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保苅実。詩 "Bike riders" by Ray Tauss

Ray Taussは、保苅実の友人である。弟、保苅実は、悪性リンパ腫との診断を受け、息を引き取るまでの10ヶ月間、世界中の友人知人数百人に向けて八つのメッセージを書いた。それらのメッセージと一緒に、そしてときにはそれとは別に、姉として私からもメッセージを書いた。

2003年に彼が亡くなってからも毎年、命日と弟の誕生日と年末年始の三回、
英語と日本語で書くことにし、10年たって命日は辛くなってやめたが、彼がこの世に生まれたことを祝う意味の誕生日と、保苅実とつながる会をサポートしてくれる人たちへの活動報告としての年末年始のメッセージは今も続けている。

ミノルが亡くなった時、大勢の人からメッセージをもらった。Rayはその中の一人である。そして、彼はミノルの友人であり続けるとともに、私の友人になった。年に数回のニュースレターを流すと、彼は必ず返事をくれる。彼の書いた詩がついてくる。私はかなりの読み物好きだけれど、詩はよくわからなくて、言葉が足りないから消化不良になるといつも感じる。Rayの詩は英語だから余計に、わかるようなわからないような感じで読むが、こんな機会でもなければ私が自分から詩を読もうなんてことはないから、少しずつ楽しみに待つようになった。ミノルが、私に遺してくれたプレゼント、だと思っている。

前回の年末年始のニュースレターを出した後にも、詩が贈られてきた。

Bike riders / Ray Tauss

The riders used to come from where 
their bikes were made because 
we don’t make them anymore and anyway 
they rode across the country in a week 
on a machine they understood and marvelled 
and marvelled at what they saw and did 
and their marvel 
lasted longer than their suntan when they went 
back home. 

One stayed, to marvel at his ignorance, 
to absorb and learn and trust, 
accepting a new countryside 
and old people with no rust. 

He saw, he heard, he conquered 
his fears and quelled his heart 
and revelled in the marvellous 
but never drew apart: 

He brought his soul to bare 
and wore it on his sleeve 
where it shone from words and miracles 
until time forced him to leave: 

His marvel stays apparent 
in what he left behind 
and in his sister’s confidence 
he’d struck not gold, but lode. 

There is no journey closing
as he rides across the land 
and carrying from people 
their inner worlds writ grand. 

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初めてグリンジコミュニティを訪れた時、ミノルはバイクで出かけた。キャンベラの大学の指導教官は、どうなることかと、戻って来れないかもしれないと思っていたらしい。オーストラリアは島みたいな顔をしているが、れっきとした大陸である。車を買うお金がなかったのだろうけれど、よくもまあバイクで行こうなんて思ったものである。

バイクで行って懲りて、次は車を買って出かけていった。

Rayのこの詩を読んだ時、離れた時空からオーストラリア大陸を見つめる目が、バイクに乗ってコミュニティに辿り着き、滞在し、全身でグリンジの人々の文化と歴史を受け止め吸収した保苅実、に気づき、彼のことをずっと見守っていたように感じて、体に震えがきた。

おそらく良くないであろう診断を待っている時、「僕にはグリンジの人々との素晴らしい10年間があるから、もし今死ぬことになっても後悔はないよ」とミノルは明るい声で私に言った。

まさかその10ヶ月後、わずか32歳で亡くなるとは思ってもみなかった。


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