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憤りと逆転勝利|国興しラブロマンス・銀の鷹その19

-ブルルルル・・・・-

軍の先頭に立ち、間もなく敵兵の集団が見えるであろう方角をセクァヌはじっと見つめていた。

「姫!」
馬に乗ったカシュラン王子がセクァヌに近づく。

「姫、私もご一緒します。」

(守るとでもいうのか?お前のような若造が守れるようなお嬢ちゃんじゃないんだぞ?!)

一旦戦闘が始まれば、常に激戦地のしかも中心にその身を置くセクァヌ。
それを思い、アレクシードはそう叫びたかった。

が、王子であるということと、セクァヌの手前、叫びたいのをぐっと堪えてだまっている。

「一緒とは?王子にはご自分の軍を率い、第3陣としてお力をお貸しくださるようお願いしたはずですが。」

振り返ったセクァヌの言葉は、カシュランにはなぜかいつもより冷たく聞こえた。

「それはそうですが、姫。そのような後続部隊では姫をお守りすることもできません。我が軍には、勇猛果敢を持って知られるダイカス将軍がおりますれば・・」

-シャッ!-

「な!」

そこに居合わせた全員がセクァヌのその行動に驚いた。
セクァヌは王子の言葉を最後まで聞かず、いきなり彼の目の前に剣を向けた。

「ひ、姫・・・・」

そしてカシュランは目の前に突きつけられた剣とセクァヌの鋭い視線におびえる。それは、それまで見た視線より一段と鋭く、燃え盛っていた。

その激しく燃え盛る瞳から、明らかに怒りがみえる。

「あ・・・・・・」
カシュランはその威圧感に恐怖をも感じ、言葉を失って青ざめる。

「下がりなさい!乱れの元です!」

軍紀の乱れは時として最悪の状態をも引き起こしかねない。
その事と、そして、戦闘を甘く考えているカシュランに怒りを感じたことも確かだった。

が、いいかげんにしろ!というのが彼女の本音だった。
しかもこれしきの剣を交わすこともできないようでは、とてもではないが守ってもらうどころか足手まといになる。

「イサタ!」

「はっ!」
セクァヌはパチン!と剣を鞘に戻すと、近くの兵を呼ぶ。

「殿下を後続部隊までお送りするように!」

「はっ!」
再び前方に向き直り自分に向けられたセクァヌの背、カシュランにはその後姿が恐ろしく巨大なものに見え、呆然としていた。

その日、アレクシードでさえぞっとするような険しい表情で剣を振るうセクァヌがいた。

それまでの鬱憤を晴らすかのように敵を見据え倒していく。
ともすれば一人でどんどん突っ走っていってしまう。
何度アレクシードが冷やりとしたことか。

セクァヌは完全にいつもの冷静さを失くしていた。


「どういうことなんだ、お嬢ちゃん?」

「え?」

「『え?』じゃない!なんなんだ、今日の独りよがりの戦い方は?こうして無事だったからよかったものの・・・まかり間違えばお嬢ちゃんの命はなかったかもしれないんだぞ?」

戦闘が終わり、近くの丘で陣を張って会議用のテントの中で戦の報告を受け終わった後、アレクシードは怒りと心配のあまりシャムフェスらがいるのも忘れ、セクァヌを睨む。

「敵のど真ん中にどんどん進んで行って、どうするつもりだったんだ?オレが常に傍にいられるとは限らないんだぞ?」

「・・・いてくれないの?」

「当たり前だっ!オレだって戦っているんだぞ?!あんなむちゃくちゃに突っ走っていかれりゃついていけないのも当然だ!王子に軍紀がどうのこうの言う前に、お嬢ちゃんこそ、そこのところをしっ・・かり・・わきま・・・・え・・・お、・・・お・・嬢・・・・ちゃん?・・・・・」

怒涛のごとく怒っていたアレクシードの言葉は、自分を見つめるセクァヌの瞳に徐々にたまってきた涙にぎょっとして、その勢いをなくす。

「・・だって・・・アレクが遠い人のような気がしたんだもの・・・・アレク、ちっとも傍にいてくれないんだもの・・・・・・私・・私・・・一人で頑張るしかないのかなって・・・そう思ったら私・・・もう何にもわからなくなってて・・・」

「・・・・と・・・そ、それはだな、・・・お嬢ちゃん・・・」

「・・私、アレクが傍にいてくれないとダメなの。普通の女の子になっちゃう。アレクが支えててくれないと、何にもできないの。アレクがいてくれるから私は頑張れるのに、アレクがいないと・・・・。」

涙を両目にいっぱいためながらアレクをじっと見つめて小さな声で言うセクァヌを、アレクシードは言うべき言葉も忘れて見入る。

明らかにそれは戦の時のことを指しているのではないと全員すぐにわかる。

ぽん!とシャムフェスはセクァヌの前でうろたえているアレクシードの肩を後ろから叩いて、そこにいた者を促しテントから出て行く。

「・・・っと・・・・・・・」

一人セクァヌの前に取り残されたアレクシードはしばらくどうしたものかと戸惑っていた。

が、いつまでもそうしているわけにはいかない。
アレクシードは涙目でじっと自分を見つめているセクァヌをそっと抱き上げた。

「オレが悪かった、お嬢ちゃん。もうそんな思いはさせない。」

「ホント?」

「ああ、本当だ。誓ってもいい。」

「本当に本当?」

「本当に本当だ。何があってもお嬢ちゃんの傍にいるさ。」

「・・・良かった。・・・・アレク、好きよ。」

ようやくほっとした表情で首に手を巻きつけ抱きついてくるセクァヌが、アレクシードはたまらなく愛しく思え、腕に力を込めて彼女を抱きしめる。

(おい!そうじゃないだろ?言葉はどうした言葉は?!)

シャムフェスの声なのかはたまたもう一人の自分のものなのかわからなかったが、そんな声が頭の中に響き、アレクシードは心の中で呟く。

(何の?)
(何のって・・・愛の言葉に決まってるだろ?!)
(し、しかし・・・・)

そう心の中で呟きつつ、それでも一度は勇気を出して言おうとした。
・・・が、喉まで出かかったのだが、やはりアレクシードには言えなかった。

(あほー!このバカやろうっ!今回はよかったが、毎回こうだとは限らないんだぞ?!)

再びアレクシードの頭に、さっきの声が罵声となって頭の中で響いた。


そして、その翌日から、野営地で見られる光景はいつものものとなった。

セクァヌの傍にはいつもアレクシードの姿があった。
そして、久しぶりに見るアレクシードと一緒のセクァヌには、穏やかな表情が戻っていた。

王子と一緒にいることばかりに気を取られ、知らず知らずに誰もが忘れてしまっていたセクァヌの明るく穏やかな笑顔が戻っていた。


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