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背景を知ると違いがわかる! 公立保育園・私立保育園の歴史と成り立ちを学ぼう。
保育園にはなぜ「公立」「私立」の違いがあるのでしょう?
見学に行くと、建物の雰囲気や保育の内容などさまざまな違いがあることはわかりますが、その違いがどこから来ているのかまでは、あまり掘り下げて考えたことがないのではないでしょうか。
「公立」「私立」はそれぞれに違う経緯や目的でつくられてきました。その背景を知ると、なぜあそこまで違いが出るのかがわかってきます。
どうして「公立」と「私立」ができたのか。今回はその成り立ちを学んでみましょう。
認可保育園は私立のほうが圧倒的に多い
厚生労働省『平成30年社会福祉施設等調査』によると、2018年の保育所等(保育園+認定こども園)の総数27,951園のうち、公営は8,495園。私営は19,456園。
公立保育園は全体の30%程度。東京都北区など、自治体によっては公立と私立がほぼ同数程度のところもありますが、認可保育園の多くは私立となっています。
私設の託児施設から始まった「第一世代」
私立保育園が多い理由は、日本の「保育園」の歴史が私立から始まったから。
日本初の保育園は明治時代。新潟県の「静修女学院附設託児所」といわれています。妹や弟を連れて学校に行かねばならない女学生のために、学内に附設託児所が建てられたのがルーツのようです。
また、戦前・戦中に建てられた母子寮をルーツに持つ保育園もあります。この母子寮は、戦争で父を失った母子が暮らした施設のこと。現在も、私立認可保育園として運営されているところがいくつもあります。
「働く母」を助けるための保育園は、1940年~50年代の戦後にたくさん建てられます。
当時、戦争で配偶者を亡くした女性たちが働くため、全国各地に私設の「託児所」がいくつも誕生しました。ところが託児所は常に不足し、保育の質も劣悪なところが多かったことから、一定の質を保って共同で保育を行う「保育所」をつくってほしい!という運動=保育所づくり運動が、全国で高まっていきます。
困った女性たちが声を上げ、時代が変わっていくという流れは、まるでいまの時代を見るよう。
このころにつくられた保育施設が、現在も私立認可保育園として運営している、いわゆる「保育園・第一世代」にあたります。
慈善事業から社会事業になった「第二世代」
さて、時代は高度経済成長から、男女雇用機会均等法の成立へ。働く女性も増え、保育施設がますます不足していったことから、いよいよ保育園の必要性を行政も認めるところとなります。
公立保育園の誕生です。
大正時代にはすでにあった公立保育園ですが、その数はわずかなもので、多くが私立(私設)の保育園。ですが、1970年代以降に公立保育園がどっと増えます。これが「保育園・第二世代」です。
公立の保育園って、どことなく古~い施設が多かったりしませんか? それは、昭和40年代~60年代に一気に整備された施設が多いからなんですね。
保育園が増えるにしたがって、保育士の配置基準や認可基準も明確に、厳格になっていき、保育の質が担保されるようになりました。
いまの子育て世代より1世代古い、祖父母世代の中には「保育園=かわいそうなところ」というイメージを持っている人も少なくありません。これ、おそらくは、基準が厳格化される前の保育園の印象が一人歩きしてしまったのかもしれません。
待機児童対策のため民営化した「第三世代」
公立で保育施設をつくるには、大きな財政出動とマンパワーが必要です。
少子化とはいえ、保育を必要とする世帯はどんどん増えていきます。社会情勢の変化に保育園の開設が追い付かなくなり、1990年代に入ってからは待機児童問題が深刻化していきました。
そこで自治体がとった手段が、民に委ねる、ということ。民間を参入させることで、待機児童対策をスピーディに行おうというわけですね。
民間に「保育園をつくってください、お金は出します」と呼びかけ、社会福祉法人や学校法人、株式会社などが保育園運営に参入していきます。こうして続々と増えていった私立の保育施設が、1990年代以降の「第三世代」にあたります。
というわけで、現在多くの市区町村では、新規開設の認可保育園といえば、ほとんどが私立。
また、公立保育園の運営負担を軽減するため、公立保育園の民営化も進んでいます。公立保育園は減る流れ、私立保育園は増える傾向にあるんですね。
競争の中で選ばれる、高付加価値の保育を提供する「第四世代」
令和2年現在、全国の待機児童は約1万2千人。
まだまだ保育園は足りていない状況ですが、ここ数年の傾向として「保育園を選ぶ」という保護者の意識が顕著になってきています。
入園できればどこでもいいという時代から、子どもの育ちのためにいい環境を選ぶという時代へ、保育園に求められるニーズも急激に変化しています。
昨今は、良質な絵本をたくさん集めた保育園や、都心にあっても野山遊びのできる保育園、モンテッソーリ教育を実践する保育園など、「認可」という枠組み内でも多様な保育を提供する保育園が増えてきました。
待機児童問題のピークを越えた2010年代後半や2020年代に入っての新しい保育園には、
まとめ・設立年度を見ると、時代背景や使命が見えてくる
ほんとうにざっくりと、乱暴ではありますが、一言でまとめてみるとこんな感じ。
【第一世代】1960年代以前
慈善事業として設立された私立(私設)の保育園。
【第二世代】1970年代~1980年代
地域インフラ、社会インフラとして整備された保育園。
【第三世代】1990年代~2010年代
待機児童対策のため整備された保育園。
【第四世代】2020年代~
子どもの育ちをさらに引き出す高付加価値な保育園。
保育園の設立年度を見ると、なんとなくその保育園が建ったころの時代背景や目指すもの、理念の違いが見えてくるのではないでしょうか。
参考
『戦後保育政策のあゆみと保育のゆくえ(中村強士・著/新読書社)』
『戦後日本の保育所制度の変遷―児童福祉法1997年改姓までの奇跡を中心に― A History of Nursery Center Policy in Post-War Japan: Why the Child Welfare Law Was Revised in 1997』
『戦後草創期の保育所 ― 元保育所保母の語りを手がかりに ―』
『保育所づくり運動における親の主体形成』
『明治から昭和初期における保育と現代の保育』
『幼稚園・保育所の戦後から平成までの制度と保育教育の変遷』
『公立保育園民営化についての基本的な考え方について』(国立市)
ライター:飯田陽子(保活ライター)コピーライター/ライター歴20年+α。広告制作やライティング業務のかたわら、2015年から保活講座を実施。子育て支援施設や保育園、マンションギャラリーなどで地域の保活情報を提供し、保活中のママ・パパに「保活のコツ」や「情報収集のポイント」をレクチャーする。
WEBサイト:http://www.meshiya.com/