『役立つ!実績!困難事例に強いメンタルアセスメント~訪問診療虎の巻~』【#在宅医療研究会 オンライン|11月度開催レポート】
第 41 回となる在宅医療研究会オンラインは、 「役立つ!実績!困難事例に強いメンタルアセ スメント〜訪問診療⻁ノ巻〜」とのタイトル で、杉並区にあります、いずみ小林クリニック 院⻑の小林晃先生にお話しいただきます。
第41回となる在宅医療研究会オンラインは、「役立つ!実績!困難事例に強いメンタルアセスメント〜訪問診療虎ノ巻〜」とのタイトルで、杉並区にあります、いずみ小林クリニック院長の小林晃先生にお話しいただきます。小林先生は、非常に熱い在宅医であり、とてもユニークなご経歴をお持ちの先生でもあります。では、小林先生よろしくお願いします。
ご紹介いただきました小林です。
私は、心療内科を専門にしています。
地元密着の総合「心療」内科として、訪問診療に取り組んでいます。
こちらが本日の内容です。
1)はじめに
まず私自身の紹介をさせていただきます。現在杉並区でいずみ小林クリニックを開業していますが、私自身、杉並区の出身です。ずっと同じ場所で生まれ育っており、私で4代目になります。実は高校は、河田社長の後輩に当たります。大学は工学部に進みましたが、アメフト部に入り筋トレが趣味になりました。その後工学部を中退し、山梨大学医学部に進みました。
卒業後は、東京大学で研修を行い、心療内科を専門にするようになりました。その後、心理学の勉強をしたことや精神科病棟で勤務したこともあります。新型コロナウィルスの感染が拡大した時期は、横浜労災病院の心療内科で勤務しており、ダイヤモンドプリンセス号で働いた人たちとも一緒に勤務をしていました。この頃緩和ケアをしている方達から相談を受け、せん妄対策にも取り組んでいました。この時に学んだことは、在宅医療をする際にも役立っていると感じています。横浜労災病院を退職した後は、コロナ診療や在宅医療を中心としたフリーランスとして働き、東京都高齢者等支援施設などでも勤務した経験があります。
その他、私自身の特徴としては、医療者+家族介護者であることが挙げられます。私の父は歯科医師ですが、現在要介護1となっています。私は心身医学(内科+メンタルヘルス)をベースにした総合診療医として働くとともに、家族の介護にも取り組んでいます。家族の介護をしていますと、色々と腹が立つこともあります。このような経験をしていることが、実際に家族の介護をしている方たちに、共感を持って対応できることにつながっています。
昨年12月には、コロナ+内科+メンタルを診ることができる在宅医療のクリニックとして開院しています。今年になって、機能強化型在宅療養支援診療所、また自立支援医療機関(精神通院)としての役割も果たすようになっており、在宅プラス施設の医療を、情熱を持って行っております。
当院ができることですが、半径5キロメートル程度の居宅・施設に対する定期訪問診療、在宅終末期医療、在宅での心身の治療全般に、可能な範囲で対応しています。
また、楽しく快適に生活できる在宅を目指しており、患者さんによっては、施設、病院、自宅を行ったり来たりし、ときには旅行を楽しむことができるよう、様々な要望に対応するようにしています。在宅医療は、家でしなければならないとは考えておらず、施設への訪問にも対応しています。
逆にできないこと、しないことは、本人の同意を得ていないこと、利益に対してリスクが明らかに大きすぎることなどです。例えば、在宅での緊急中心静脈路確保や緊急での輸血などが該当します。
2)精神科訪問診療とは
次に、精神科訪問診療について、ご説明いたします。
通常の訪問診療では、利用者である患者さんのお宅へ、在宅療養支援診療所等から、定期的に訪問を行い、医療を提供しています。その中で、精神科訪問診療とは、どのような診療区分で行っているのかについてご説明します。
在宅医療は、基本的には総合診療です。病院のように、専門診療科が分かれていて、それぞれ自分の専門分野の患者さんしか診療しないと言うわけではなく、内科であっても精神科であっても、全てを総合的に見るのが在宅医療です。したがって精神科訪問診療は、精神疾患だけ診ると言うものではなく、内科疾患と同時に、患者さんの心理状態を見る、またうつ病や統合失調症などの疾患も在宅で対応しています。
