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「仕事」とは、「我慢する」ことでなく「稼ぐ」ことだ。┃為事探し日記⑪

当たり前のことである。
いや、当たり前のことであった。
だけど、忘れてしまいそうになる。
ぐっと爪を立てる。忘れんな、ほかる。

まだ一度も会社員になったことのない学生に、何で退職を決めたかをかいつまんで話してしまった。早まったかしら。
だけど必要なことだと思う。未来の自分にとっても。
今日の自分の話を忘れないために、要旨を書き置いておく。

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入ってしまえば、一生安泰に暮らせる。
――理想郷の話ではない。
多くの日本企業である。……あるいは大学でも同じか。
素晴らしいシステムだ。
ある一時期だけ頑張ればいい。一回本気出せばいい。
そうすれば後は一生安心。
誰もが心穏やかに暮らせる、生物としてはこれ以上ないくらい理想的な環境である。

ある一時期。今だけ。ちょっと我慢すれば。
そしてこのマインドがいたるところに蔓延する。
今苦しめば、後は楽に暮らせる。
指示に従ってさえいれば、頑張ってさえいれば、「要らない」と言われることはない。
結果、行きたくもなかった場所で、したくもないことをして、早く帰りたくても帰れない。独りぼっちの冷えたご飯、離れていく家族。
それでも、「生きていくためには仕方ない」。

忘れていくのだろうか、嫌だって泣くことと、おかしいと怒ることを。
それが大人になるということなのだろうか。

努力家で我慢強く優しい、そんな素晴らしい人ほど、
数十年を勤め上げるという偉業を成し遂げていてさえ、
悲しいかな、こうはなりたくないと思わされる筆頭になってしまう。
批判するつもりは毛頭ない。
悪いのは人じゃなくてシステムのほうだ。
だから哀しい。哀しいんだ。
それから少し怖い。嫌なことを我慢し続けて、仕方ないってつぶやきながら生きていくことが。自分が自分であったことを忘れていくことが。

ビジネスとは、我慢することじゃない。
嫌なことを我慢して笑うのがビジネスマンじゃない。
ビジネスは、稼ぐことだ。
嫌なことをしないために自分と相手と世界を動かしていくのがビジネスマンだ。

従順、正答、ミスをしない、終わるまであきらめない。どれも、AIにできる。
自己主張、反抗、懐疑、憤怒。どれも、AIにはできない。

自分の意志で、選ばなくちゃいけない。
~約24歳は学生、~約65歳は会社員、あとは老後。みたいな人生は、何億とある選択肢のうちのひとつ。「皆がそうだから」に流されるな。そもそも、その「皆」は人類のうちのほんの僅かなデータ。「皆がそう」なんて状況はないし、「皆がそう」は理由にならない。後悔したくないなら、選択するしかない。

自己を抑えて、安定を得るか。
安定を捨てて、自己を生かすか。

無数の選択肢を知ったうえで、流されることを選択するならいいんだ。
そうでないなら、選択肢を探せ。
「仕方ない」なんて言うな。
仕方ないことなんてないはずなんだ。
それを、人生を賭けて証明したいから、辞めるんだ。

言葉がお前自身と完全に一致するように責任を持て!
平野啓一郎『決壊』

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