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姫の取扱説明書|国興しラブロマンス・銀の鷹その27

 「では、労力の援助はやはりできないのね、シャムフェス?」
「残念ながら。」

その日軍が通ってきた道筋に、1つの農村があった。が、そこは半月前程に降り続けていた雨により増水した川の決壊で、村全体が破壊し尽くされていた。水は引いたものの、家屋は倒れ、田畑はとても作物が作れる状態ではなかった。

生き残った村人達は村近くの高台で仮住まいを作り、なかなか進まないまでも、少しずつだが復旧作業をしたいた。

セクァヌはなんとか村の復興の援助ができないものかと、シャムフェスに相談していた。

「労力の提供は容易い。しかし、ガートランド領地は目と鼻の先。ここに我々が留まれば、最悪の場合、彼らは災害の上に戦火に巻き込まれてしまう事となります。
我々にできることは、食料と幾ばくかの資金の援助。そのくらいでしょう。」

「そう。」

それはセクァヌもわかっていた。
分かっていたが、彼らの窮状をそのまま見過ごすことが苦痛だった。

「ともかく我々は予定通り、明日ここを発ちます。」

「は・・・い。」
沈んだ表情のセクァヌにシャムフェスはにっこり笑った。

「ですが、希望者を募って、数名の兵士を残しておきましょう。
一時的に彼らの兵としての任を解き、一般民として村人を助けるようにと。」

「シャムフェス!」
セクァヌの沈んでいた表情がぱっと明るくなる。

「ありがとう、シャムフェス!」

「それで姫の気持ちが安らぐのなら。」
目を輝かせて喜ぶセクァヌを、シャムフェスはやさしい微笑みで包んだ。


「ホントに、お前はお嬢ちゃんを喜ばすことが上手いな。
しかもいつもフェイント付だ。喜びもひとしおってとこだな。
この策略家が!」

セクァヌが立ち去った後、アレクシードは呆れたような、感心したような表情でシャムフェスに言った。

「お前が下手すぎるんだよ。」
笑いながらシャムフェスは答える。

「オレはお前のように口が上手くないからな。」

どうせオレは!といった感じでアレクシードはぶっきらぼうに言う。

「お前なら余分な言葉など必要ないさ。愛の言葉とあとは・・・」

「あとは?」

「アレク・・・・」
呆れた顔をしてシャムフェスはアレクシードを見る。

「オレに聞くか、普通?」

「聞いちゃいけなかったか?」

「・・・ったく・・・・・・・」

「親友のお前だから聞いてるんだろ?」

「はー・・・・親友が聞いて呆れるぜ?」

「なんだ?」

「あ、いや別にいいが。ともかくお前なら余分な知恵や言葉などいらないだろ?傍にいるだけで姫は満足してるんだから。」

「・・・・傍にいるだけで、な。」

しばし考えてから答えたアレクシードにシャムフェスはふっと笑いをこぼす。

「どうした?抱きたくなったか?」

「シャムフェス、お前!」
顔を赤くして思わずアレクシードは大声をだす。

「そうだな、ここのところ日を追うごとに少女らしくなってくるのが分かるくらいだからな。そろそろお前も限界か?」

「バ、バカ言うな。」

焦りを覚え、アレクシードは周囲を見渡した。
勿論セクァヌの姿がないかどうかを確認するためである。

「はははははっ!」
シャムフェスはいかにも面白そうに笑う。

「シャムフェス!」

「分かった、分かった。確かに姫は奥手だからな。」

「口ではああいってるが、まだ性を認識していない。男と女がどういうものか・・・恋焦がれるということがどういうものなのか。」

「なんだ、結局はのろけか?」

からかわれてアレクシードは慌てて答える。

「そ、そうじゃない・・・オレは真剣に悩んでるんだぞ。」

「な、悪いことは言わん。今度街に入ったらオレと一緒に娼館にでも・・」

「いや、オレはいい。」

「まったく・・・いつこう堅物になったんだか。」

「シャムフェス!」

怒りをあらわにするアレクシードをシャムフェスは面白そうに見つめる。

「じゃー、残る手は1つしかないだろ?」

「なんだ?」

「奥手と言ってももう14。いや、そろそろ15か?15と言えば、王侯貴族の姫君らが嫁ぐ歳だ。」

「政治的目論見でな。お嬢ちゃんには関係ない。」

「確かにそれはそうだが、十分そういう年頃だということだ。どっちにしろ、男の愛はもう受け入れれるはずだ。」

「シャムフェス!」

シャムフェスのその言葉に、どきっとしながらアレクシードは怒鳴る。

「それに、お嬢ちゃんはなー・・・」

奥手も奥手、極めつけの純真さだから、と続けるつもりのアレクシードの言葉を取ってシェムフェスはさらりと言う。

「なに、性を認識していないのなら、教えてやればいい。ただし、急くのはだめだぞ、固い蕾はゆっくり時間をかけて開かせてやらないと。」

「もういい!お前に聞いたオレが間違ってた!」

「はははははっ!」

ドスドスと足音にもその怒りをあらわにして立ち去っていくアレクシードをシャムフェスは大笑いで見送る。

「親友か・・・オレの気持ちなど全く気づいてないだろ、アレク?」

シャムフェスはさみしそうに空を見上げる。

「早く抱いてしまえ。・・・お前たちがはっきりしてくれないと、オレの方がどうにかなりそうだ・・・。」


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