患者さんの不穏、不眠、疼痛も並行して診療しています。在宅緩和ケア治療中の患者さんの自殺企図などにも対応しています。とにかく在宅で医療を受ける患者さんの内科的治療と合わせて精神的問題にも対応する、それが精神科訪問診療であると考えています。
自立支援医療(精神通院)とは、何らかの精神疾患により、通院による治療を続ける必要がある方が対象です。例えば、統合失調症、うつ病、躁うつ病、てんかん、認知症、脳梗塞後精神異常などを含みます。精神通院とありますが、実際は在宅医療にも適用させることができます。
助成の制度があり、自己負担限度額もあります。週三回以内の精神訪問看護、訪問薬局も包含されます。これらを含んで、月5000円ほどで利用できますので、困っている方にはぜひ活用していただきたい制度です。
3)総合診療の使える情報リンク方法(SOAP)
ここから、本日のお話のコアとなる、総合診療における情報のリンク法についてご紹介します。
SOAPとは、医師も看護師も、よく使うものではないかと思います。主観的情報であるS (subjective)、客観的情報であるO (objective)、評価であるA (assessment)、そして計画であるP (plan)の頭文字をとったもので、患者に関する情報を共有する書き方のお約束です。
主観的情報は、患者さん本人や家族の発言です。客観的情報は、私たち医療者や介護を含む周囲からの情報からわかるもので、測定できる根拠になります。評価は、これらの情報、根拠をもとにした考察のことです。そして計画は、考察から考える今後の方針になります。
それぞれもう少し詳しく説明します。
S (subjective)は、患者さんやキーパーソンの話になりますが、Sはメンタルケアにとても重要な情報です。情報源となる介護者の方のご協力が大事で、感想であっても大切な情報です。
情報として、多くなってしまう傾向はありますが、あるがままをしっかりと記載するようにします。ここは、私たちが書いても良いですし、訪問看護師の方に書いていただいても構いません。
O (objective)は、感想ではない情報を記載します。食事、睡眠、活動などの客観的情報を含みます。介護や便通などの生活に関する情報も客観的情報であればO (objective)に記載します
A (assessment)は、いただいた、あるいは診たSやOの情報をもとに、どう考えたのかを記載します。なぜその患者さんの薬を変えたのか、あるいは変えなかったのか、なぜ処置をしたのか、あるいはしなかったのか、などについてわかりやすく記載をします。この考えをもとに、診療の方針を計画しますが、併せてA/P (assessment and plan)と記載されることもあります。A/P のクオリティをあげることは私たちクリニックの役割だと考えていますので、わからないことがあれば何でも聞いていただければと思います。
なお、トラブルになるケースには、大事なOを見落としている、根拠のあるAをたてられていない、身体しか見ていないことなどが原因となることが多くなっています。また医療者の怠惰だけでなく、正義感もトラブルのもとになりますが、患者さんに関する情報を丁寧に集め、しっかりとA (assessment)を考えることが、トラブルを防ぐために大切です。
ここで、訪問診療におけるSOAPの書き方の例をご紹介します。
これが内科的なアプローチです。これに精神科としてのアプローチが加わると、以下(太字)のようになります。これは実際にあった事例です。
このように、情報をしっかりと集め、精神科的なアプローチを加えると、対応が大きく変わることがあります。
またよくある事例検討で
このような事例では、メンタル系・人間関係のアセスメントが足りていないケースが多くみられます。
次に精神科中心の総合診療事例をご紹介します。
こちらは精神科中心の総合診療事例になりますが、このような事例では事業所間での密な連携も重要です。先ほどご紹介したよくある事例で、「他の事業所の悪口をいう」というものをご紹介しましたが、事業所間で連携ができていると、利用者が悪口をいう人であることがわかり、しっかりと対応ができるようになります。
太字のところは精神科的な内容を含みますが、総合診療を実践する在宅医療では、特に内科と精神科を分ける必要はないと考えています。
・精神科訪問診療は、ほぼ「すべて」の在宅医療で遭遇します!
