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『認知症とは、特にアルツハイマー病について』【#在宅医療研究会 オンライン|7月度開催レポート】

今回は、練馬区光が丘にあるきくかわクリニック院長でもあり、東京医科大学老年内科にもご所属の菊川昌幸先生から、「認知症とは、特にアルツハイマー病について」とのタイトルでご講演いただきました。

1. 平均寿命と健康寿命

認知症についてお話しさせていただく前に、2つの寿命についてご紹介します。
 
平均寿命と健康寿命ですが、この2つの寿命には男女ともに10年近い開きがあります。私たち老年内科医は、いかに健康寿命を平均寿命に近づけて上げるか、ということを意識して、診療をしています。
ではそのために何をすれば良いのか。
健康を損なう原因、生活障害をきたし、要介護となる原因として、脳血管障害、認知症、骨折の3つが大きく影響しています。この3つを重点的に治療していくことが、とても重要になってきます。

2, 超高齢社会と認知症の急増

現在の日本では25%以上が65歳以上であり、世界一の高齢化社会、長寿国家です。これが2050年には35%、つまり三人に1人が65歳以上という、人類が今まで経験したことのない高齢化社会に突入します。
 
今から10年前ですが、認知症の方は460万人程度いるのではないかと考えられていました。その当時、軽度認知症の方が400万人くらいおられ、その半分くらいの方がその後認知症を発症したと考えると、現在はおよそ600万人近い認知症の方がおられるのではないかと推定されます。
認知症は、75歳を過ぎると指数関数的に激増します。80歳を超えると、半分くらいの方が認知症を発症しておられますので、高齢者によくあるコモンな(身近な)疾患であると言えます。認知症の原因として、アルツハイマー型認知症が7割、そのほか脳血管型、レビー小体型とつづき、この3つが認知症のメインとなるタイプになります。

3. 認知症について

認知症と加齢に伴う物忘れと何が違うのでしょうか?
 
基本的に老化に伴う物忘れは、生活に支障がないことが大前提です。しかし認知症に伴う物忘れは、生活障害が出てきます。
また物忘れであれば部分的に忘れることが多く、ヒントをあげると思い出せることが多いのですが、認知症の場合は、出来事そのものを思い出せなくなり、いくらヒントをあげても思い出せなくなります。
認知症の7割が、アルツハイマー型認知症です。ただアルツハイマー型以外にも認知症の原因はあり、正しく診断し、適切な薬を使用することで、治療できたり、病状の進行を遅らせたりすることもできます。また病状の見通しが立ち、介護環境を整備しやすくなります。

4. アルツハイマー型認知症

アルツハイマー型認知症は、高齢者にはとても身近な病気です。その進行は年単位で、緩徐であることが特徴です。また徘徊や興奮など、激しい症状がみられる人が多くおられます。なおこの激しい症状は、周囲の対応次第で良くなりますので、介護者への指導が大切になってきます。
 
アルツハイマー型認知症の方の脳のMRI画像を健常者と比べると、海馬と呼ばれる部位の萎縮を中心に、脳全体に萎縮が起こっています。
病理としては、アミロイド(いわゆるシミ)が沈着することが特徴です。海馬や側頭葉を中心に神経原繊維変化リン酸化が起こり、その後最終的には神経細胞が死滅し、病気を発症しています。
80歳でアルツハイマー型認知症を発症する場合、30年前である50歳くらいからアミロイドの蓄積が始まります。その後、かなり長い時間をかけて病理変化が起こっています。
例えばアルツハイマー型認知症を発症した画家の自画像を見ると、年を経るにつれてしっかりと書けなくなっていきます。時計の描画テストも同じです。
生活障害には、物忘れ、同じことを繰り返す、置き忘れ、日付がわからない、ということが起こります。そのほかにもリモコンが使えない、ガスが使えない、薬を飲み忘れや飲み間違えが増えるなどが生じます。
簡単に物忘れと認知症を区別するため、1分間動物スクリーニング法が有用であることがわかりました。動物の名前をできるだけ多くあげてもらいます。1分間で13個以上言えると健康だと言えますが、それ未満だと認知症の可能性が高くなります。
もっと簡単に区別する方法は、最近のニュースについて聞いてみることです。通常最低でもひとつはあげられるものです。これが認知症だと全くあげられなくなります。「歳なのでテレビや新聞を見ないのでわからない」という反応もありますが、これは認知症によくある話を合わせてくる「取り繕い」である可能性があります。
Mini-mental state examination(MMSE)は、世界中で行われている認知症のテストですが、23点以下だと認知症の可能性が高くなります。

