ミャオのこと

小学生の時、猫を飼っていた。
というか、いつの間にか我が家に猫が住み着いていた。

以前、書いた気もするが私が育ったのは田舎である。祖母の母屋の隣に、L字になる形で私達家族の住む新屋が建っており、母屋と新屋の間は屋根が作られていた。建物は繋がっていないがその空間は納屋の様になっていて、何かの機材や道具が置かれていた。新屋の隣にも別棟で納屋があり、そちらの納屋の一階には、刈り取った藁が積まれていた。そちらの納屋に、いつの間にか住み着いていたのである。その納屋は扉はあったと思うがいつも開け放してあって、だれでも勝手に出入りできた。誰でも、猫でも。

ある日、猫の鳴き声がするので、そちらを見るとミャオがいた。私達が近づいても逃げるわけでもなく、触るとゴロゴロとのどを鳴らした。
どこかで飼われていたのではないか、と周囲の大人は言っていたが、そのまま我が家に住み着いてしまっていた。

ミャオは多分、その時すでに成猫だったと思う。
賢くて、こちらの言っていることを理解している風なことがよくあった。
家に入れても、元々住んでいたかのように、落ち着いていた。暴れたり走り回ったりということもなかった。
金色がかった茶色と黒の縞々で、一般的にキジトラ、という毛色。
その時から、尻尾は長くなくて、短く丸い状態だった。それが生まれつきなのか、後天的な何かによるものなのかは、子供の私には分からなかったが。
納屋の中には、二階へ上がる用に掛けられている梯子があり、その上にちょこんと座ってこちらを見ていた様子が写真のように思い出せる。

昔であり、田舎だったので、今のように常に家の中で飼う、という感じではなく、好き勝手に外に遊びにいって、夜は家で眠る、という飼い方だった。納屋の裏(陽のあたる南側)には畑があり、野菜が植えられ、季節の花がいつも咲いていた。
気の済むまでその辺りで遊んで、家の中に入りたそうに玄関前に座っているのを誰かが見つけると、玄関の戸を開け、雑巾で足を拭いてあげる。すると当たり前のように家に入っていくのである。
出かける時は玄関で鳴く。すると誰かが扉をあける。すると「ありがとう」と言った感じ「ミャー」と一鳴きして、こちらを一瞥して、出かけていく。

育ちの良いお嬢さん、と言った様子の振舞いだった。

ミャオがお嬢さんであり、女の子だと分かったのは、ある日、納屋で子猫を生んだからだ。その子猫たちは死んでしまったり、欲しいという人に貰われていったように記憶している。

その数年後、ミャオをある日姿を消した。
最初は、「あれ?今日は帰ってきてないね。」と言った家族とのやり取りだった。
でも数日経っても帰ってこない。

「猫は自分の死期が分かると人に見つからない場所に行ってしまうことがあるらしい」と大人の誰かが言った。
今まで当たり前にあった温もりが、ある日突然、姿を消す、ということが不思議でならなかった。いつかふらっと帰って来るような気がいつまでもしていた。
実際にはどうだったのかは、分からない。
もしかしたら、我が家に来た時のように、別の家で他の家の猫として生きているんじゃないかと思ったり。
来た時も、去っていった時も、ミャオが実際にいくつだったのかも、分からない。

賢くて、無駄に鳴かない。だから、最初に「ミャー」と鳴いたのは、意味のある鳴き声だったと思う。だから、名前もミャオ。




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