・総合マネジメントを適切に行うことが総合「心療」内科としての私の役割だと考えています。
S、Oの収集は、みなさまの普段からの力添えが必要です。ぜひ、みなさまと連携して働くことができればと考えています。
まずはここまでの内容で十分ですが、さらに先、地域の問題解決にどのように生かすと良いのか、当院の「問題解決型」診療体制について、続けてお話したいと思います。
4)当院の「課題解決型」診療体制
これまで、精神科訪問診療、自立支援医療、またSOAPについてお話をしてきましたが、これらを活用して取り組んでいるのが、当院における課題解決型診療体制になります。
まず当院の診療体制についてご説明します。
診療走行(表現に間違いないか確認をお願いいたします)は、3人1組で行っています。昨今、訪問診療の現場で危険な事件が発生していることもありますので、危機的状況への対応も視野に入れ、日中は複数人で訪問するようにしています。具体的には医師、看護師、ドライバーが1組となっています。
次に診療チームですが、大きいところでは相談員さんを別に置いておられるところもあるかもしれませんが、私たちは相談員の業務を並行して行っています。各事業所と直通電話でつながるようにしてあり、休日であっても、まず看護師に電話がつながるようにしています。休診日であってもオンコールで対応しています。
事務スタッフには、看護師経験のある方を配置していますので、事務スタッフでありながら、専門家の視点で全体のマネージメントもしてもらっています。
なお当院では、看護師には経験年数が10年程度、訪問看護の経験があることを重視しています。また、事務職員には、ICTツールに長じていることを求めています。
当院では、職員に勉強する時間を確保できるようにすることを意識しています。職員の平均勉強時間は、週あたり10時間となっています。知らないことはすぐに自分でググって調べる(Googleで検索する)ことを勧めています。また、各患者さんの勉強会をランチョンカンファレンスとして行っています。一人ひとりの患者さんについて、関係する事業者の方々と丁寧に学ぶ期間を設けています。このような時間を確保するためにもICTツールを活用し、仕事の時間を出来る限り短くすることができるよう工夫しています。
情報発信するときは、出来る限りわかりやすく、でも充分詳しい内容になるよう意識しています。専門性が高すぎる用語や横文字はなるべく使わないようにしています。
事業連携と対応についてご紹介します。まず、事業者の方達との連携ですが、医療必要度が比較的高い場合、例えばレスパイト入院であれば、各病院と直接連絡を取るようにしています。杉並区後方支援病床や医療型有料老人ホームなどを活用しています。
医療必要度が比較的低い場合、ショートステイ、特別養護老人ホーム、グループホーム等と連携しています。とにかく連携を強め、関係性を太くしていくことを意識しています。
次に病院との連携ですが、入院終盤の治療は在宅でも行うことができますので、入院時の治療を在宅で継続することで、入院期間の短縮にも貢献できます。
高度な処置が必要な場合は、近隣の病院や大学病院とも連携しています。迅速な情報共有をするために、診療情報提供書はすぐ発行するようにしています。
5)今後の展望
最後に今後の展望についてです。
コロナがおさまってきましたので、診療日数も増やし、他の事業者とどんどん連携を強化していきたいと思っています。
またICTを活用し、データリンクも進めたいと考えていますが、無理をするつもりはありません。
とにかく元気いっぱいで在宅医療に取り組みたいと考えています。ちなみに当院の幹部三役は、ヘッドハンティングをして、きていただいています。とても良い方たちが揃っていますので、ぜひ私たちとの連携を深めていただけましたら幸いです。
私は皆さんと一緒に在宅医療に熱中したいと考えています。せっかく自分の大切な時間を作って仕事をしているのですから、「働かなければならない」と考えるのではなく、楽しく働きたいと思います。楽しさは、モチベーションとクオリティーの源です。皆さんと一緒に、在宅医療を盛り上げていくことができれば幸いです。
私は、もともと専門医療に従事していました。専門の医療機関で働くうちに、専門医療が持つ問題やネガティブな部分について教育を受けました。そのため、総合診療に対して情熱が湧き、総合診療に取り組むようになりました。しかし振り返ってみると、専門医療を身に付けていたことで、総合診療に取り組む際に、その知識や経験がとても役に立ちました。そして、今のように総合診療と精神科診療を掛け合わせた診療を提供できるようになりました。私自身は今までにない、最高の医療機関を作っていきたいと、心に決めています。どうぞよろしくお願いいたします。
7)質疑応答
今後の予定につきましては下記リンクよりご確認ください。
医療職・介護職・福祉職の方であればどなたでもご参加いただけます。
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