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セーターが編めるようになりたい
私が編み物をいざやってみようと思って、実行したのが、一昨年の冬でした。
私は、天然の素材で作られた衣類、特にウールで編み込まれたものが大好きです。
太いウールの毛糸で編み込まれたものは、身体を保温してくれて、とても幸福な安心感で満たしてくれます。
社会人になってからというもの、太いウールの糸できれいに手編みされたものを毎年、1枚と決め収集し、冬の間中着続けています。
私は、じっと物事を観察するクセがあります。
セーターも例のごとく、ある日じっと観察しておりました。すると、同じ編み目の繰り返しであったので、これは思いの外簡単にできるのではないかと考えるようになりました。でも、それではいざやってみよう、という気にはなりませんでした。
NHKで「猫のしっぽ カエルの手」という番組があります。その番組は、多くの方がご存知のことと思いますが、ベニシアさんというイギリス出身の京都の大原に住む女性が、非常にナチュラルな手作りの田舎生活を送っている様子を写したものです。
このベニシアさんのとても素敵な、古民家での生活は、都会での暮らしに疲れた人たちに癒しを与え、田舎に移住する一大ブームを巻き起こしたといっても過言ではありません。
そして、ベニシアさんが、京都の知恩寺の手作り市にて梅村マルティナさんという方の編まれたニットを選んでいる放送を観て、そのニットのカラフルな毛糸の色に、たちまち虜になってしまいました。
さらに、私は洋裁をしますので、NHKの「すてきにハンドメイド」という番組をたまに見るようにしています。一昨年の冬、梅村マルティナさんがその番組に出演され、「ななめかごめ編みのネックウォーマー」を紹介されていました。それがいとも簡単に編み出せるように私には思えてしまいました。
そうして私は、編み物の世界に少し身を投じることにしました。
早速、近所の洋裁店に向かい、材料を購入しようと思いましたが、要るものをメモして行ったものの、どれがどれだがさっぱり分かりません。
お店の方に伺いましたところ、すべて取り揃えて下さいましたが、ド素人であることがばればれだったのでしょう。
「ひとりで、大丈夫?できる?」
と、心配下さいました。
私は、とても自慢できることではないのですが、器用貧乏です。コツさえつかめば、出世できないだけで、器用にこなせる方です。しかし、そこまで心配されると、こちらまで心配になりました。
「棒編みの棒すら握ったことがないのですが、輪棒編みに挑戦しても大丈夫でしょうか?」
「最初っから、輪棒編みはねぇ、ちょっとねぇ。普通は、棒針編みからなの。輪棒編みは、初心者がワッカにするのが難しいの。材料は、今度にして、うちで500円の初心者のレッスンやってるから、それ受けてからにしてみたら?」
とのことでしたので、薦められるままに、初心者のレッスンを受けることになりました。
いざレッスンを受けにいくと、生徒は、私とおばあちゃんの二人だけで、おばあちゃんはカギ針編みでした。
おばあちゃんは、しばらくしていなかったけれど、していたときの感覚を取り戻すために、習いに来られたとのことでした。
レッスンが始まって少しすると、おばあちゃんが私のお気に入りのペルー製の黄色の手編みセーターを興味深げにというよりも、欲しそうに見つめておられました。
「あなた、それ自分で作ったの?」
「えぇぇ!?いえ、こういうのが作りたくて習いに来てます」
内心、こんなにできたら、初心者レッスンには絶対来ないよ、と思いました。
いざ、私へのレッスンになると、講師の方は私に編み棒と糸を握った手元を見せながら、「こうやって、こう!」と言いました。
しかし、こうやって、こう、とド素人に編み棒と糸をクネクネと見せられても、全く分かりませんでした。
おろおろと、編み棒を使いながら糸をすくいましたが、全く違ったようで、しきりに「こうやって、こう!」と、見せられます。
おばあちゃんの方は、以前の感覚があっという間に戻ったのか、スイスイ編んでおられて、講師の方に、「さすがですねぇ」と感嘆されていました。
さて、何十回と、こうやって、こう、を見せられた私は、表目と裏目という編み方を理解するのに、レッスン時間を丸々使ってしまい、向いてないのかもしれないと思うに至ってしまいました。
ヘトヘトになった私は、何か、こういうことが昔あったような気がすると、記憶を思い起こしました。
あやとりです。私は、あやとりが大の苦手で、クラスメイトに、こうやって、こう、を見せられてもさっぱり分からず、全く何も作ることができませんでした。
また、それのみならず、折り紙もさっぱりなのです。
やっぱり、私には向かないと気付いたものの、何か一つでも習得したいと、もう一回初心者レッスンに通い、ようやく、梅村マルティナさんの「ななめかごめ編みのネックウォーマー」だけは出来るようになりました。
あれから、これだけを編み続けています。
もっと編むには、糸と糸に合う編み棒と、作るものによって、編み棒を変えねばなりません。
私は、それすら知らなかったのです。もう、それ以上は、私の才能と照らしてみても、進むべきではありません。
ネックウォーマーしか編めない、しかも、ななめかごめ編み限定です。
それはそれで、「魔女の宅急便」の主人公キキが、飛ぶ魔法しか覚えなかったのに似た感じで、まあいいか、と思えます。
※本テキストの冒頭の絵は、私のウールのベストから連想したものを、私の妹が描いたものです。
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