ウェンディーさんとのラーニングストーリーのセミナーのシェア会8/21まとめ

先日、ニュージーランドのラーニングストーリーの開発に携わったウェンディー・リー先生とのセミナーで通訳をさせてもらい、学んだことがたくさんあったので、急きょ昨日シェア会をしました。そのときシェアしたことをここにまとめておきます!

ニュージーランドでは1996年に幼児教育要領・指針にあたるテ・ファーリキが作られ、1998年にラーニングストーリー開発が始まりました。ウェンディーさんはそこから20年以上、ラーニングストーリーなどのアセスメントについて広める活動をされています。僕自身も2017年からニュージーランドの保育現場で働くかたわら、実践や幼児教育要領・指針にあたるテ・ファーリキのことを伝える活動をしているので、打ち合わせのときからウェンディーさんのお話にうなずくことがいっぱいありました。セミナー当日は、参加者の方に「お二人の情熱が伝わりました!」と言っていただきました^^

ポートフォリオというプレゼント

ラーニングストーリーを毎月書いていくと、子どもがどんな子でどんな学びをしてきたかのポートフォリオになります。ウェンディーさんの話の中で、あるNZ人が21歳の誕生日に、「僕の人生の中で一番大切なドキュメント(書類)」として、3~4歳の頃のポートフォリオを披露したというお話がありました。僕たち保育者のアセスメントが、ポートフォリオが、子どもが成長してからもいかに宝物となるかという例で話していました。

※誕生日の人がパーティーを開く。21歳の誕生日を盛大に祝う文化がある

ラーニングストーリーは、先生の質向上のために価値ある学びを可視化しましょうというだけではなく、子どもが人生を共にしていくポートフォリオというプレゼントになる、ということを僕は再確認できました。子どもにとって、ラーニングストーリーを書いてもらったという事自体、その経験がプレゼントになりますし、それがポートフォリオとして残っていることが子どもをエンパワーし、学び手としてのアイデンティティーを確立し、自信を持って自分の興味関心に向かっていくことができると考えています。

まさにニュージーランドの教育が共通して掲げるライフロングラーナーの考え方に沿ったアセスメントだと改めて感じました。ちなみにポートフォリオはデジタルポートフォリオとして保管され、いつでも子どもや保護者が見られるように印刷もしています。

子どもへのラーニングストーリーは同僚に書くつもりで

他にもラーニングストーリーを書くポイントとして、ラーニングディスポジション(学びの構、姿勢などと訳される)や、子どもの学びを可視化するプロセスとして3つのステップなど、いろいろ伝えてくれました。その中で僕は、ウェンディーさんが言った「ラーニングストーリーは同僚に書くと思って子どもに書いてみる」ということが、基本の視点としてとても重要なことだと思いました。

つまり書き手の自分と書かれる相手は対等な関係であるという視点です。

NZの場合は、「子どもはもともと学びたい事を知っている有能な存在である。自分たち大人と同じように、子どもは対等な存在として見られるべきである。」というような価値観が前提で、そこが出発点でラーニングストーリーを書きます。これがテ・ファーリキ的な子ども観。

しかしテ・ファーリキ以前のNZや、チェックリスト的に子どもができたこと、できないことを見るアセスメントの視点に慣れている日本での場合、

ラーニングストーリーを書くときに、保育者が学びとして見る視点は、できたことをほめる(片付けができたとか、紙飛行機が作れたとか)ことが中心になりやすくなります。僕もそうでした。その視点に慣れているので、仕方がないことでもあります。だから、視点を変えることに慣れることがまず、始められることかと思います。

自分と同い年で同じ役職の先生だとして、その人に書くラーニングストーリーなら、「頑張ったね、すごいね、よくできましたね」というような、できたことをチェックする立場から相手を褒める書き方ではなく、あなたが思うその同僚の良いところ、素敵だなと思ったところ、あなたが思う、その人の頑張っている姿、などが書くときの視点になります。これがベーシック。

後、シェア会参加者の方から、書いたラーニングストーリーについて先輩保育者から「これは客観的なの?主観で書いてない?」と聞かれ、どうやって書いたらいいか分からなくなるというお話も。この先輩は客観性が大事だと思っている、ということが分かりますが、