5. アルツハイマー型認知症の治療と対応

アルツハイマー型認知症では、なかなか治癒を目指すことは難しいです。もちろん新しいタイプの薬である抗体医薬が出てきてはいますが、まだまだその効果は定かではありません。
やはりまだ、進行を遅らせる治療が中心となっています。
では、治療において何を目指すのか、ということですが、今の生活が長くできるように、自宅で長く生活できるようにすること、介護する方の負担ができるだけ起こらないようにすることが、現状における目標になります。
 
薬剤としては、コリンエステラーゼ阻害薬であるアリセプト、レミニール、そして貼付剤であるイクセロン、またNDMA受容体阻害薬であるメマリーという4つが出ています。
非薬物療法としては、デイサービスが重要です。最近、認知症の方の筋力維持が、イコール認知機能の維持とパラレルであるということがわかっています。また人とのコミュニーケーションも重要です。
 
私たちが行った研究ですが、デイサービスに行っている人と行っていない人では、認知機能の進行に差はありませんでした。しかしサービスに行っている人のうち、楽しく参加できているかどうかを比較すると、楽しんでいる人の方が、有意に認知機能の悪化が遅くなっていました。つまりデイサービスなどでは、できるだけ楽しくなるような工夫をすることが、とても大切になってきます。
また家族に対しては、本人ができることはさせてあげる、例え上手にできなくても、また動きが遅くても、できることを手伝いながらでもさせてあげる、そしてできないことを補うことを意識するようにお伝えしています。またプライドを傷つけるような質問はしないこと。本人を試すような質問はしてはいけません。
また認知症の方は、感情がとても豊かになられ、普段置かれている環境や雰囲気の影響を強く受けます。いつも周りから怒られていると萎縮してしまいますし、穏やかな環境にいると穏やかになられます。
最後に、家族が病気について理解することが重要です、そしてサポートをしてあげることです。医療、介護、行政福祉が一緒になって、患者さんを支えていくことが大切になってきます。

6. 認知症の予防について

アルツハイマー型認知症は、長年の生活習慣病の上に成り立っています。高血圧や脂質異常症を放置していると、血管老化が起こり、アルツハイマー型認知症に至ります。生活習慣病の数が増えるほど、アルツハイマー型認知症を発症する危険性は高まることがわかっています。したがって生活習慣病を治療すること、放置しないことが予防につながります。
人と接することや知的活動の習慣も予防につながります。例えばダンスをする、頭を使うチェスや将棋などが予防につながります。また筋力を保つ運動も重要です。
魚に含まれるEPAもいい栄養素です。これは生魚の方が良いでしょう。
ワインは無理に勧めるものではないですが、週に1杯程度が良いと考えられています。
65歳以上で毎日40分くらいのウォーキングや運動をしている人では、がんや認知症を発症するリスクが減ったという報告もあります。
日々の生活を健康的に過ごすこと、これが認知症予防に重要なことだと言えるでしょう。

7. 質疑応答

Q1.脳の萎縮は認知症がどのくらい進行すると見られるようになるのでしょうか。

個人差があります。脳の萎縮が結構あるのに、認知機能が保たれている人も結構おられますし、萎縮があまりないのに認知機能が落ちている方もおられます。
ただ一般的にMMSEが20点台ですと、海馬の萎縮はまだみられないことが多いです。
萎縮の程度に差が見られるのは、発症前の教育歴などが影響しており、神経ネットワークが保たれている人は、萎縮があっても認知機能が保たれているのだろうと考えています。

Q2.膀胱腫瘍があり、ベッドで終日臥床している方。トイレ歩行が唯一リハビリだと本人頑張っている方です。認知症のため、排尿回数、量と、排便回数、量を把握出来ないため困っています。ポータルトイレは使えないなかで、どうしたらよいでしょうか?

施設にいると転倒のリスクがあるので、なかなか難しいのですが、家庭であればトイレに行ってもらうとよいのではないかと思います。危険な行動ではないので、自宅にいる間は好きにいかせてあげるようにするのがいいのではないかと思います。

Q3.生活障害の中のクスリが飲めない場合の工夫の仕方があれば教えてください。
お薬カレンダーにしたり、ヘルパーや看護師が介入時内服させる、家族に依頼する等あると思うのですが教えて貰えたら幸いです。


例えば独居の方は一包化にする。アリセプトやメマリーは半減期が72時間と長いので、デイサービスや訪問看護に合わせて、週3回程度内服してもらうのも一案です。あとは薬剤師に入ってもらい、服薬支援ロボを導入するのもいいでしょう。

