労働災害と業務上疾病
労働災害とは何ですか?
労働災害とは、労働安全衛生法第2条第1項第1号に「労働者の就業に係る建設物、設備、原材料、ガス、蒸気、粉じん等により、又は作業行動その他業務に起因して、労働者が負傷し、疾病にかかり、又は死亡すること」と定義されています。一般に、労働災害のうち、労働者の負傷を防ぐことを「安全」、疾病を防ぐことを「衛生」と呼びます。労働災害は、被災した状況により、業務災害と通勤災害に分けられます。
労災による休業4日以上の死傷者数、死亡数の推移はどうなっていますか?
労働災害に被災し休業4日以上になった死傷病者数は、ここ数年若干増加してきており、令和4年では、132,355人でした。そのうち、死亡者数は減少してきており、774人でした。
業務災害とは何ですか?
業務災害とは、労働者の業務上の負傷、疾病、障害又は死亡をいい、業務と傷病等との間に一定の因果関係があるものをいいます。
この業務災害に対して保険給付を行う場合には、さらに、労働者が労災保険が適用される事業場(法人・個人を問わず一般に労働者が使用される事業は、適用事業となります。)と、労働者が労働関係のもとにあった場合に起きた災害でなければなりません。業務災害と認定されるには、業務遂行性および業務起因性の両方がる必要があります。
業務遂行性:社内もしくは社外で業務を遂行している、業務中以外でも会社の管理下にある
業務起因性:業務中の行為が原因となって発生した労災で、発生した労働災害の原因と業務内容とに因果関係があるかどうか
通勤災害とは何ですか?
通勤災害とは、労働者が通勤により被った負傷、疾病、障害又は死亡を言います。この場合の「通勤」とは、就業に関し、次に掲げる移動を、
(1)住居と就業の場所との間の往復
(2)就業の場所から他の就業の場所への移動
(3)住居と就業の場所との間の往復に先行し、又は後続する住居間の移動
合理的な経路及び方法により行うことをいい、業務の性質を有するものを除くものとされていますが、移動の経路を逸脱し、又は移動を中断した場合には、逸脱又は中断の間及びその後の移動は「通勤」とはなりません。ただし、逸脱又は中断が日常生活上必要な行為であって、厚生労働省令で定めるやむを得ない事由により行うための最小限度のものである場合は、逸脱又は中断の間を除き「通勤」となります。このように、通勤災害とされるためには、その前提として、労働者の就業に関する移動が労災保険法における通勤の要件を満たしている必要があります。
業務上疾病とは何ですか?
業務上疾病とは、労働条件や環境など職業上の業務に起因する病気のことです。医学では「職業性疾病」と呼ばれます。一般的に、職業病と呼ばれることがあります。同じ職業上の業務に起因する疾病であっても、突発的な事故によるものを災害性疾病と呼び、有害因子の長期間にわたる暴露によって生じる業務上疾病と区別します。業務との間に相当因果関係が認められる場合にはじめて業務上の疾病として取り扱われるべきものです。業務上疾病の範囲と分類については、労働基準法施行規則別表第1の2に記載されています。近年では、過重な仕事が原因で発症した脳・心臓疾患や、仕事による強いストレスなどが原因で発病した精神障害が、業務上の疾病として注目されています。
参考:https://www.mhlw.go.jp/content/11201000/000362486.pdf
脳・心臓疾患の労災認定基準は、どのように改正されましたか?
長期間の過重業務を認定する基準として、労働時間と労働時間以外の付加要因を総合して評価することが明確化されました。労働時間以外の負荷要因として、勤務間インターバルが短い業務、身体的負荷が伴う業務が追加されました。短期間の過重業務・異常な出来事の過重業務を認定する基準として、「発症前おおむね1週間に継続して深夜時間帯に及ぶ時間外労働を行うなど過度の長時間労働が認められる場合」など業務と発症との関連性が強いと判断できる場合が明確化されました。
参考:脳・心臓疾患の労災認定基準 改正に関する4つのポイント
https://www.mhlw.go.jp/content/000833810.pdf
業務上疾病の動向はどのようになっていますか?
令和4年の休業4日以上の業務上疾病者数は9,506人で、徐々に増加しています。疾病分類別だと負傷に起因する疾病が圧倒的に多く7,081人で、この中でも、災害性腰痛が5,959人で、業務上の負傷に起因する疾病のうち8割を占めています。次に多いのが、異常温度や異常気圧下などの物理的因子による疾病で1,115人となっており、このなかでも熱中症が827人で4分の3を占めています。作業様態に起因する疾病が539人、化学物質による疾病が255人。じん肺は徐々に減っており、120人になっています。
業務上疾病の労災保険給付支給決定件数としては、かつてはじん肺と振動障害が二大職業病でしたが、両者は大幅に減少しています。2012年以降、上肢障害が1位になっていますが、令和3年度の集計によると、石綿関連の肺がん、中皮腫、石綿肺等を合計すると1012件で、上肢障害の922件を上回ります。精神障害も増加を続けており、中皮腫単独を上回って2位の629件になっています。脳・心臓疾患の労災認定基準は2021年9月に20年ぶりに改訂されましたが、認定件数は、減少傾向で172件でした。
労災保険はどのような場合に支払われますか?
労災保険とは、業務上の事由または通勤による労働者の負傷・疾病・障害または死亡に対して労働者やその遺族のために、療養給付や休業補償などの必要な保険給付を行う制度です。労働災害が発生した場合、事業主は、労働基準法(以下「労基法」)第75条により補償責任を負わねばなりません。しかし、労働者災害補償保険法第12条による労災保険による給付が行われると、労基法第84条により給付の範囲で、事業主は労基法上の補償責任を免れます。労働災害によって労働者が休業する際の休業1~3日目の休業補償は、労災保険から給付されないため、平均賃金の60%以上を労基法に基づいて事業主が直接労働者に支払う必要があります。
【業務上疾病に関する関係法令】
○労働基準法(昭和22年法律第49号)(抄)
〔療養補償〕
第75条 労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかった場合においては、使用者は、その費用で必要な療養を行い、又は必要な療養の費用を負担しなければならない。(2) 前項に規定する業務上の疾病及び療養の範囲は、厚生労働省令で定める。
〔他の法律との関係〕
第84条 この法律に規定する災害補償の事由について、労働者災害補償保険法(昭和22年法律第50号)又は厚生労働省令で指定する法令に基づいてこの法律の災害補償に相当する給付が行われるべきものである場合においては、使用者は、補償の責を免れる。
(第2項 略)
○労働者災害補償保険法(昭和22年法律第50号)(抄)
〔業務災害に関する保険給付の種類等〕
第12条の8 (第1項 略)(2) 前項の保険給付(傷病補償年金及び介護補償給付を除く。)は、労働基準法第75条から第77条まで、第79条及び第80条に規定する災害補償の事由が生じた場合に、補償を受けるべき労働者若しくは遺族又は葬祭を行う者に対し、その請求に基づいて行う。
(第3項以下 略)
○労働基準法施行規則(昭和22年厚生省令第23号)(抄)
第35条 法第75条第2項の規定による業務上の疾病は、別表第1の2に掲げる疾病とする。
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