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ひとひらの願い

ひとひらの願い

              文 umi no oto
                                                 絵 hoho

   🌸毎年訪れる桜の花が咲く頃は
    まるで人の一生をみているよう
    生と死は廻ることを想う。。。

    ひとひらのしだれ桜の花びらと
    少女の小さなお話。



                                                             

桜のつぼみがほころびはじめ
今年もまた春がやって来ました。


春の訪れに人たちの心もほころんで
「やっと春が来たね。」
「きれいに咲きはじめたね。」
桜の道を行く人たちの声が聞こえます。


そして立ちどまってそれぞれの思いで
桜の木を見上げるのです。


その桜の道のおわりにある
丘をのぼったところに
大きな一本のしだれ桜の木が
立っています。



毎年丘の上のしだれ桜の花が
咲きはじめると
一人の少女が毎日毎日
そのしだれ桜の木を見上げにやってきます。



それはまるで逢いたい人に
会いに来たかのように
しばらくそこで時を過ごすのです。



その少女は生まれつきの重い病気で
ほかの子どもたちと同じように
思いっきり駆けまわったり
遊んだりすることが出来ません。



もしかしたら大人になるまで
生きていられるかどうかもわかりません。



少女は昨年の春が終わるころから
今年の春が来るまでにあったことを
春の訪れとともにしだれ桜の木に
話をするのをとても心待ちにしているのです。




少女は毎日毎日一年分の話を
少しずつしだれ桜に話します。
しだれ桜は少女の話を聞くのがとても楽しみで
春の風に枝をそよがせながら話に合わせて
心地よくハミングします。




少女が一年の中で
一番幸せな季節です。


時は過ぎてゆきしだれ桜の花が散りはじめると
しだいに少女の元気がなくなってきました。


「もうすぐお別れ・・・。さみしくなるわ。
 まだまだ話したいことは
 たくさんあるのに。」



少女が丘をおりて
ふもとの川のほとりに置いてある
自転車に乗ろうとした時
川を流れるひとひらのしだれ桜の花びらに
気がつきました。



その川は少し遠くの海につながっています。


少女はひとひらのしだれ桜の花びらに
言いました。
「私これから大急ぎで海へ行くから
 きっとそこで待っていて。
 そこでゆっくりお別れがしたいの。
 お願い。」


そう言うと少女は海へ向かいました。



こわれそうな心臓をバクバクさせながら
一生懸命に自転車をこぎました。



海に着くと浜辺には
たくさんの海藻が打ち上げられていました。


でもしだれ桜の花びらは見つかりません。
少女が「会えなかった・・・。」と
大きくため息をついたとき
波が海藻をそっとなでました。


その中からひとひらのしだれ桜の
花びらが・・・


少し疲れたようでしたが
にっこり微笑んでいました。



少女はうれしくてうれしくて
ひとひらのしだれ桜の花びらを
そっと手のひらにのせました。



「また会えてうれしい。私の願いを
 叶えてくれて本当にありがとう。
 今度は私があなたの願いを
 叶えてあげたいわ。」


少女がそう言うと


ひとひらのしだれ桜の花びらは言いました。



「もしも願いが叶うなら
波の音にのせた月の子守り歌を
聞きながら眠りたい。」


少女は
「わかったわ。一緒に夜が来るのを
 待ちましょう。」
そう言うと



少女とひとひらのしだれ桜の花びらは
海をながめながら夜が来るのを待ちました。



イメージ写真
「輝く道」ひらさん



やがて辺りが暗くなってきました。


今夜は空気が澄んでいて
三日月がとてもきれいに輝いています。


夜の海に月のゆりかごがゆらゆらと
浮かびます。


月は波の音にのせて優しく歌いはじめます。


少女はその月のゆりかごに
そっとひとひらのしだれ桜の花びらを
浮かべました。



「願いを叶えてくれて本当にうれしい。
 ありがとう。」




ひとひらのしだれ桜の花びらはそう言うと
月のゆりかごにゆられながら静かに眠ります。


波の音にのせた月の子守り歌が
夜の浜辺に響き渡ります。

「これで本当にお別れ。さようなら。」


すると・・・
夜空に輝く月が言いました。




「あなたの一生の一巡りのなかで
 桜の花の季節は
 何度巡ってくるのでしょう。」



少女は言いました。

「そうだわ。ひとひらのしだれ桜の花びらが
 つながって出来た首飾りが
 私の生きていた時間。
 きっと長い長い首飾りが出来るわ。
 だってまだまだ話したいことが
 たくさんたくさんあるもの。
 逢えて本当にうれしかった。
 来年もきっとここで逢いましょう。」




「さようなら。またね。」



また来る年の春の訪れと
桜の木を見上げるあなたの笑顔を
心待ちにして・・・。






おわり





この物語は
以前umi no otoさんが作られたものです。
その物語に私の絵を乗せることを
選んでくださいました。

umi no otoさん
素敵な物語に
私の絵を選んでくださり
ありがとうございました。


そして、初めに私のnoteで公開することを
快く許してくださり感謝しています。

otoさんの優しい物語に
絵を思い浮かべるひとときは
とても幸せな時間でした。

otoさんの想いが
より多くの方に届きますように🍀


otoさんの想いの詰まったページです。
こちらもぜひご覧ください。




2023年9月12日、umi no otoさんこと森本紫文さんは、たくさんの大切な宝物を私たちに残して永眠されました。


安らかに休まれますよう
心よりお祈りいたします。


noteでの、かけがえのないこの出逢いに
感謝しております。



そしてもうお一人、
noteで素晴らしい写真を投稿されている
ひらさん。

以前公開された夕暮れの海の写真「輝く道」を見て
心を掴まれ、ひらさんにお願いをして
夜を待つ少女の海シーンの
モデルにさせていただきました。

ひらさん
本当にありがとうございました。

これからも心を動かされる素晴らしい作品を
楽しみにしております🌸






「ひとひらの願い」の つながりの物語




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