これについては、大切な相手の好きなものや興味を知って、その人にプレゼントを選ぶとき、わくわくすると思うんですけども、

その人にお手紙を書くとき、プレゼントを選ぶとき、「これは客観的か?」というよりも、その相手のことを考えながら、「この色の方が好きかな」とか「喜んでくれるかな?」と考えながら行動すると思います。

ラーニングストーリーを書くという事は、プレゼントを選ぶときと同じで考えればいい、というか、考えなくてはいけない。その視点が基礎で、そこからラーニングディスポジションなど児童学の知識を実践していけば良いと思います^^

使われるための記録 Use it or Lose it

記録を書くのは、大変労力がかかります。日誌でも、児童表でも、ラーニングストーリーでもそれは同じです。しかし、「時間と努力をかけて書いたこれらの記録がまったく使われずにいるのなら、意味がない」とウェンディーさんはきっぱりと言っていました。

確かに、大切な誰かにプレゼントを用意したけど、渡さずに家で保管したままではプレゼントにならないですよね。

ポートフォリオは、書いたら共有され、子どもと保護者に自信をつけ、保育者の資質向上としても活用され、何度も読まれるためのものです。

シェア会参加者の方にも、日誌を書くのが苦手という人がいました。ラーニングストーリーは何の為に書いて、それがどんなふうに自分やほかの保育者、子ども、保護者に影響するかが見えるので、書くのに時間や努力は必要ですが、「何のために書くんだ?」という精神的なもやもやはありません。自分の想いや努力が報われることが感じられる、それは、保育者の精神衛生にとっても、とても重要なことです。

ラーニングストーリーを導入するならノンコンタクト(作業時間)の確保も必要、というのが僕の持論ですが、ウェンディー先生も同じことを言っていました。

ラーニングストーリーが保護者や社会全体の子どもに関する理解を促す

ニュージーランドはラーニングストーリーが導入されて20年以上、ラーニングストーリーを書くことによって、保護者が保育や子どもの学びへの関心にものすごく積極的になったことが分かりました。

ウェンディーさんの研究データによると、ラーニングストーリーがアカデミックの学習(読み書き算数など)ができたかどうかのチェックリストよりも大切だと考える人の数が78%以上ということで、テ・ファーリキ以前のNZでは、アカデミックの学習より大切なものはないと考える人が大半だったところが逆転したというお話でした。

これに関して僕は、世界的な流れをくんで、ラーニングストーリーはもちろんやめないけど、アカデミックの学習もやっぱり大切だからプレイベースドカリキュラムの中に少しずつ織り込んでいこうと見直されていくような気もしています。

そのほか、自分のポートフォリオを見せ合うジェレド君とゼイビア君の話や、園でうんていを頑張っているギテオン君の様子を書いたラーニングストーリーを見たお母さんの反応と理解が変わっていった話、その後に起きたギテオンの学びなど、ウェンディーさんとマーガレット・カーさん(テ・ファーリキ作成者)の共著からの例の解説を聞けたのもとても良かったです。

ここでは詳細は割愛しますが、こちらに載っています。今のところ翻訳本は出ていません。

いかがだったでしょうか? このような内容を昨日のシェア会ではお話させていただきました。

昨日は、皆さんからいろんなお話を聞いて、日本でもどんどんニュージーランドのラーニングストーリーが浸透していっているのかもしれないと感じて嬉しく思い、

その中で、時間の制限がある中でラーニングストーリーをどうやって書くかを考えている先生の声や、

年齢や役職が重んじられる日本で、その概念がほとんど無いニュージーランドからきたラーニングストーリーをどうやって取り入れることができるか?に取り組んでいる先生や、

園の伝統を刷新して、午後は遊びを取り入れると変化に踏み切った先生のお話も聞きました。

少しでも、自分の周りからだけでもポジティブな変化を起こしたいと前向きな先生たちの笑顔が嬉しかったですし、

僕もこれからも、継続して自分がニュージーランドで経験していることを伝えよう!と思いました。

ありがとうございました^^

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海外で保育士 Naoki
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