kodou
2023.11.14
12:00
その日は 正午になるかならないかくらいの朝がおそい冬の日だった。
ふだん元気でにぎやかしい娘が寝静まったあと
私はいつも通り 別の部屋でやるべき作業をはじめた。
ほどなく短い眠りから覚めた1歳児は「ママいないー」と号泣し
私を見つけると全身で飛びこんできて委ねた。
そして安心してまたすやすやと寝息をたてる。
その温もりに心の奥があつく トクリと動いたのを感じた。
きゅんとするような 晴れやかな 切ない痛み。
確実に何かが溶け 戻ってきた。
焦らなくてよかった
求めなくてよかった
何者にもならなくてよかった
喜ばせようとしなくてよかった
ワクワクドキドキは外にしかないと思っていた
私の瞳からこぼれた涙が 雨上がりの葉っぱにしたたる水滴のように
トンと彼女の細い髪の上に乗った。
それは まあるく美しく輝いて。
幼い頃は今しかないから日々を大切にしようとか
大きくなる前に自分で何か確立しなければとか
先に立って見るのなんてどうでもよかった。
ただこの子に安心感を与えられている今の私。
それだけで充分だった。
いつからこんな時間を忘れていたんだろう。
静けさはいつもここにあったのに。
この確かな温もりを すぐにベッドに置いて
自分を満たそうと必死にもがいて。
言葉にならなくていい しなくていい
きっと 愛 なんだけど
ただただ温もりと お互いがいる安心感
抱きしめあっている腕 うずめている頭
ハート 全身 全て つながっている
出会えた奇跡に感謝とか感動とかさえ 考えなくていいよ
大丈夫 明日はくるから
今ここにいて いいよ
しびれを切らしたタイマーが鳴り響いても
今度はぐっすり寝入って起きない。
だから もう少し ずっと このままで
それから温かい飲みものと料理を つくろう
今になって 祝福のような太陽の陽射しが
長く続く縁側まで降り注いできた
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