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戦士と姫君|国興しラブロマンス・銀の鷹その13
-ザッ-
あこがれの戦士を目の前に、直立不動の体勢をとる2人に、アレクシードは手を振って構うなと合図してから、彼らの背後にその鋭い視線を流す。
明らかにそれは怒っている視線。顔は平静を保っていても。
マーシュとトミーは、なんかおかしいぞ、と思い、そして、そういえば、とセクァヌの存在を思い出す。
「あ、この少年は怪しいものじゃないんです。
オレ・・い、いえ、私が戦場で落としてしまった物を届けてくれたのです。多分掃除屋の仲間ではないかと。」
慌ててセクァヌをかばう。
「ふ~~ん・・・そうなのか?」
「はいっ!そうであります!」
マーシュは緊張しながら答えた。
が、アレクシードのその問いは、明らかにマーシュでもトミーでもなく、セクァヌに向けられていると分かる。
「探しに行ってたというわけか?日が暮れかかっているこんな時間まで?」
「あ、あの・・・アレクシード様?」
まるっきり自分たちの話には耳を貸していないといった様子に、2人は不思議に思う。
聞いてはいるが、それを確認する相手は自分達ではなく、自分達の背後にいる少年に。
「あ、あの・・・・」
「いいんだよ、君は。それよりお礼をあげるから、早く帰った方がいいよ。」
小声で話し始めたセクァヌに、マーシュが慌てて懐に入れた財布を捜し帰そうとする。
本来掃除屋との接触は禁止されているのだが。
「アレクシード様、お叱りは私が受けます。ですからこの少年は・・」
「見逃せと?」
「は、はいっ!どうかお願いします!」
アレクシードの鋭い視線を一瞬受け、マーシュは心臓がとまりそうなほど緊張しながらも必死でセクァヌをかばった。
何よりも替えがたいペンダントを持ってきてくれた、そのお礼をしなくては男ではない、そう思っていた。
「いい味方ができたようだな。」
アレクシードはマーシュからゆっくりと黙っているセクァヌに目を向けると穏やかに言う。
それはその怒りが普通ではないことをセクァヌは知っていた。思わず言葉を失う。
「・・・・・・」
「オレはお払い箱か?」
「あ・・・・」
「仕方ない、今夜は見逃すとしよう。」
「ありがとうございます!」
くるっと向きを変えるとアレクシードはすたすたと歩き始める。
「よかったな。」
「アレク!」
ほっとして彼女に声をかけたマーシュの言葉と同時にセクァヌは叫んで彼らの後ろから飛び出していた。
「ごめんなさい、アレク・・・だって、恋人からのだって聞こえて・・・私、落ちてたのを見たような気がしたから・・・それで・・・・」
「は?」
マーシュとトミーは自分の耳を疑った。
スパルキア最強の戦士であるアレクシードを『アレク』と呼べるのは上層部のほんの一握りの人間と、銀の姫のみのはず。
「で、一人で戦場跡に行ったのか、お嬢ちゃん?」
『お嬢ちゃん・・・』そして、戦士アレクシードがそう呼ぶのは、他ならぬ銀の姫。
マーシュとトミーはそれを聞いて一段と焦り、全身から冷や汗が流れる。
セクァヌはセクァヌでどうしようかと思っていた。
振り向きもせず言うアレクシードの背中は確かに怒りを放っている。
「だって、アレクに言えば止められるに決まってるし・・・」
「当たり前だっ!」
くるっと振り向くと、今度は怒りもあらわな表情でアレクシードは怒鳴った。
「何事かあってからでは遅いんだぞ?!」
「は・・・い。」
2人は信じられなかった。
しゅんとして小さくなっている目の前の小さな少年・・もとい、少女が、銀の姫?で、ただの一兵士にすぎないマーシュのために戦場へ探しに行った?2人の硬直は続いていた。
ふ~~っとため息をついてから、アレクシードはセクァヌの前にかがみ、すっと彼女がかぶっているフードを取る。
(げーーーーーー!やっぱマジ本物~~~!!)
