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短ラン、ボンタン、男心

断捨離中の夫が神妙な面持ちで

「これ俺の青春時代の宝物やねんけど…この腹ではもう着られへん。お前が受け取ってくれ!(キリッ」

B’zやら布袋寅泰やらのライブTシャツ数着を渡して(押し付けて)きました。

うわ 着ねぇー

と拒否しようとした瞬間、ある記憶がフラッシュバック。


遡ること十数年

花の女子高生の私は、定時制高校に通うふたつ歳上の“コウタ君”を紹介されました。

ツイストパーマのコウタ君。
よく喋る面白くて優しい男の子で

「ほくろちゃん(私)は妹みたいでめんこいなぁ」

とお菓子を買ってくれたり、
私をしょっちゅうカラオケや駅前のお好み焼き屋に連れて行っては

学ランの内側にでっかい刺繍を入れた事
小麦粉じゃないメリケン吸うタイプのあんぱんの存在
恋は“プラトニック”とかいうのがいいという事

歯に青のりを付けたまま色んな話を教えてくれました。

私は食べるのに夢中であんまり聞いておらず
「難しい言葉たくさん知ってるね!あと歯に青のり付いてるよ!
とケラケラ笑い、コウタ君は
オシャレだべ」と笑い返すのでした。

冬も終わりかけのある日、初めて家にお呼ばれしました。

部屋に上がると例の刺繍が入ったすごい短い学ラン
アラジンが穿いているようなズボンを私に見せて

「これ、ほくろちゃんに持っていて欲しい。受け取ってくんねぇかな?」

と真面目な顔で言うのです。

空気の読めない私が「これは着ないかな〜」と笑いながら断ると、
そうだよな、着ねぇよなぁアハハと目を細めました。

コウタ君とはそれっきりです。

そして月日は流れ私も大人になり、彼氏ができました。

ある日彼が「実家で見付けた」と、なんと短ランボンタン姿で登場
こいつ元ヤンだったのかと若干引きつつ、そういや昔こんな事があってさ〜と話すと

「オイオイそれって…ハマ中のコウタさんじゃねーか?」

どうやらすごいヤンキーで有名だったとの事。
いや知らんし…

おめぇコウタさんのボンタン断ったんか!?アン!?

着れないし…

「着る着ないじゃねンだわ!
男が女にボンタン託す意味分かってんのか!?魂込めてんだぞアーン!!?」

分かるかボケ!要らんものは要らん!!

こいつとは間も無く別れました。

でも、着る着ないじゃない。気持ちを受け止めるか受け止めないかなんだ。
私はその時初めてコウタ君の淡い恋心と男のロマンのようなものを知りました。

そんなこんなで現夫の話に戻ります。

お前が受け取ってくれ!(キリッ

…ぶっちゃけ要らない。
行ってないライブのTシャツなんて着れないし、布袋のソロに至ってはエガちゃんの登場テーマくらいしか知らない。

もし街中でファンに突っ込まれたら戦争になる。

だが重要なのはそこじゃない。
大切なのはそこに込められた気持ちなんだ…!

私「思い出の詰まった宝物をありがとう。大切に取っておくね。」

夫「は?ちゃんと着ろやもったいない」



着ねぇぇよ!

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