「愉しかったーッ!」「修学旅行ーッ!」
修学旅行にいい想い出なんてなかった。
そんな学生時代を送っていた桃寧少年。
小学生の修学旅行はそれなりに愉しかった気もする。しかしほとんど記憶がない。中学生の修学旅行は担任教師の手によってクラスのはみ出し者というか、馴染めていないメンツで固めさせられて(まぁ確かにイケイケ連中に混ぜられるよりかは居心地良かったけど)好きな娘と同じ班にはなれなかった。高校生の修学旅行はずーっと愉しくなかった印象。浮かれている同級生たちとの温度差が凄くて気分が悪くなって。夜泊まったホテル。みんな愉しそうに他の部屋の連中たちと集まって騒いでいたけれど、僕は部屋でひとりテレビを視ていた。確か「銭形金太郎」だった気がする。頭がボーっとしていたから詳細な内容なんてまったく覚えていないけれど。
大人になって初めて修学旅行に参加した。事務所のレジェンド先輩、エレキコミックさんが毎年開催しているバスツアー『エレキ学園修学旅行』。その第17回目に僕は相方と一緒にコンビで引率先生役として呼んで戴いた。事務所の先輩であるお笑いコンビ・きみがすきだよさんも一緒。きみがすきだよの越田さんは初回くらいからずっと参加している大ベテラン先生。僕と相方とクレイジードラゴンさん(※越田さんの従魔ではなく相方さん)は初参加。
修学旅行に参加する数日前に、事務所の先輩であるシロたろしさんからお酒の席に誘って戴いた。その日はシロたさんの誕生日だった。誕生日なのに美味しいお酒と焼き鳥を御馳走してくれたシロたさん。僕は僅かばかりのお返しと誕生日祝いにとコンビニで売っていたゴディバのチョコレートケーキをプレゼントした。そんなお酒の席の途中、シロたさんも修学旅行に参加された経験があったので僕はアドバイスを乞うた。
「シロたさん、修学旅行なんですけど、なんかどういう準備していったらいいですかね?バス移動も長いみたいですし。相方からは『ギターとか持って行ったら?』とか提案されたんですけど、そういうのどう思います?」
するとシロたさんは愉しそうにしていた表情を一瞬にして曇らせて、
「用意していったモンなんて一切通用しないよ…エレキ学園修学旅行は…。」
と呟いた。その瞬間に
「僕は『修学旅行』という名の戦地に赴くのだ。」
と悟った。
相方は大喜利の問題を用意したと言っていた。僕はそれを聞いて「通用しないんだよ…そんなモノは…。」と内心思った。けれども僕も一応何かを用意した方がいいと思い、宴会でのネタコーナー用にこの一年で作ったネタ200本のリストを作っていった。まぁその200本の内190本を相方は既に忘れてしまっているのだけれど。
これは"旅行"ではなく"闘い"。気を緩めたら、最期―。
修学旅行にいい想い出なんてなかった。
今回もまたそんな感想を持つことになってしまうのだろうか。
全然そんなことなかった。僕がこれまでの38年間の人生の中で行った「旅行」と名の付くものの中で間違いなく断トツに1番愉しかった。これは先輩やお客様たちに対するおべんちゃらとか媚びとかではなく、本当に純粋に愉しいしかない2日間だった。休憩なし3時間稲刈りも僕は割と愉しんでいた。ああいう時に本気でバリバリと働く相方を視て「ああ、相方ってこういうヤツだったな。」と微笑ましく思った。相方が用意していった大喜利の問題はしっかりと通用していた。エレキコミックさんに鍛えられた(?)お客様だから大喜利の回答も早いし強い。凄かった。
宴会でのネタ披露も温かくも厳しく観て戴いて本当に嬉しかった。エレキさんがネタ合わせるする間をもう一本コントやって繋げたのも何とも感慨深かった。高校生の時にテレビで視て大笑いしていた芸人さんのネタ合わせ姿を視ながら、その同じ空間で自分がコントをしている日が来るなんて。修学旅行が愉しめなかった高校生時代の桃寧少年に教えてやりたい。
大喜利にあまり答えられなかったり、口(くち)イントロも良い問題が浮かばなかったり、治りきらない人見知りと天性の話しかけづらいオーラとでお客様ともあまり積極的に交流出来なかったり。反省点も勿論沢山あったのだけれど、本当に本当に愉しい修学旅行だった。
また来年も引率先生として参加させて戴けたら嬉しいです。そしたら今度は勇気出してギター持って行ってみようかな。死ぬ程スベるかも知れないけれど、最後はきっと良い想い出に変わるんだから。