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『白虎の路』 甲州街道とうりゃんせ 4

その4 「4対4プチコンパ発進」



4対4プチコンパ発進

1.アストロ車内にて

 発車してから間もなく、利紗世が口火を切った。

「あんたが直人?」

「あ、あぁ・・・」

 “あれれ、気のない返事しちまった。まいっか。(笑)”

「あたし、利紗世。んで、こいつは奈津子、後のオープンカー乗ったフェロモン剥き出しのエロいのが愛、もう一人の大人しそうなのが彩。 よろしくぅ!」

 ”ふぅーん、あの子、愛って云うんだ” 直人は、なんだか心の中を見透かされたようで、少し恥ずかしかったが、利紗世が直前に言った ”フェロモン剥き出しのエロいのが愛” と云うフレーズを頭の中で反芻した。

「秋彦から聞いてるよ、直くん、バンドやってるんしょ」

 ”げっ、直くんかよっ。 まぁ良いけど。。。” 利紗世に少年のように扱われ、少し戸惑ったものの悪い気はしなかった。

「えっ、いや、メンバー足んない時、手伝うだけで、自分じゃやってないよ。 んでもって、バンド手伝う度に感化してバンド解散させちゃうから、バンドクラッシャーって言われてる(笑)」

「そうそう、こいつ音楽するとき、やたらマジなんだよなぁ。 でも、言ってること大抵間違ってないから、適当にやってた奴ら、やたら考え出しちゃってさあ、いっつもライブ終了と同時にバンド解散っ! てか(笑)」

「俺ね、ホントはフィルムスコアリングがやりたいんだよね」

「フィル・・スコ・・・んー,なにそれ?」

「うっとねえ、サウンドトラックって分かるぅ? ほら、あの、映画とかに挿入されてバックで流れてる曲さ」

「あ、映画音楽ね」

「へえー、すっごいじゃん、直人、そんなの出来んのぉ?」

 奈津子に呼び捨てにされた”な・お・と”の三文字の響きが妙に心地好く、嬉しかった。

「いや、将来的にさ、出来たら良いなと・・・」

「あは、そうなんだぁ」

 ”あは” と言う時に片手の平を目一杯広げた、ぶりっこっぽい仕草も嫌み無く、可愛く感じてしまった自分に少し恥ずかしさを覚え、直人はシカトした。

 沈黙を破って、秋彦が切り出した。

「利紗世はフリーターだったよな。。 で、奈津子は?」

 直人は、秋彦が呼び捨てた ”なつこ” の響きにむっとする自分を覚えた。それは多分、秋彦が ”なっちゃん” と言っていたところで、同じだったのかも知れないのだが・・・。

「んと、なっちゃんねぇ、ベビー用品の製造会社にいってるんだよ」

 奈津子自身が発する自称 ”なっちゃん” を耳にしたとき、直人は思わずぞくっとするものを感じ、あぁ、これだったのかと、その思いをぐっと心の奥まで飲み込んだ。

 直人は無表情を装ってはいるが、もう奈津子のことが気になって仕方が無い。

その5 「横浜にて」に続く


#創作大賞2024 #恋愛小説部門

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