自分のために、自分にできることを──長谷川義史 #保育アカデミー
2020年に始まり、今なお続くコロナ禍。この間、保育の現場にはさまざまな変化がもたらされました。
混乱の大きかった最初の数ヶ月はもちろん、度重なる変異株の流行に伴って、何度も対応が変わったり、やりたかったことができなくなったり。子どもたちも保育者も、ストレスにさらされ続ける時間が続いています。
「大変な状況が続くなかで、少しでも先生方にほっこりする時間を過ごしてほしい」
そう話すのは、絵本作家の長谷川義史さん。『2020年秋の保育アカデミー』の講師として、保育者に向けてオンライン越しに著作の読み聞かせをしていただきながら、子どもたちや社会への想いも語ってもらいました。
「生」の子どもたちと向き合う保育者へ
長谷川:コロナになって、今まだこんな状態が続いてますからね、リモートで絵本の読み聞かせをやることがずいぶん増えました。増えましたけど、やっぱり「生」の体験が子どもには一番やなぁってことを、最近すごく感じますね。
僕のやっていることは、エンターテイメントと言うほど大したものではありません。ただ、「生」で話して「生」で反応を返してくれて、それに乗ってまたこっちも返す……それだけのことが、子どもたちにとって実はすごく必要なことなんやなと。
ようやく最近になって少しずつ園に行かせていただくようになってね、改めてその大事さを感じました。
長谷川:今は子どもたちが、そういった必要な体験をなかなかできません。これが一番キツいことやなと思います。子どもなんて、密着するのが当たり前ですからね。触ってはいけない、いつもの楽しい催しができない、みんなで遠くに遊びにも行けない。
もちろん保育士の先生方も、感染予防から子どものケアから、ほんまに大変な状況ですよね。なかなか楽しいこともできなくなってますからね、余計にしんどい状態やと思います。
そんななかで、「生」の子どもたちに向き合ってくださってる先生方には、何とか元気でやっていただきたいなと思うんです。なので今日はゆっくり絵本に触れて、ちょっとでも楽しんでいただけたらなと考えています。
『おじいちゃんのおじいちゃんのおじいちゃんのおじいちゃん』
長谷川:これは、僕のデビュー作です。小さい頃から「大きくなったら絵を描く人になりたいなぁ」と思ってやっと出来あがった絵本で、一番想い入れがある作品ですね。
長谷川:僕は昔から絵を描くのが大好きでして、まだ幼稚園も行かないときから、いらなくなったチラシやカレンダーの裏にわーっと描くのが一番おもしろかったんですね。
で、幼稚園に行って絵の具と筆を持たせてもらったら、またそれがすごく楽しくて。当時は色も単純な青、黄、緑、赤、黒ぐらいしかなかったんですけど、絵を描くのがますます好きになりました。
小学校6年生のとき、担任に大西先生という方がいらっしゃいました。大西先生が教えてくれたのは、よーく見ることと、けれども見たそのままじゃなく、「自分の感じたように」描くこと。太い筆にたっぷり絵の具をつけて、「はみ出してもいいから、あなたなりに思ったとおり描くのよ」と教えてくれました。
そうすれば、同じ絵なんてどこにもなくなるからと。
この教えはね、未だになかなか実践できないんですけども。一生をかけてそういう絵を描きたいなと、僕は思っています。
『おへそのあな』
長谷川:自分に子どもが生まれたとき、実際に体験したことを描いた絵本です。
この頃って、親は一番大変な時期ですけども。子どもたちがみんな成人した今思い返すと、夢のような、ものすごく貴重な時間やったなと思いますね。
長谷川:良い時間ですよね。小さい子どもたちがいて、また赤ちゃんが生まれてきたうちの中がね、何とも言えない甘酸っぱいような空気でね。
でも、親も初心者です。親になったことなんてないですから、必死ですよね。ついこの間まで自分も子どもやったんですから。
僕は出産も立会いをさせてもらいましたけど、当時はそれが珍しい時代でしたね。たかだか25年くらい前のことです。うちは奥さんも絵を描いて仕事してますので、「できることは分担しよう」とやってましたが、幼稚園に毎日送り迎えに来るお父さんなんてあの頃はいなかったですね。
それを思うと、四半世紀でずいぶん変わりました。絵本ライブも、昔はお父さんがわざわざ外で待ってたりということもありましたけど、今はもう家族みんなで来てくれて、うれしいなと思いますね。
『へいわってすてきだね』
長谷川:安里有生くんという6歳の男の子の詩に、僕が絵を描かせていただいた絵本です。
毎年、6月23日の「慰霊の日」(太平洋戦争で、死者20万人余りと言われる沖縄戦が終結した日)になると、沖縄の子どもたちは平和への願いをいろんな形で表現してくれます。その式典で詩を朗読してくれたのが、与那国島に住んでいた安里くんでした。
長谷川:僕が与那国島を訪ねると、有生くんと、お父さん、お母さん、お兄ちゃん、妹さんの家族5人がとても仲良しで、みなさんにすごく優しくしていただいて。「ああ、有生くんは家族が大切やねんな」っていうのをね、お会いしたときにすぐ感じました。
そんな有生くんが「平和って何かな?」って考えて、普通の沖縄の、与那国島の日々を言っている。みんなで家族で住んでいるこの状態が大切なんやなと。
何も特別なことは言うてないんです。家族の次は学校も平和であってほしいし、友達もそう。与那国島も沖縄も同じです。
さらに有生くんはここでね、日本じゃなくて「世界」とも言ってます。考えたら当たり前ですけど、大人になると国と国で争ってね、陸続きのところは他の国との間に壁をつくろうなんてして。人間っておかしなことしますよね。
子どもはそんなこと考えてません。どこの国の人も、みんな平和でいたいんやろうなぁと。その優しい気持ちが平和につながるんちゃうかなと、言ってくれています。
自分のために、自分のできることを。
長谷川:『へいわってすてきだね』の最後のところ、もう一度見てみてほしいんです。「ぼくも、ぼくのできることからがんばるよ」——小さな男の子が言っております。
やっぱり自分のできることをせんとね。自分のために、まずは自分のできることせんとあきませんね。
で、自分を好きになることが、人のためにもなっていく。こんな状況だからこそ、「人のことも考えなあかんで」と僕はほんまに思うんです。
この本を読むと、そういう当たり前のことを、今さらながら1年生の子に教わっている気がしてくるんですね。
<90分の講演中に披露された読み聞かせ・ライブペイントなどの内容から、本記事では長谷川さんの3つの作品と、それにまつわるエピソードをご紹介しました>
(構成・執筆/佐々木将史)
【転載元】BABY JOB株式会社
自分のために、自分にできることを。いま保育者におくりたい絵本(作家・長谷川義史)