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欧州の地球温暖化対応という名の自国産業推進政策

1. 欧州の重工業の衰退

欧州の重工業は、第二次世界大戦後の高度成長期において大きな役割を果たしていましたが、1970年代の石油危機をきっかけに、エネルギーコストの上昇や労働コストの高騰などによって次第に競争力を失っていきました。

  • 欧州の重工業のGDPに占める割合:

    • 1950年代から1970年代:欧州の重工業はGDPの約30%を占めていた【出典: OECD 1970】。

    • 1990年代:欧州全体で約18%に減少。

    • 2020年:約12%にまで落ち込み、特にドイツなどの製造業中心国でも15%程度【出典: Eurostat 2020】。

特に鉄鋼業や造船業、機械工業などが大きな打撃を受け、これに伴い、欧州の主要国は産業構造の転換を図らざるを得なくなりました。これに伴い、重工業の縮小とともに再生可能エネルギーやデジタル産業、サービス業へのシフトが進行しました。

2. 地球温暖化議論と二酸化炭素削減の関係

欧州における重工業の衰退を背景に、1990年代以降、環境問題、特に地球温暖化に対する関心が高まりました。この時期から、地球温暖化が国際的な政治課題として大きく取り上げられるようになり、その中心的な要因として「二酸化炭素(CO2)」が名指しされました。

  • 地球温暖化に関する議論の進展:

    • 1992年:国連気候変動枠組条約 (UNFCCC) が採択され、CO2を含む温室効果ガスの削減が国際的に議論され始める。

    • 1997年:京都議定書により、先進国が温室効果ガスの削減を法的に義務付けられる。

    • 2015年:パリ協定により、全世界がCO2削減にコミット【出典: UNFCCC】。

これらの国際的な枠組みの中で、欧州は自らを「環境問題のリーダー」として位置付け、二酸化炭素削減を強力に推進してきました。この背景には、重工業の縮小により、産業構造がクリーンエネルギーやデジタル産業へ移行しつつあるため、二酸化炭素削減が経済的に有利に働く状況があったと考えられます。

3. CO2削減の名の下での産業政策

欧州において、特に再生可能エネルギーやグリーンテクノロジーの導入が進められた結果、重工業に依存する産業構造からの脱却が図られました。

  • 再生可能エネルギーの導入状況:

    • 2000年:再生可能エネルギーは欧州の全電力供給の6%程度を占めていた【出典: IEA 2000】。

    • 2020年:欧州全体で約38%に増加し、ドイツでは40%超、スペインやデンマークでは50%以上【出典: Eurostat 2021】。

再生可能エネルギーの導入とともに、重工業からグリーン産業へのシフトが進みましたが、これには巨額の政府補助金や規制の緩和が伴いました。この「グリーン経済への移行」が、欧州が主導する二酸化炭素削減の大義名分として掲げられています。

  • 二酸化炭素排出量の推移:

    • 1990年:欧州全体でCO2排出量は約50億トン【出典: Global Carbon Project】。

    • 2020年:欧州全体で約35億トンへと減少【出典: Global Carbon Project】。

この大幅な減少の背景には、重工業の衰退やエネルギー構造の転換が大きく影響しています。しかし、これらの削減は、技術革新や環境意識の高まりというより、経済構造の変化、すなわち重工業から脱炭素技術やサービス業へのシフトによるものである点が重要です。

4. 欧州の経済的利益

欧州が二酸化炭素削減に積極的な理由は、自国の重工業衰退による影響を最小限に抑えつつ、新しい産業分野でリーダーシップを取る狙いがあります。

  • 産業構造の転換の成功事例:

    • ドイツは、再生可能エネルギー技術のリーダーとして、2020年時点で約30万人の雇用をグリーン産業で創出【出典: German Federal Ministry for Economic Affairs and Climate Action】。

    • 欧州全体では、再生可能エネルギー分野において2019年には約130万人が雇用されており、これは重工業が縮小する一方で、新しい雇用創出の一つの要素となっています【出典: Eurostat 2019】。

しかし、この成功は、環境保護を掲げる一方で、経済的利益を目的とした政策でもあることを見逃してはなりません。再生可能エネルギー技術や電気自動車など、欧州がリードする産業は、他国に対して競争優位を保つための「新たなルール」としてCO2削減が利用されています。

5. CO2削減に関する政争のエビデンス

欧州は、重工業の衰退による経済的な課題に対処するため、環境問題を利用して国際的な枠組みを自国に有利な形で再設計しているという指摘ができます。

  • 欧州カーボン国境調整メカニズム(CBAM):

    • 2021年にEUは、CO2を多く排出する国からの輸入品に対して追加関税を課すことを提案し、これにより欧州内での産業競争力を維持することを目指しています。これに対し、中国や米国などが反発しており、貿易戦争の火種となっています【出典: European Commission 2021】。

  • 環境対策を通じた産業保護:

    • 欧州が進める再生可能エネルギー技術や脱炭素技術へのシフトは、環境保護の名の下で自国産業を保護するための施策として機能しています。これは、重工業を犠牲にしてでも新たな経済基盤を築こうとするものであり、CO2削減がその政策の中心に位置しています【出典: European Commission】。

まとめ

欧州の重工業の衰退は、1970年代から始まり、1990年代以降は地球温暖化やCO2削減の議論が本格化する中で、新しい産業を育成するための転換期を迎えました。再生可能エネルギーや脱炭素技術が進む一方で、二酸化炭素削減は単なる環境問題ではなく、欧州の産業政策として利用されていることが、統計データや政策エビデンスから明らかです。CO2削減を巡る議論の背景には、国際経済における競争力確保と自国経済の救済が隠れており、この点が政争の一環として指摘される所以です。

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