相手を知り選択する、柔軟な関わりと実現できるケアの実践【#在宅医療研究会レポート(2019/9/18②)】
9月度の在宅医療研究会が開催され、2つのテーマで講演が行われました。
■講演①
演題「当院における緩和ケアの現状~ACPを踏まえて~」
演者:東邦大学医療センター大橋病院 消化器内科 徳久 順也 先生
■講演②
演題「当院での緩和ケア~外国人患者との関わりを通して~」
演者:東邦大学医療センター大橋病院 緩和ケアチーム 緩和ケア認定看護師 吉田 小百合先生
※今回は講演②についてレポートさせて頂きます。
テーマは「当院での緩和ケア~外国人患者との関わりを通して~」
登壇して頂いたのは、東邦大学医療センター大橋病院 緩和ケアチーム・緩和ケア認定看護師の吉田小百合先生。
文化の違いや言語の壁、生活や環境の問題からケアが困難だった外国人患者さんとの関わりを通した学びについて話していただきました。
事例で紹介されていたアジア系外国人のAさん(60代女性)。
日本語は簡単な言葉でやりとりができる程度だったそうで、吉田先生はAさんと話すときはスマホなどを活用していたそうです。
Aさんは母国に帰っても頼れる人がいない状態で、日本でも頼れる相手は内縁の夫のみ。
そしてその内縁の夫も生活保護と年金で生活しており、二人の家にあるのは布団一枚とちゃぶ台程度、二人でひとつの布団を共有し、寝る時間以外は空調がある公共施設で過ごすといった生活を続けていたそうです。
そんなAさんは、緩和ケアチーム介入時には左乳癌のステージⅣ、皮膚・リンパ節・多発肺・肝転移状態で、左乳房には自壊層がある状態。ここまで乳癌が進行するまでにも、3年前からAさんは何度か大橋病院の外来を受診していましたが、検査途中に帰ってしまったり、受診日時を間違えて治療の話し合いが進められなかったりといったこと続き、言語の違いや理解度、さらには家に電話がないという背景から治療が進められない状況が続いていました。そして、ステージⅣまで進行し抗癌治療適応ではないと判断され、緩和ケアチームの介入が始まりました。
緩和ケア初診時、Aさんは予後一年。長く生きられないこと、痛みや自壊部の痛み・治療の不安や恐怖、経済的困難さからの住環境・衛生環境の問題など、様々な問題を抱えていました。
緩和ケアチームで挙げた問題点は、大きく分けて3つ。
①痛みについて
・理解力
・薬に対する抵抗感
・症状の進行
・自壊部の炎症
・呼吸困難感が現われる可能性が高い
・費用面
②自壊部のケアについて
・理解力
・夫の介護力
・自壊部の出血リスク
・費用面
③医療の継続について
・通院が継続されない恐れ
・薬の自己中断・内服間違い
・現状把握がしにくい
・住環境の問題
・自壊部の正しいケアの習得とケアの継続
・自宅環境がいつまで継続できるのか
言葉や文化の問題などによりAさん本人も内縁の夫も理解力がないこと、経済的に困窮しており必要物品を揃えるのが難しいこと、自宅の衛生状況など、自宅でのケア継続には様々な問題がありました。
処方が明らかに守れていなかったり、臭いが診察室に残るほど本人・内縁の夫の全身から浸出液の臭いが出ていたり、浸出液が止まらない自壊層をガムテープで押さえていたなど、病院だけでは対応できないことが明らかな状況に。
ケアの方針
そこで、
①シンプル
伝え方をできるだけコンパクトに、治療やケアはわかりやすく、生活スタイルに合う方法を選択
②低コスト
材料をなるべく増やさず、安価なものを
③早急な地域連携
外来受診だけでは在宅療養の継続が困難なため、地域・訪問看護のサポートを導入し生活状況を正しく把握する
といったケアの方針が立てられました。
そこから、緩和ケアチーム・医療ソーシャルワーカー・訪問看護などで早期に連携を図りましたが、ここでもAさんが訪問看護スタッフとの顔合わせの日時に現れないというトラブルが発生。その日は「行こうとしたら具合が悪くなり来院できなかった」という事情があったそうですが、これも電話がないために連絡できないという背景から起きた問題。その後、確実に顔合わせができるよう自宅へ訪問する日程を伝えたそうですが、訪問当日に本人は不在で夫しかいなかったそうです。それでも調整を重ね、やっと訪問看護での介入が開始されました。
訪問看護にはホウカンTOKYOスタッフが対応。文化の違いや言語の問題からコミュニケ―ションの難しさ、薬カレンダーを用意しても必要な内服ができていないこと、「痛くても薬はなるべく飲みたくない」という本人の意思など様々な課題がありながら、大橋病院側(外来・緩和ケアチーム)と訪問看護側で密に情報共有を行いながら約3か月の在宅生活を支え続けたそうです。
その後、症状が落ち着き外来受診のペースを減らし在宅メインの生活となったそうですが、Aさんが相談相手のいない不安や症状・自壊部のケアへの恐怖から何度も救急車を呼ぶ・救急外来に来るといった状況が続き病院に入院。
入院後は、衣食住・生活環境が整った病院での生活、医療者にケアを受けられる安心から病状が安定。入院生活では、文化や考え方・表現の違いから、病棟スタッフが対応に困ることが多かったそうですが、そこで緩和ケアチームが介入し文化の違いについての話し合いなどを行い、対応を考えていったそうです。
その後のAさんは徐々に病状が進行し、病院で最期を迎えました。そして亡くなった際も、自宅に電話がなかったことから内縁の夫への連絡手段がなく、来院を待って死亡を伝える形となったそうです。
まとめ
・相手の文化を知り、相手を知ろうとすることが大切
・相手の状況に合った実現可能な医療・看護の選択をする
・意思疎通が難しいからこそ、あらかじめ先を見越した対応の検討が必要
・柔軟性に富んだ密な情報交換と信頼できる地域のリソースとの関係づくりが大切
吉田先生は難しい症例だったからこそ、Aさんとの関わりから多くのことを学ぶことができたそうです。
相手の文化や考え方を知ろうとすること、相手の状況に合わせた医療・看護の選択、柔軟な関わりや周囲との連携などは、外国人患者との関わりに限らずあらゆる場面で活かされていくのではないでしょうか?
吉田先生、ありがとうございました。
●今後の開催予定
今後の予定につきましては下記リンクよりご確認ください。
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