつも綺麗なエプロンを掛けた
今思えば30代半ばくらいの綺麗なお手伝いさんが玄関に有る 文庫本一冊置ける程度の小さなテーブルに砂糖が2杯入った紅茶に少しだけ生クリームを浮かべたミルクティーを 小さなウエッジウッドのカップに乗せ置いて行く 

そしてまた 微かな笑みを浮かべ、会釈をし
静かに奥に帰って行く 

それを飲み終わる頃 木内は穏やかないつも通りの笑顔で 静かに階段を降りながら云う

『 かぁくん、おはよう 』

僕は こね木内の挨拶が好きだった 

まるで時間の流れが木内の家だけ違う様な錯覚を憶える様な 仕上げの挨拶 


そして いつもゆっくりと登下校の間 

木内は星の話しや、月の話し 音楽の話し

僕はファーブル昆虫記や、日本の歴史や、
好きだった江戸川乱歩、怪盗ルパンやホームズ、色々な読んだ本の話をした。 


いつも ウンウンと静かに聴いて居た木内が登校途中に突然

『 今日 隣街の図書館にこれから行かない? 』

『 えっ⁉︎ 学校は?』

『 今日は学校はいいよ、図書館行こう ね?』

木内からそんな事を言われた事も無かったが

『 どうしても図書館に行きたいんだ 』

いつも穏やかな木内がそんなに何かを僕に頼む事は今まで無かった 

『 じゃあ 公園のいつもの木の上にランドセル置いて行こう 】

木内は 穏やかな笑顔で

『 かぁくん ありがとう…』と行った。

公園にはいつも僕が登る気が有った

高学年も途中までしか登れない、公園のシンボルツリーだった

その公園に僕たちは走って行き 

自分のランドセルを先に上に掛け、また降りて木内のランドセルを背負い また一番上まで登り掛けた。 

降りて来て 手を流し場で洗って居た時に 木内は僕に声をかけた

『 僕は かぁくんが木に登るのをいつも観ていて 魔法みたいだなっていつも思うんだ 』

『 そんな事無いよ 木内くんにも出来るよ 』

すると木内は 

『 かぁくんだから出来るんだよ、誰もそこまでは登れない いつだってかぁくんは解って居ないんだ 自分の事が 』

僕は何も応え無いまま 図書館に向かった

そしてまた 木内は宇宙の話し、僕は最近観た映画の話しをしながら向かった。 


そして 図書館に到着したが

それはいつも近所に有った図書館の数倍は有る大きさで、本が好きだった僕の胸は学校を休んだドキドキと、どんな本が有るのかと云うドキドキが凄かったのを今もなんと無く憶えて居る


綺麗に磨かれた自動ドアが音も無く開き 

木内が言った 

『 どうしても かぁくんと来たかったんだよ 』

つづく

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