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和議締結|国興しラブロマンス・銀の鷹その16
「その族長がなぜわざわざ?しかも供のもの1人のみで。」
しばらく間をおいた後、なんとか自分を取り戻したサクール王がようやく口を開く。
「明日和議を結ぶことにはなっておりますが、一部の者にそれに対して不安を抱くものがおりましたので。」
「で、その不安を取り除くために様子を見に来たとでも申されるのか?」
「はい。」
無謀ともいえる行動にも呆れたが、王の質問に即答したセクァヌにも、そこにいた全員呆れ、言葉もでない。
「なるほど。で、仮にこちらがそなたを捕らえようとしたらどうされるつもりだったのだ?」
セクァヌはにっこり笑って答えた。
「その意思はないと私は判断しました。それに・・」
「それに?」
「仮にその行動に出られたとしても、後悔するのは私ではないでしょう。」
どんな包囲も突破できる自信があると言わんばかりにセクァヌは断言する。
「む・・・」
その言葉とセクァヌの鋭い視線に囚われ、サクール王は吸い込まれるような眩暈を感じる。
「それでは、明日正式に参ります。突然失礼致しました。」
敵意のないことをその身をもって確認し、セクァヌは今一度微笑んで礼を取る。
そして、向きをかえゆっくりと馬まで戻っていく。
-ブルルルル・・・-
-ドカカッ、カカッ、カカッ・・・-
そこにいた全員、身動き一つせず馬を駆って走り去っていくセクァヌとアレクシードの後姿に釘付けになり、姿が闇にとけ見えなくなってもしばらく見つめつづけていた。
「ふ~~・・・命が縮まる思いだったぜ。」
無事陣営に戻るとアレクシードはため息をついた。
「ごめんなさい、アレク。でも、言ったとおり大丈夫だったでしょ?」
「大丈夫って・・・お嬢ちゃん・・・・」
アレクシードは呆れ果てた顔をセクァヌに投げかけていた。
それは、あの夜の翌日、戦場跡で何があったのか全部聞いてから、その上で、聞かされた提案。
勿論始めのうちは断固反対した。
が、『だから、アレクに言えなかったのよ。』と言ったセクァヌの言葉とじっと見つめる瞳に押し切られてしまった。
「度胸があるというか、無鉄砲というか・・・全く無茶するんだからな、うちのお嬢ちゃんは。命がいくつあっても足らないぜ。」
勿論、セクァヌのためなら自分の命などいつでも捨てる覚悟はある。
が、それを言うと、セクァヌが怒ることも知っている。
『私を残して死んだら許さないから!』
常にセクァヌの盾となっているアレクシード。
その彼が過去彼女をかばって深手を負ったとき、彼女が泣きながら言った言葉。
それ言葉は、その時からずっとアレクシードの耳に残り離れないでいる。
「王!スパルキア軍です!」
翌昼過ぎ、サクール軍の野営地にスパルキア軍が姿をあらわす。
「おおーーー・・・」
先頭に立つセクァヌに誰もが感嘆の声を上げる。
銀の甲冑に身を固め、堂々と馬を駆る銀の少女。
そしてその傍らには戦士アレクシードが同じく馬に乗りぴったりと寄り添っている。
ただ、そこにいた誰しも閉じられているその瞳がとてつもなく残念に思えた。それは、銀の姫の瞳が放つ不思議な輝き、それは誰しも一度見てみたいという憧れでもあったからだった。
「おー、セクァヌ姫。」
今日のためにしつらえたテントから出て、サクール王は王子カシュランと共にセクァヌを迎える。
少年用の普段着を着ていた前日とは異なり、正装で現れたセクァヌに今一度改めて圧倒される。
「姫・・・・」
自分の目の前を通りテントの中へと入っていくセクァヌに、カシュランは心を奪われ見つめていた。