【エッセイ】寒いときに「ししゃも」とつぶやく
夕方まで続いた大学の講義が終わって教室を出た。友人2人と駅まで歩く。冷たい風がヒュオ〜と首の隙間から入ってきて、3人で肩を寄せ合った。
「さむ〜い」
「さむいね」
「さむいさむい」
「ねぇ、寒いときってなんて言ってる?」
「え、『さむい』じゃない?」
「今そう言ってたもんね」
「わたしはねー、『ししゃも』って言ってる」
「ししゃもお?!?!」
ちょっと、いやだいぶ意味がわからない。謎すぎる、共感できない、わけがわからないと2人で散々につっこんだ後、ミスししゃもに「どういうこと?」と尋ねた。返ってきたのは「さむいって言ったらますます寒くなるから」という、ある意味定型文的な答え。まあ確かに。そうなんだけど、でもなんでししゃも?本人に聞いても「んーなんでだろうねぇ」と首を傾げるばかり。とりあえず風がふくたびに3人で「ししゃも!」と言い合いながら歩いた。
「う〜、ししゃもだね」
「ほんとにししゃも」
「あはは、震えてるでしょ」
「うん、歯も震えてる」
「!」その瞬間分かった。寒くて歯がガチガチ鳴って、その隙間から漏れる息がちょうど「シ、シ、シ、シ」となることに。シのようなシュのような息の後ろに、シャモッと小声でつぶやくととても収まりがいいのである。
世紀の大発見と大解明のうれしさに隣の友人たちに報告をする。「あ、確かに」「そうかも〜」と穏やかな認証をゲットした。
いやぁ、シ、シ、シ、シシャモかぁ。「シ、シ、シ、シシャモッ」つぶやくともうぴったりなのである。さむいの「さ」まで口を開ける必要なんてなかったのだ。
想像以上にしっくり来たのと言葉のインパクトの大きさで、友人と別れた後もわたしの頭の中はししゃもでいっぱいだった。
電車の乗り換えで階段を降りるときに息が漏れる。「シ、シ、シ、シシャモッ」最寄り駅に着いて自転車に乗った。信号待ちは寒い。「シ、シ、シ、シシャモッ」唱えるうちに自然とあったかく…はならないけれど、寒さが倍増することはない。というより、なんだかおもしろくなってくる。わたしは1人で小さくなーに言ってんだって。
これは斬新でユニークできっと一生忘れない、すてきな冬の乗り越え方。
つたない文章でしたが、読んでくださってありがとうございました!
「ししゃも」のワードが衝撃的すぎて書きました。わたしは結構しっくりくる言葉だなぁと思ったのですが、どうでしょうか?(笑)
ちなみに、わたしの冬の乗り越え方は寒さに対して懐を広げ、「そうだよね、それが寒さだよね、よしよし」と暴れん坊の子どもをなだめるような気持ちでいることです。前述のもう1人の友人は、冷たい風が吹いたときに「なるほど!」と思うようにしているらしいです。いろいろな方法がありますよね。
身体が震えるくらい寒いときに、「ああいま周りの人たちもみんな、独自の方法で寒さに耐えようとしてるんだな」と思うと、なんだか愉快な気持ちになってきませんか?それも寒さを乗り切る1つの方法かもしれない、と思った冬のある日でした。
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