シシュフォス
岩を持って上がれ、とゼウスに言われた。
僕は、はい分かりました、と言った。
君はなさけないと嘆いてる?
だってそう言うしかないじゃないか。
ゼウスは絶対なのだ。
逆らったら、お給料を減らされてしまう。
お給料が減れば、比例して僕へ与えられる愛情も減る。
心なしか、ご飯も減る。
岩は重くて頑固だけど、
とにかく押せばいい。力の限り。
特に難しいことはない。しんどいけど。
――おや?やけに頂上が近くみえる。
今度こそ頂上に持って上がれるかもしれない。
こんな馬鹿らしいことはさっさと止めるのだ。
奴のループにも穴はある。
息巻いて右足で大きく踏み出した瞬間、
足場選びに失敗し、派手にバランスを崩した。
その僕の手の中に、岩はない。
がくりと膝をつく。
――わらうなよ。
これを徒労というのなら、
君のそれだって、徒労じゃないか。
朝にお化粧をして、夜にはすべて落とさなくっちゃいけない。
汚れを落として眠ったかと思うとまたすぐ起きて汚れに行く。
必死に絆を紡いだかと思うと離れてゆく。
生まれたら、死ぬ。
だからといって、止められるわけじゃないのは、僕が一番よく知ってるんだけどね。
……そんなことを考える前に、僕はとりあえず岩を、探さなくちゃいけないんだよ。
そういや、最近聞いたんだが。
倭の国では、建物を完成させないらしい。
完成の次の状態は、崩壊しかないから。
未完成な部分をひとつ、残しておくのだ。
終わらないループには、その手でいこうか。
頂上の直前で立ち止まってやる。
そうすりゃ、
いつか「頂上」は風化して僕の元へとやってくる。
僕は自ずとこの岩を持って頂上に立てる。
――完璧だ。
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