マーシュとトミーは、目の前の銀の髪の少女に目を丸くして一層硬直する。
「剣でも交えたか?」
そのフードには飛び散った血しぶきの跡があった。
「あ・・・帰ってくるとき、敵兵と会ってしまったから・・・」
4人の男たちと別れた後、運悪く数人の兵と出会ってしまっていた。
「お嬢ちゃん?」
ピキピキピキッとアレクシードの眉間に怒りのシワが寄るのが聞こえるようだった。
「・・だって、だって・・・、私だってアレクがくれたものを落としてきたりしたら、何があっても見つけたいと思うから。だから・・だから、私・・・・・」
「う・・」
その言葉に、ぎくっとしたのはアレクシードの方だった。
それは確実にアレクシードの心を射抜いた。
人前でそこまではっきりと言われ、さすがのアレクシードでも恥ずかしく思わないわけはない。勿論、嬉しさもあるが、ともかくその鋭い矢で一気に怒りのシワも消え失せる。
「・・・アレク、何にもくれないけど・・・」
完全に形勢逆転・・・再び深々とアレクシードの刺さったその言葉と恨めしげに自分を見つめるセクァヌの瞳。
もはやアレクシードには言い返す言葉が何もなかった。
「アレク、姫は見つかったのか?」
そんな場面に馬に乗ったシャムフェスが来る。
「ああ、そこにおいででしたか。サクールからの使者が姫をお待ちなのですが。」
そこにセクァヌの姿を見つけ、シャムフェスはほっとして言った。
「サクールからの使者…ですか?」
「はい。」
その途端、それまでの口調と態度はがらっとかわる。
それは明らかに銀の姫。
「わかりました。すぐ参ります。」
すっと手を上げると愛馬、イタカがセクァヌに駆け寄る。
その背に飛び乗ろうとイタカの横に立ったセクァヌをすっと抱き上げると、アレクシードは共にその背に乗る。
-ブルル・・-
ぐいっと手綱を引いて向きを変えアレクシードは馬を進める。
「あ・・驚かせてごめんなさい。」
あまりにもの驚きで未だ棒立ちになっているマーシュとトミーを振り返り、彼らににこっと微笑むと、セクァヌはアレクシードと共にそこを立ち去った。
「アレク・・まだ怒ってる?」
馬上、セクァヌは自分の後ろにいるアレクシードにそっと聞く。
「二度とこんなことはしないでくれ。」
返事のかわりにセクァヌはこくんと頷く。
「それから・・なんだ・・・・」
そう言ってから押し黙ってしまったアレクシードに、セクァヌはどうしたのかと振り向いて聞く。
「それから、なーに?」
「あ、ああ・・・つ、つまりその・・なんだ・・・・」
「何?」
「その・・・」
言いにくいのか、セクァヌに前を向くように目配せしたアレクシードは、セクァヌが前に向いてから、それでも今一度間を空けてから思い切ったように聞いた。
「やっぱり欲しいものなのか?」
「何が?」
「だから・・・・」
それ以上答えようとしないアレクシードに、セクァヌは彼の言ってる事は何を意味しているのだろうとしばらく考え、そして思いつく。
きっと今アレクシードは照れているのではないか、もしかしたら多少顔が赤くなっているかも、と思い、セクァヌはくすっと笑いをこぼす。
200%戦士のアレクシードにそういったことを期待するということが間違いだし、アクセサリーなどを買い求めるアレクシードはセクァヌも想像できなかった。
セクァヌはそう言ってくれたアレクシードの気持ちがとても嬉しかった。
そして前方を見たまま答える。
「気にしないで。アレクからは、もうたくさんもらってるから。・・・返せないくらいたくさん。」
「そうか。」
いつもこうして守ってくれているから、今自分の生が、自由がある。
決して甘い言葉は言わないが、アレクシードの短い言葉の中に溢れるほどの彼の心が、気持ちがある、とセクァヌはそう感じていた。