手書きとワープロ
今から40年程前、私がはじめて目にしたポータブル式ワープロ専用機は、たったの一行表示のうえ禁則処理の機能もなく、記憶媒体がカセットテープだった。
こんな性能でも非常に高価で、価格は私の給料二月分に相当し、とてもではないが手が出せなかった。
なんとか所属部署に一台導入されたものの使用希望者が殺到して順番はなかなか回ってこなかった。
仕方なく原稿の作成には従来の「手書き」に頼らざるを得なかった。
しかし、推敲を人一倍重ねてやっとまともな原稿ができる私はワープロを切望した。
あれさえ自由に使えれば、素晴らしい原稿が出来るのに…。
一方、ワープロの進化はすざましかった。
便利な機能が次々に搭載され、よりコンパクトで低価格になった新製品が、矢継ぎ早に販売された。
皆が挙って購入した。
私は、その進化が鈍化するまで購入は見合わそうと考え、順番待ちをして、部署に配置された例のワープロを使っていた。
しかし、新製品の購入者が増えるに伴って例のワープロは、三月もしないうちに使うのは私だけになった。
私は自由にそのワープロを使って、原稿を作成できるようになったが、捗り具合や出来は手書きの時と何ら変わらなかった。
結局は自分の能力次第ということを痛感した。
<了>