茂みから出てきた肉
前回ガパオおじさんの項で他人の手料理がちょっとキツいという話をしました。
私は親しい相手のものなら喜んで食べるのですが、夫がなかなかの強者で
母と妻以外の手料理は無理
調理工程がわからないと無理
ぬるいの無理
試食や露店は絶対無理
と、本人も「ぶっちゃけ生き辛い」と嘆く有様。
そんな夫が男気を見せた事がありました。
私たちはよくダイビングをしにフィリピンを訪れており、毎回同じダイブショップにお世話になるので現地スタッフとも顔馴染みになります。
そんな中、ひときわシャイで目も合わせてくれないボートマンの青年がいました。
彼はいつも「Hi.」以外の言葉は発さずに黙々と、しかし真心を込めて船上でお世話をしてくれます。
(なんとか彼と仲良くなりたい…!)
私と夫は常々思っていました。
その彼がある時、ダイビングの休憩中におもむろに船を降りて茂みの奥へと消えて行ったのです。
数分後。
再び草をかき分け戻って来た彼の手には、すんごいケミカルイエローなドでかいファンタと何らかの肉がミッチリ詰まったビニール袋が握られ、
そして
そして
初めて見る、弾ける笑顔…
夫(何や、何の肉や、どっから持って来たんや)
私(すごい笑顔だよ)
テレパシーを飛ばし合う私たち。
夫(アイツ自腹で買って来たんか)
私(しかも1人分の量じゃねえな、どうする?)
夫(オレ無理かも どうする…?)
私(どうする……!)
夫(どうする…………ッッ!!!)
青年「let's eat…together?(ニッコリ」
私&夫「た
た〜〜べ〜〜るぅぅぅ❤️」
私はびっくりした。夫よ、お前食べるんかと。絶対お腹痛いと嘘をついて断ると見くびっていた。
夫も同じ事を思っていたらしい。なんつう信頼のなさ。
青年はパァァーっと更に笑顔になり、謎のタレが入った袋を歯で噛みちぎり(!)謎の肉しゅうまいにぶっかけ、すごい黄色いファンタと共に皆に配ってくれた。
私たち夫婦はそれをたゆまぬ笑顔で頬張った。いつもより多めに噛んだ。
…うまい。
すんげえうまい。特に謎タレなんか配合を聞きたいくらいうまい。
もはや何の躊躇もなくおかわりした。ファンタもガブガブ飲んだ。
それ以降 彼を含め他のスタッフたちとも明らかに距離が縮み、最終日はわざわざ見送りにまで来てくれた。
夫曰く
「“同じ釜の飯を食う”って言葉あるやん、あれ多分どこの国でも一緒やねん。『これは国交や 友好の証や』と。実際仲良うなれたしな。」
と、彼なりの見解を述べていた。
そんな大志を抱いていたとは。いつも好き嫌いが多くわがままクソ野郎めと思う事もあったが、この時ばかりはとても見直した。
しかも焼売が頻繁にリクエストされるようになり食卓のバリエーションが増えたのもありがたい。
ちなみに謎肉の翌日に謎ハンバーガー事件も起きたけどあんま面白くないので端折ります。
以上。
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