贔屓の球団が決まった日
はじめてのプロ野球観戦は、小学校五年生の時だった。
阪急ブレーブス 対 南海ホークス戦。
場所は阪急西宮球場。
近所の「こんな大人には絶対になりたくない」と忌み嫌うガラの悪い阪神タイガースファンのおっちゃんから外野席で観戦できる券を二枚貰った。
日曜日のデーゲームだった。
野球好きの友達を誘ってみたが、巨人ファンの彼はパ・リーグの試合には興味を示さなかった。
無理もなかった。
当時、テレビではセ・リーグの読売巨人軍の試合しか放送されていなかった。
仕方なく自転車に乗って一人で行った。
プロ野球の試合観戦というはじめての体験にワクワクしながら球場に着いた。
期待に胸を膨らませ、足を踏み入れたライトスタンドは、ガラガラだった。
僕は、トランジスタラジオをイヤホンで聴き、スコアブックをつけながら観戦している一人の初老の男性に目が行った。
俄然興味が湧いて、少し間をあけて横に座った。
「君はブレーブスのファンかな?」。
両軍攻守交替の時に、紫煙を燻らせながらその人が静かに尋ねてくれた。
「まだ、決めていません」、
「じゃあ、君もブレーブスのファンになると良いよ」。
その人は、阪急ブレーブスのことを色々と教えてくれた。
押し付けがましくなくて上品だった。
阪神タイガースの応援を無理強いする近所のおっちゃんとは大違いだった。
僕は、何だかとても嬉しくなって元気よく答えた。
「ブレーブスのファンになります!」。
はじめてプロ野球を観戦したその日は、贔屓の球団が決まった日にもなった。
その翌日からプロ野球の試合の勝敗と順位を新聞で確認するようになった。
贔屓球団となった阪急ブレーブスは、地味な球団だったが、渋くて僕の好みに合った。
毎朝、ワクワクしながら新聞を開いた。
阪急ブレーブスは、僕にプロ野球で一喜一憂する楽しみを教えてくれた。
<了>