(創作小説)「ひとりで生きられそう」って それってねえ、褒めているの?
完全に小説です。juiceのひとそれにインスパイアされて作ってしまったものになりますので、苦手な方はリターンでお願いします。
こちらが参考にしたものです。
https://youtu.be/yiYr2-6LtcU
好きな人に、なかなか会えない。
好きになってから2年もこじらせてるのに会ってない。会ってないからこじらせてる、余計に。
大手企業に内定が決まり、単身で上京したものの、色んなストレスでやつれてた所にこのコロナ騒ぎだ。
コロナで、思う様に会えなくなってしまった。はじめは遠距離だから、今はコロナだから。
会いたいって言うと、モラルが無いみたいになっちゃうし。世の中が私の恋に反対している。
焦る気持ちと裏腹になんてLINEすればいいかも分からない。スタンプで返されたのって切り上げだよね?
あー、もう次会った時絶対告白しよう、いやもうプロポーズしよう。なんてずっと考えながら次の恋も出来ぬまま、歳をとってしまった。
あの人を感じたくて、あの人の香水に近い匂いの香水を買った。ジョーマローンのダークアンバーアンドジンジャーリリー。お香みたいだけどこんなんだっけ?
昔飲みに行った時に、私よりも年下の女の子がこれ吸ってみてくださいって間接たばこをしてもらってた(いや言い方な。)のに憧れて。私もたばこをはじめてみた。依存したくないから滅多に吸わないけど。彼が何を吸っているかはもう覚えてないから、自分の好みでアークロイヤルパラダイスティーを好んでいる。
偶然でもいいから会えないかななんて思って、彼の職場から駅までの最寄りの喫煙所でたまに喫煙する。あの香水を付けて週に1本だけ、5分くらい。それ以外は全く吸わない。だって意味ないんだもん。
なかなかやってる事がストーカーじみてきている。
理解はしてるけど、なんか起きないかなっていう期待でどきどきしながら。なんも起きないし、彼も見えないけどね。
もうこんなこと諦めよう、今日までにする。
今日も会えないか。
帰ろうとすると急な雨、傘ないやん。
幸い屋根はあるけど、長居したくない、臭いし。
喫煙所のおじさんおばさん連中嫌いなんだよな。
はやく止まないかな、下向いておこう。
「すみません、火を貸してくれないですか?ライター濡れちゃて。」ん?私?気づいたら誰もいなくなってた。
思い出せない。この声は。でもこの匂いは覚えてる。
うそやん…顔をあげると目を丸くするあの人。
相変わらず顔が整ってるおじ様なこと。
「…あれ?昔は喫煙しなかったよね?」
「はい、火あげますよ。」違う、こんなこと言いたいんじゃないのに。やっと会えたのに。他の人たちも居なくなったのに。
「ま、いっか…ありがと。こっち帰ってきたんだね。」「少し休暇をとったんです、色々疲れて。」
仕方ない、雨のせいだ。もう一本。
家族にバレないようにこんなに長く吸わないのに。
「…あれ…?」カチッカチッ。
「もしかして、つかなくなっちゃった?ごめんね。」
「こっちおいで。」「…えっ?…」
対面で私のほっそいタバコにあの人のたばこをグリグリ。今ならわかる、あの人ラキストやん。ってこの体勢はやばいって。
とりあえず火がついてぼんやりと吸う。
「最近どうなの?仕事とか。」
「辞めようと思って休んでますよ、結婚したら続けられないし。」
「結婚するの?」
「相手いないですけど、何となくするかなって。」
「なんだそれ笑。〇〇ちゃんぽくないじゃん。あんなに現実主義でしっかり者だったのに。」
「もう26ですよ、あの頃から4年も経っていますし。理想くらい持ちますよ。〇〇さんは?」
「特にないかな〜。仕事もこのまま続けてたら生きていけるけど、この時代だしね。〇〇ちゃんは一人で生きていけそうなくらい自立してるね。」
1人で生きられそう…。
たばこが不味い、煙が臭い。
元々そんなに得意じゃないものを2本も吸って、寿命も削っている。
この人に恋に落ちてから2年、はじめは自らの気持ちにドキドキしながらいつ会えるかなと連絡をしたりしていた。でももう私自身はどんどん歳を重ねている。
仕事を通じて、やる気だけではどうにもならない不条理も、もう要らないと思っていた根性論を試される機会等にも揉みに揉まれて、大人になった私はこの気持ちは一方通行だということに気づいた。脈ナシかどうかなんて一目瞭然。しかも彼は多分気づいていて、会うことを明らかに避けていたような気がする。
だったらせめて終わらせて欲しい。きっぱりと。
「〇〇さん。」「ん…?」こちらを向く
「禁煙することにしました。」「…へっ?」
「あと、好きです。」「あと…?笑」
「でも、煙草も好きにはなれないし、〇〇さんのこと嫌いになれないし、上手にこなせないし。」
「1人で生きられそうって、それって褒めてるんですか?」黙るあの人。
つい強がっちゃうこの弱い心を、あの人には見抜いて欲しかった。意地を張るこの気持ちを溶かして欲しかった。
「ごめんね。」もうこれで十分だった。
彼は全ての答えを一言でくれたのだ。
「あ、雨やんだ。」スコールは止んだ。
「雨止みましたし、吸いわったので帰りますね!おつかれさまです。」
残ってるアークロイヤルを捨てて、私は喫煙所を出る。
もう振り返らない。この先の人生、彼を超える人はもう居ないかもしれない。でもそれでもいい。
胸を張って生きよう、だって1人で生きられちゃうから。