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『虐待児の詩』 新潮文庫の一冊

「深夜特急(2) マレー半島・シンガポール」


一旦、読むと決めたのだから全巻読んでしまえと六巻まで一度に買って来た。

デリーからロンドンと出発地点と目的地が決めてあるにもかかわらず、出発地点にさえもいつ着くのかわからない。そんな目的があってないような行き当たりばったりの放浪の醍醐味を人のふれあいの中から見出していく。

これはある意味サスペンスであり、そこにロマンを感じずには通り過ぎることなどできはしない。お決まりのツアーパックでは決して得ることの出来ないものがそこにはある。
しかも、何ら危険を冒すことなく読むだけで疑似体験できるのである。
おそらく私は、この格安の深夜特急ツアーでロンドンまで行くことになるのだろう。

著者がルポライターになるきっかけのような話が第二巻の六章にぼそっと出てくるのだが、それを読んでいて友人が会社を辞めたときの話を思い出してしまった。
彼曰く、「ある日、通勤の地下鉄のホームから外へ出たら、良い天気で、ポカポカと晴れていた。会社は辞めて公園へ行こう!」とそれ以来その会社へは行ってないそうである。
その友人は現在、切り絵画家である。

第二巻までを読み終わって、不思議な感覚に襲われた。読んでいる自分ではなく、そこに書かれている著者が体験したであろうことが、かつて体験した情景となって感じられるのである。見た覚えのあることを見たことがある、と感じる訳ではないので、デジャブとは言わないのかも知れないが、何ともおかしな気持ちである。



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