Q4.MMSEのカットオフ値前後の方、どのタイミングで受診、医師への認知症薬の依頼をかければ良いでしょうか。

早めの受診を勧めるのがいいと思います。軽度認知機能障害の方だと思いますが、何からきている認知機能障害なのかを調べておく必要があります。進行すると手を打てなくなるので、早めに老年内科、神経内科への紹介がいいでしょう。

Q5.デイサービス、ヘルパーなどは拒否、家族への暴力があり家族の負担が増えている方がいます。リハビリしか介入できていない場合に重要なことはありますか。

暴力があり、受診拒否があって暴力的、なかなか難しい事例かと思います。どうやって医療機関を受診させるか、ということかと思いますが、信頼している主治医がいれば、物忘れや認知症のための診察と言うと拒否的になるので、健康診断のような形で精神科や認知症専門の医師に紹介してもらうのがいいです。
家族と相談しながらうまくやっていくしかないですが、家族も暴力を振るわれるので嫌がられることもあります。ただ認知症を専門にする医師に受診すると、薬を使うこともできるので、状態が落ち着くこともあります。薬を使い出してから、デイサービスに楽しく通っている人もいるので、とにかく一回受診につなげることです。

Q6.今日は貴重なお話をありがとうございます。
現在、訪問診療に従事している内科医です。アリセプトの増量時期(例えば、5㎎→10㎎)は何か指標とされていることはございますか?よろしくお願いいたします。

タイミングは色々あると思いますが、アリセプトは5mgで始めます。しかしMMSEで年間2点を超える悪化が見られる場合、これは薬が効いておらず、進行が早いと考えられますので、私はメマリーを追加します。アリセプトを増量しても構いませんが、増量すると副作用が出て飲めなくなってしまう方が結構おられます。それでも進行する場合は、アリセプトを8mgにすることもあります。

Q7.認知機能が進行し悪化していくと、メマリーという薬を増量することになるケースが多いのですが増量する前に出来ることやどの程度になったら増量を検討すべきでしょうか?

最初はアセチルコリンエステラーゼ阻害薬を使います。中等症以上で、MMSEで20点を切るとメマリーを使うのがよいでしょうか。

Q8.魚の中でもDHAが一番高いものはなんですしょうか?患者さんから聞かれることが多いのですが。。。

よくわかりません。

Q9.独居の方の訪問看護をしています。
認知機能低下してきており、薬の内服の管理が難しくなってきた方に、アプローチとしてカレンダーを勧めたところ、楽(らく)をしたらダメだ、と拒否がありました。
どのようなアプローチが良いでしょうか?


家族がいれば、毎日電話をしてもらって内服を確認する、看護師が訪問した際にお薬をチェックする、くらいしか手はないように思います。

Q10.服薬の拒否が続き不穏状態が長く続いてしまう方がいらっしゃいました。
認知症に対する薬を注射で投与できると聞いたことがあります。どこの病院でもできるものなのでしょうか?


注射に関して、薬としてはありますが、クリニックや在宅で投与することは難しいです。その代わりによく使うのはリスパダール液です。これは甘いので、お茶やコーヒーと一緒に内服してもらいます。1時間くらいで効果が出てきます。

Q11.認知症の方とどのように関わっていったら良いか分からないと言っているご家族がいらっしゃいます。
そのような家族に対してどのような声かけをしたら良いのかが分かりません。
取っ掛かりとしてどのようなことを伝えていったら良いのかご教授ください。


まず受身的な立場、相手を否定しないで話を聞くことです。認知症の方は自分のことが正しいと思っていますので、無理に直そうとすると、プライドが傷つけられ、易怒性が増してしまいます。これでは介護をする人の負担が増してしまうので、やはり受け身になることだと思います。

Q12.当方は地域の総合病院の内科外来で働いており、先生からも高齢の認知症患者のご紹介をいただくことがありますが(例えば貧血精査)、
毎回どこまで精査すべきか悩みながら対応させていただいております。
①ご本人の意思決定能力が十分ではない場合に、どのようなプロセスでご紹介いただいているのか(逆に紹介を控えるケースがどのくらいあるのか)、
②認知症患者における理想的な病診連携のあり方、
③先生が認知症患者の日常診療で心がけておられること、以上3点についてお教えいただければ幸いです。


例えば60歳くらいで若い方であれば、できる限り精査して、初期の段階から積極的に治療をします。ある程度高齢の方であれば、積極的に治療をするよりは、自宅で家族と共にゆっくりと過ごせるように、家族が管理できる範囲での治療をするように心がけています。

