【名寄市】AIオンデマンド交通とデジタル地域通貨導入による地域デジタル基盤強化事業

実装の背景

 名寄市では市内を運行するバスが、令和4年10月から運転手不足を理由に減便となりました。これを契機に、市民の交通の利便性を確保するとともに、これまで公共交通機関を使っていなかった方にも利用してもらい、地域の経済活性化につなげるため、令和4年度第2次補正予算 デジタル田園都市国家構想交付金デジタル実装タイプTYPE1を活用し、オンデマンドバスを導入しました。
 併せて、地域経済の活性化や地域のDX推進という観点から、AIオンデマンドバスの利用料金の支払いにも使用できるデジタル地域通貨を導入し、地域の経済循環を図ることとしました。

オンデマンド車両は8人乗りのハイエースを使用。

実装までのスケジュール

 交付決定から運用開始までの約半年間で、サービスの仕様検討、車両準備、乗降場所設定、事業者選定を行いました。特に、オンデマンドバスの運転手確保のため、地元の各交通事業者に打診し、最終的には市内のハイヤー会社に依頼しました。乗降場所は市民の利便性を考慮し、既存バス停以外にも設定し、計107カ所としました。乗降場所によっては、冬季の除雪対策として、街路灯にポスターを掲示する工夫をすることで、除雪の手間を省くことができました。また市民への周知のため、運行2カ月前から説明会を開催し、運行開始後も出前トークを実施し、計30回ほどの開催により市民への周知を図りました。
 デジタル地域通貨についても、交付決定後から関係団体と協議し、実装半年前から加盟店や事業者への説明会を開始し制度の周知を行いました。住民向けにも説明会やスマホ教室を開催し、キャッシュレス決済の理解を深めました。

市の公式LINEの予約画面

AIオンデマンド交通

 AIオンデマンド交通事業は、事前予約により、同時刻に同じ方向に行く利用者がいる場合、AIが独自のルートを作成し、乗り合わせで運行します。運行時間は平日の午前7時から午後5時までハイエース(8人乗り)2台で運行し、予約は電話、アプリ、市の公式LINEですることができます。現在、アプリの登録者数は1200人、運行開始から直近までの1日の平均利用人数は31人となっており、高齢者のほか、小中学生の習い事や少年団活動、子育て世代の買い物や高校生の通学にも利用されています。利用料金の支払いは、現金もしくは同時に実装した電子地域通貨「Yoroca」のみとなっており、4分の1が「Yoroca」で支払いをしている状況です。利用者の満足度は98%と高い満足度となっています。 今後は、乗降場所の追加や変更、運行日時・時間の見直し、高齢者割引や回数券の導入など、利用者の利便性向上について検討していく予定です。


乗降場所に指定されている街路灯のポスター

デジタル地域通貨

 デジタル地域通貨事業は、市の商工会議所が運営主体となり地域経済と地域DXを両軸として取り組んでいます。 デジタル地域通貨「Yoroca」はカード形式をベースとして配布し、利用者はアプリをダウンロードしてカードと紐付けます。市内のチャージ機や店舗のタブレットでカード又はアプリに現金をチャージでき、使用額の1%がポイントとして還元されます。参加店舗は2%の手数料を負担し、1%を消費者に還元、残り1%でランニングコストを賄っています。利用可能店舗は公共施設を含め市内244カ所となっており、大型商業店舗や一部のコンビニでも使用できます。
 市の各種講座、セミナー、イベントへの参加や高齢者の免許返納時などにもポイントが付与され、地域通貨の利用促進と市民のイベント参加を促しています。
 現在、市の人口の約6割に当たる約1万6000件のカードが使用され、そのうち約9600件がアプリと紐付けられています。
 国の物価高騰支援交付金を活用し。全世帯に1万ポイントを配布したり、健康事業として、1日8500歩以上(高齢者は6500歩)歩くとポイントを付与するなどの取組も行っています。
 昨年11月の実装から今年6月までで、地域の店舗で約2億1300万円の地域通貨が消費され、付与したポイント分としては、約1億円分が利用されています。


市内に設置されたチャージ機からカード又はアプリにチャージすることが可能

今後の展望

 公共交通全体に係る市の負担が増加傾向にある一方で、人口減少で公共交通機関の利用者が減少する状況にあり、公共交通の再編を検討していかなければならない中で、市では、このAIオンデマンドバスの運用が地域交通のあり方の一つのモデルとなると考えています。
 また、デジタル地域通貨「Yoroca」については、オンデマンドバスの利用料の支払いなど、一定程度利用されているものの、より日常生活での使用頻度を高めていく必要があります。未使用の通貨、ポイントも見られるため、利用を促し、地域経済の活性化、地域DXの促進に繋げていきたいと市では考えています。



この記事は、「創る」第28号発行時点(令和6年10月時点)の内容です。