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すれ違う心と心|国興しラブロマンス・銀の鷹その18
戦士以外の何者でもないアレクシードは、そういったことは大の苦手だった。贈り物ややさしい言葉・・そして甘く囁く愛の言葉。
が、決して彼の風貌が合わないというわけではない。
どちらかというとアレクシードの顔立ちで言われたら心躍らせない少女はいないだろうと思われた。
性格的にそういったことは苦手だけなのである。
そんなアレクシードをシャムフェスは宝の持ち腐れだと時々からかった。
戦士アレクシードの名前とその顔で口説けばたいていの女は落ちるのに、と。
そんな事をあれこれ考えていたアレクシードはふと気付く。
セクァヌは自由奔放にそして純粋に自分の気持ちを言う。
アレクが大好き、と、たとえ人がそこにいようがいまいが、はっきりと言う。
真剣な瞳でアレクシードを見つめて断言する。
そこにまだ色気がないのはいまいちだが、いや、非情に残念にも思えたが、それはそれとして、考えてみたらアレクシードはそういった言葉は言ったことがなかった事に気づいた。
『守る』とは言っても『好きだ』とか『愛してる』とかは一度も言ったことがない。それはセクァヌがまだ幼いからではなく、そう言った言葉を口にするのが苦手だということと、わかってくれていると思っていたからだった。
「やっぱり何かやった方がいいのか?」
「ん?」アレクシードが小声で言った言葉をシャムフェスは聞き返す。
「『何かやった方が』とは・・・贈り物か何かか?」
「ああ・・・・」
親友のシャムフェスに隠しても仕方がない。
アレクシードはペンダントの一件を話した。
「そうか。姫がそんなことを。」
くくくくくっと笑いを堪えシャムフェスは言った。
「そりゃーお前、もう十分だと言ったとしても、もらわないよりもらった方が嬉しいというものだぞ?」
「やはりそうなのか?」
「レイガラントの都へ着いたら何か買ってやるんだな、小さいといっても一応国都だ。それなりのものが揃ってるだろう。」
「何がいいんだ?」
「は?」
自分のほうを向き、そんな質問をするアレクシードにシャムフェスは呆れ顔で答える。
「自分の恋人へ贈るのに、他人に聞くか?」
「う・・・・」
横を向いてアレクシードは小声で言う。
「わからないから聞いたんじゃないか・・・オレはお前と違ってこういうのは苦手なんだぞ。知ってるだろ?」
「・・・オレからだと言って渡してくれるんなら教えないこともないが。」
「なんだと?!」
シャムフェスの言葉に、思わずそのまま感情を現して怒鳴ってしまったアレクシードは、にやにやしているシャムフェスと目が合い、再び彼から目をそむける。
「それは冗談として、だ・・アレク。」
「なんだ?」
お前が言うと冗談に聞こえないんだぞ、と言いたそうにアレクシードはちらっとシャムフェスを見た。
「言わないより言った方がより確実に相手に伝わるというものなんだ、知ってたか?」
「う・・まー、・・・一応はな・・・。」
「子供だ子供だと思って油断していると、後悔する羽目にならないとも限らないぞ?女の子は姫くらいからが成長早いんだからな。すぐ大人になる。」
身も心も、とシャムフェスは目で話す。そして、ぽん!とアレクシードの肩を叩くとそこを立ち去っていった。
そう言われれば、ここ最近、時々だがはっとするような大人びた表情をすることがある、とアレクシードは思い出していた。
公の場ならいざしらず、普通なら素顔の子供に戻る2人だけのときでもそれはあった。確かにそれは、子供時代から少女へ、乙女へと変化していく課程のあらわれ。
「う"~~~~・・・・・」
アレクシードは片手を額に充ててしばらく悩んでいた。
そんなアレクシードの悩みと焦りなど全く知らず・・・セクァヌはセクァヌで気を病んでいた。
アレクシードのところへ行きたいのに、アレクシードに会いたいのに、その前に必ずカシュランが姿を現す。
一応同盟国の王子である彼を邪険にするわけにも行かない。確かにやさしく接してはくれている。
が、そこにアレクシードと一緒にいるときのような安らぎはなかった。
彼は一人の少女としてではなく銀の姫としてのセクァヌに接している、と彼女は感じていた。
そして、なぜかアレクシードがよそよそしく感じられ、心配と苛立ちはセクァヌの心の中で少しずつ大きく膨らみつつあった。
そして、そんな状態の中、再びガートランドと刃を交えることとなった。