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#008 君はアロハ醬油を本当に知っているか(後編)
アロハ醤油について、前編・後編の二本立てでお送りしておりますが、これらはもともと、インスタグラム上で2019年に報告していた複数の投稿を、今回のnoteへの掲載に際して内容を改めて照査し、再構成したものなんです。
照査を進める中では、2019年の時点において存在していたのに、今は無くなっていることが判明するものもある。
今回の後編では、その「あれ?消えた?」という実例を、具体的に示していきます。
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当時、日本のamazonで販売されていたアロハ醤油の商品説明文には、このような記載がありましてね。
日本国内向け販売用商品ですので、アメリカ本国で販売されている商品とデザイン・成分が異なります。
気になるでしょう?
前編で、アロハ醤油が化学製法で作られていることについて触れました。
一方でこの「日本国内向け販売用」なるアロハ醤油。
アロハ醤油の日本代理店が扱っていた商品なんですが、じつはその代理店のウェブサイトには、本醸造醤油ですよと明記されていたんです。
もちろん、周到にアロハ醤油っぽく調味されているんだろうとは推察できますが、え?本醸造?というのは、けっこうな驚きでした。
ただ、何のためにあえてオリジナルと異なる製法にしているのか?という事情に関しては、記されていません。
まあ一般消費者にとっては製法などどうでもいいことで、わざわざ説明する必要もない、のですが、逆を言えば、ならばわざわざ本醸造と明記するのも不自然ではないか?と感じたわけです。
そしてけっこう肝心なポイントだと思うのですが、それがハワイイ産であるのかどうか?も判然としません。
もしかすると、日本のどこかのメーカーにライセンス生産を委託している可能性もないとは言えない。
こうなったら正面突破、アロハ醤油(の日本代理店)に、疑問点について直接の問い合わせをするしかない、と考えた次第。それが2019年のこと。
ちなみに先に説明しておきますと、そのアロハ醤油の日本代理店は現在はもう無くなっているようで、ウェブサイトも見つからず、同時に「日本国内向け販売用」なるアロハ醤油も存在しません。
しかし過去にそういう事実があったということを記録に残すのは、無意味ではないはず。
改めておさらいしておきますと、疑問点とは、以下の二つです。
Q1:「日本国内向け販売用」のアロハ醤油が、本国のそれとは製法が異なって本醸造なのはなぜ?
Q2:「日本国内向け販売用」のアロハ醤油は、ハワイイで生産されているのか?
こんな怪しい質問に対して、回答拒否もあるかな・・・と危惧していたんですが、親切にもオフィシャルの返信を得ることができました。
当時の回答内容を、分かりやすく項目立てて整理しますと、こんな具合です。
回答①:醤油の合成保存料に関する日本の法基準に適合しないため、ハワイイで生産された醤油は日本に輸入することはできない。
回答②:日本代理店による「日本国内向け」のアロハ醤油は、日本で生産されている商品であり、合成保存料は不使用である。
回答③:日本国内向けを本醸造としているのは、日本の顧客が本醸造を好むため。
なお、これは直接は訊きませんでしたが、日本国内の需要量が全体としてもごく微々たるものであろうことから考えると、そのために自社でわざわざ生産設備を保有しているとは考えにくく、たぶん日本のどこかのメーカーにライセンス生産を委託していたものと推察します。
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よって結論としては、
かつてアロハ醤油には日本国内向けとしてのみ、日本製の本醸造が存在していた
ということになりますね。
これでスッキリ
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かと思いきや。
この「回答③」によって、新たに釈然としない点が生じてしまいました。
再掲します。
回答③:日本国内向けを本醸造としているのは、日本の顧客が本醸造を好むため。
今回は、それを掘り下げる論考。本題はここからです。
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あらゆるプロダクトにおいて、進出しようとする相手先の消費者の嗜好に合わせた仕様に作り変えるのは、もちろん営業戦略としては「あり」なんですが、それはつまり、マーケットに食い込むための手段のひとつ、ですよね。
まずは目的があって、その実現のために解決手段がある。
手段:日本の顧客が好む本醸造製法に変更する
目的:日本市場に参入し、販売を拡大させる
一方で、特に食品の分野においては、商品とその製法は不可分の関係にあることもあります。
仮に不可分ではなくとも、製法から別のものに変えてしまう、のというのが、末節のちょっとした仕様レベルでなくて根幹に関わってくる問題であるのは確かなはずです。
市場に割って入るためにそこまでするというのが、このケースの場合、どうも腑に落ちないんですよね。
いやもちろん、その取り組みに対する賛否の話などではありませんよ。そりゃ余計なお世話ってもんで。
またも再掲。
回答③:日本国内向けを本醸造としているのは、日本の顧客が本醸造を好むため。
ふーんそうなのか。そうなんだろうな。
といったんは思ったんですが、よく考えてみると、ちっとも説得力ある説明にはなっていないんです。
いや、確かに一般論としてはそうなんでしょう。つまり日本では醤油に対して本醸造(という言葉のイメージ)を好む人の割合が高い。
けれどもこの日本でわざわざアロハ醤油を希求する人は、ただユニーク(独特)なエスニック(民族的)調味料としてあのテイストでありサラッとしたテクスチャーの追体験を求めているだけのはずで、そこで「本醸造でないこと」が忌避の強い理由になるでしょうか?
アロハ醤油が、日本国内向けをあえて本醸造としていたのは、一般消費者の嗜好(製法へのこだわり)に応えるため、というのが理由ではなく、生産者サイドに端を発する何か別の合理的な事情に起因するのでは?
「リアリティのある空想」の域を抜け出ない、憶測ですが。
その事情を一般消費者に説明(情報提示)することは商品にとって特にマイナスにもプラスにもならないので、だからわざわざ開示するに及ばない
という判断は理解できます。
その一方、伏せた事情のもとに採用した本醸造製法を(なぜかしらむしろアピールポイントとして)わざわざウェブサイトに明記する
というのは、よく分かりません。
そのことによって、こうしてオリジナルの製造仕様との齟齬についての不審を訊ねられるかもしれない可能性も生じてくるわけですから。
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いずれきちんと検証しよう、と思ったまま放置しておいたインスタ投稿を元に再構成したこの記事ですが、今となってはその対象が無くなってしまい、また他に参照すべき誰かの資料などもなく、こうして歴史上に事実の記録を残すのみとなるのが残念です。
それにしても買っておけばよかったな、日本製のアロハ醤油。