ある日、包括に3度現れた男性の話
今日はひとり暮らしの正造さんの話。
正造さんは自営業を営んでおり、75歳を過ぎてからも、ほそぼそとながら仕事を続けていた。時には県外の顧客のもとに赴くこともあった。
そんな正造さんだが、一年前に妻を亡くしてから、段々と物忘れが気になることが増えてきて、認知症の診断を受けた。
今は要介護1でケアマネさんが担当をしている。
ある日、包括に電話が入った。
「 コンビニの店長やっている者ですが、最近、毎日何回もくる近所のおじいちゃんが心配で」
話を聞くと、どうやら正造さんが自家用車で毎日何度もコンビニに来ている様子。コンビニの駐車場での運転がふらふらしていたり、毎回同じお弁当を買ったりしているそうだ。
コンビニの店長さんに連絡してくれたお礼を伝え、また気になることがあれば連絡して欲しいと依頼。
とても優しい店長さんで、快く承諾してくれた。
地域の方の見守りって、こういうことだとしみじみ思う。
包括としても本当にありがたい。
さて、これからどうしようかな、と考え始めたその時。
なんだか事務所の玄関先が騒がしい。
様子を見に行くとなんと正造さんがいた。
話を聞いてみると、
「 近くを通ったので寄ってみた」と言ったり
「 今日はデイサービスの日なので来た」と言ったり。
あやふやな様子。
念のためデイサービスの担当に確認したが、今日は利用日ではないと。
正造さんに「 明日、利用日なので職員がお迎えに行きますね。今日はお昼近いのでご飯を食べにお家に戻るのはどうですか。」
と話したところ、納得された。
今日は車で帰るとのことで、駐車場を出るまで見送ることにして、運転の様子を見ていた。
ややふらふらしている印象なものの、センターラインを超えることはなく、車速はとてもゆっくり。幸い自宅までは交通量も少ないルート。なんとか帰れそうかなと判断し、事務所へ戻った。
その後お昼を食べ、午後の訪問に向かった黒井。
1時間ほどで事務所に帰ってくると、なんと、また正造さんがいるではないか。
午前中に来たときと同じようなことを話す正造さん。
午前中に来たときと同じ説明をする黒井。
その説明に納得する正造さん。
でも、流石に2度目なので心配。
帰宅するときにこっそり車で追いかけることにした。
比較的スムーズに運転する正造さん。
よかった、この交差点を曲がればもう家はすぐだ
と思った矢先、曲がらずに直進してしまった。
あれ!?どこかに寄るつもりかな?とちょっと焦る黒井。
しかし正造さんは民家もお店も何も無い田んぼ道へ向かっていく。自宅がどんどん遠ざかる。
これは帰れるか怪しくなってきたぞ…ちゃんとついていかないと…と必死で追いかける。
何度も遠回りしたけれど、最終的には無事自力で自宅まで辿り着けた。
事務所に戻ってから担当のケアマネさんとお子さんに報告。デイサービスが気に入っている様子なので、回数を増やす方向となった。
はぁとりあえず良かった…とようやく事務作業に取り掛かりはじめた。
そして、事務作業がだいぶ捗った夕方頃。
なんとなんと、本日三度目の正造さんの登場。
少しげんなりする気持ちを抑え、同じ対応を繰り返す。
三度目も無事に帰宅できたことを確認。
でも、このままでは夜に来る可能性もあるぞ、と 念のため夜間の事務所当番の職員さんに申し送り。
いやぁ、今日は正造さんDayだったなぁとしみじみと帰宅する黒井であった。
ちなみに夜間正造さんは来なかった。 翌日のデイサービスは無事にお迎えのバスに乗って来られた。
そして後日、お子さんからの説得により免許返納を納得された正造さん。近所のコンビニへは歩いて行っているようだ。