保健師としての”空気を読む”スキル
地域包括支援センターの保健師として働き続けた結果得たスキルの一つに「空気を読む」というものがあるのではと最近思う。
そう思ったきっかけは黒井の夫。
黒井の夫は、理系卒で一般企業に勤めている。
彼とコミュニケーションをとる中で、会話の流れを受けての返答がちょっとずれていると感じることがよくある。
基本的に言葉の意味そのままの内容で話が進んでいく。
行間というか、ニュアンスというか、そういうものをあまり考えていない様子。
包括で働いている時には、黒井の夫の特性なのかと思っていた。
だって、勤務していた包括が所属する社会福祉法人の職員の方たちのコミュニケーションでは違和感を覚えることがなかったから。
しかし、今、医療系でも福祉系でもない一般企業へ転職して、黒井の夫だけではなかった!ということを発見した。
今の職場のコミュニケーションは、黒井の夫と同じく、基本的に言外のニュアンスを気にしないで話が進んでいく。
転職したばかりのころは、とても不思議な感覚だった。
なぜ、医療・介護・福祉系では空気を読む力が磨かれるのか。
きっと空気を読まないと、患者さんや利用者さんの想いと反する支援になりかねないからだ。
例えば、「デイサービスには絶対に行かない」と利用者さんが言ったとする。
言葉通りとらえて、それがその人の意思だと判断して、デイサービス以外のサービスを勧めることになる。確かに、それも一つの支援の方向。
でも、「デイサービスには絶対に行かない」と言っていたとしても、言い方によりちょっとずつ意味が変わってくる。支援職としては、その人の言外の想いを想像しながらコミュニケーションを図っていく。
先ほどの「デイサービスには絶対に行かない」の例でいくと、
・デイサービス=介護のイメージがあってネガティブなイメージだから行きたくない
・前のデイサービスで嫌な経験をしたので行きたくない
・初めての場所は緊張してしまうので不安で行きたくない
・実は本心では行っても良いと思っているが、認めたくない、など
色々な可能性がある。
相手の動きや視線、言葉の言い方といったあらゆる情報を観察して、本人の想いを想像していく。
本人の想いによって、支援職としての次のアクションが変わってくる。
もちろん、想像した想いがずれてしまっていることもある。
なので、想像したうえでしっかり相手に確認することも大切になってくる。
「デイサービスは介護が必要な人が行く場所だから、まだ行くのは早いというお気持ちですか?」
といった具合に。
認識違いをそのままにして支援をし続けると、溝が次第に大きくなってくるので注意。
また、本人自身、自分の気持ちをわかりきっていないという場合も大いにある。
そういうときは会話を重ねて、一緒にその人の理解を深めていく。
支援職だけその人の想いを理解してもあまり意味はない。
本人自身、自分の想いや希望をしっかり認識してもらうことが大切。
会話を重ねることで、その人の情報が増え、想像の精度が上がっていく。
繰り返していくことで、「この人は自分を理解してくれる(しようとしてくれている)」という信頼感が生まれてくる。
「空気を読む」というと自分を殺して相手に合わせるというイメージかもしれないけれど、支援職としては「相手の想いを想像すること」というイメージ。
空気を読んで言いなりになるのではなく、相手の想いを尊重しながらしっかり対話していくことが大切だと思う。
こういうコミュニケーションは、福祉・介護業界では当たり前のようにできる職員の割合が多いと感じる(今勤務している一般企業に比べて)。
世の中の人たちが全員相手の想いを想像しながら対話をできるようになったらなぁと思うけれど、それはあくまで理想論であって、やっぱり現実問題としては難しいところも多いですね…。
(黒井自身いつもできているかと言われたらできていないですし)