Q13.アルツハイマー型認知症とうつ症状が併発した場合、薬物療法や支援上の注意事項があればご教授願います。

この2つは、初期の頃に合併しやすくなっています。特に記憶が失われていくことに、恐怖を感じる方がおられます。その場合うつ症状を発症する方がおられます。
認知症初期でうつ症状が見られる場合は、レミニールがよく効きます。これはアセチルコリンエステラーゼ阻害薬ですが、同時に神経末端でGABAなどの神経伝達物質を上昇させます。そのため、うつ症状にも効果を認めることがあります。
またSSRIなどを併用することもあります。ただ認知症に伴ううつ病は治療が困難で、薬が効かないこともよくあります。

Q14.認知症の方の訪問リハビリを行なっております。
ベッド上で寝たままで下肢のストレッチなどのリハビリを行なっていますが、
介助にて膝を曲げる、下肢を挙上すると、カタレプシーの様に足が宙に浮いたままの状態でそのままの肢位を保つことがよく見られます。
足の緊張は高い方ですが関節拘縮はそこまで進んでいない方です。
認知証の周辺症状でそのようなことが見られることはありますでしょうか?
またこのような場合、緊張を和らげるような方法がもしあれば教えて頂けると幸いです。

あまり聞かない症状ですが、レビー小体型ではパーキンソンニズムによる筋固縮が合併することがあります。
この場合、パーキンソン病の薬を使うこともありますが、基本的にはリハビリで対応するしかないのでは、と思います。

Q15.アルツハイマー型認知症の方で、ドネペジル10㎎とメマンチン20㎎を内服しています。身体機能的には自立していて、むしろ体力もあるのですが、食事に対する意欲低下がみられ、食事摂取が十分にできていない状態です。内服の副作用もあるのでしょうか?

これはアリセプト(ドネペジル)10mgだとこのようなことが起こり得ます。
わたしであればアリセプトを中止し、リバスタッチパッチ・イクセロンパッチに変更します。このパッチ剤は、前頭葉を活性化させ、食欲中枢を機能させることで食欲をあげる作用があります。
薬を少し変えることで、異なる作用が見られることもあるので、行き詰まった時は薬を変えるのも有効かと思います。

Q16.施設の御利用者様です。お食事をまだ、かろうじて召し上がれていますが、
飲み込むのを忘れてしまっている方がおり、マッサージをしながら口の中に溜め込んでいる食事を飲んでいただいて、
毎食数口でも召し上がれている状態です。何か対応策あれば教えてください。


なかなか難しいですね。食事介助は大変だと思いますが、ご本人の状態に合わせ、食事の形態も調整するしかないのでは、と思います。

Q17.デイサービスなど外出を嫌がる方が多いです。家族も本人が嫌がると消極的になってしまいます。
先生が使われる外へ出てもらうことを勧める口説き文句は何かありますか?


デイサービスに行ってくださらない方は、男性に多いですね。強制的に行っていただくわけにはいかないですし、無理やり行っても効果はないです。ほんと15分でもいいので、日の光を浴びに行こうね、とよく言っています。曇りの日であっても光を浴びることで不眠の解消にもつながります。なかなか口説き文句はないですが、日光浴でいいので一日一回、外に行こうとお話しています。

Q18.デイサービスに楽しく行かれている方のほうが、認知症の進行が遅いとのことでしたが、もともとの性格が明るく朗らかな方の方が、認知症に罹りにくい、ましくは罹っても軽症で済む、進行が遅い、などの印象はありますか?

病前性格については、はっきりとしたデータはありません。ただうつ病の方は認知症発症のリスクが高いと言われているので、生活を楽しんでいる人の方が認知症になりにくいのかもしれません。

Q19.ケアの受け入れなどむすがしい時があります。認知症の方の意思決定はどこまで優先すれば良いのか?

基本は、ある程度ご自身の意思、自主性を尊重することが重要だと思います。ただ危険な行為があれば、しっかりと止めます。事故にならないような対応は必要です。

Q20.認知症の自覚がなく、ご家族は困っていらっしゃり、受診をしてほしいとおっしゃってます。
受診につなげられたご家族とご本人のやりとりなどエピソードありますでしょうか?

よくあることです。ご自身が認知症ではないと思っておられると、なかなか受診につながらないです。やはり認知症と言う言葉は重いので使わず、健診、脳ドックに行くと説明して受診してもらうようにすると、うまくスムーズに進むことがあります。


今回は非常にたくさんのご質問をいただき、みなさまの関心の高さや日々のケアでお困りの点が多いことが見受けられました。今回の在宅医療研究会オンラインが皆様の活動に少しでも貢献できればうれしいです。時間の都合上、すべてのご質問について取り上げることができなかったので、ぜひ続編などを検討していきたいと思います。菊川先生、ご参加いただいたみなさま、ありがとうございました。

今後の予定につきましては下記リンクよりご確認ください。
医療職・介護職・福祉職の方であればどなたでもご参加いただけます。


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