【TopSpin 2K25】リアルスポーツシムは「ごっこ遊び」の域を出るのか?
あのTopSpinが帰ってきた!
2011年に発売された前作から13年という長い期間を経て突然のカムバックを遂げたテニスゲームの新作、『TopSpin 2K25』に思うところが無いわけではないが、僕からはひとまず礼を言いたい。
発売してくれてありがとう。
おかげでやっとPS3を楽にしてあげられるよ……。
それにしても13年という期間は本当に長かった。
そもそも前作が発売された2011年(ゲーム内データだと2010年AO時だが)という時期に何があったかを振り返ってみると、フェデラーとナダルに次ぐ「第三の男」の座に甘んじていたジョコビッチが男子テニスの絶対王者として覚醒したことが真っ先に思いだされる。
シーズン開幕41連勝、四大大会3勝、マスターズ5勝、年間70勝6敗という驚異的な成績を見ただけで、当時24歳であった彼がどれだけツアーの中でズバ抜けた選手であったか分かるはずだ。
もちろん、そんな状況を前王者であるフェデラーやナダルら、もしくは彼ら3人に悲願のGS制覇を阻まれ続けているマレーが黙って見ているわけもなく、王者ジョコビッチの前に悉く立ちはだかった。それ以降のシーズンでも特に彼ら4人が大会の上位を席巻するようになり、いつからか彼ら4人をBIG4と呼ぶようになった。
2010年代は、そんなBIG4があらゆるタイトルを総ナメにしてツアーを支配していたわけだが、当時は彼らが、もしくは彼らの牙城を打破しようとする有力な選手たちと、世界各地で数え切れないほどの名勝負を繰り広げていた。
いま振り返ってみても、これだけ充実した時代を見届けられたことはテニスファンとして非常に幸せなことであったと思うが、たった一つだけ、僕は不満を抱えていた。
ツアーがこれだけ盛り上がっているのに、
なぜTopSpinの新作が出ない!?
というかBIG4全盛期の2011〜2016年にリリースされたテニスゲーム自体が『EA SPORTS GRAND SLAM TENNIS 2』くらいしか思い当たらない。
BIG4支配が揺らぎ、ツアーが混沌としだした2017年頃くらいから『Tennis World Tour』や『AO Tennis 2』など、また少しずつゲームストアでテニスゲームを見かけるようになってきたが、その出来が僕を満足させてくれることは無かった。
だが、今年の1月にこんな動画が目に入る。
なんとTopSpinの新作が出る!
あれだけ待ち焦がれた新作が突然リリースされるという報せに驚かされはしたものの、このティザーを見た僕の胸中は冷やかなものだった。
あの最高に男子テニスが盛り上がっていた時代にテニスゲームを作らなかったくせに、なぜ今になって復活したのか、もうあの最高の時代は終わってしまったというのに……。
しかもナダルとジョコビッチがプレイアブルにいないし、ビジュアルもなんだか安っぽいし、開発チームも前作と違うみたいだけどホントに大丈夫か?などとブツブツ小言を垂れ流しながらもなんだかんだで発売日に購入してしまった。
昨今のテニスゲームに裏切られ続けてきた僕にとって、発売日の特攻はかなりの勇気を要したが、実際に60時間程度プレイした感想として「実在選手を操作してテニスをするゲーム」としてはかなり満足できる内容だったと言える。
前作の正統進化
Topspinの魅力といえば、リアルな質感のあるストローク戦を楽しめることにあるだろう。
選手のフットワークやショットの軌道には物理法則を意識させる「重み」がありつつも、ゲーム的な「手触り」としての気持ち良さも確かに感じられる絶妙なバランス感覚は本作でも健在。
本作も基本的には前作と同じ操作感・プレイフィールで遊ぶことができるため、多少の変更点はあれど、歴戦のTopSpinプレイヤーであれば特に問題は無いはずだ。
個人的に本作で最も満足できた点として、CPU対戦の高難易度モードを挙げておきたい。
前作は最高難易度ベリーハードであったとしても、それなりに操作に習熟していて、かつテニスのセオリーを分かっているプレイヤーだったら簡単に勝つことができた。
僕は前作をおそらく数百時間はプレイしたと思うが、全ベリーハード選手に対してトリプルベーグル(1ゲームも落とさずに3セット取る)を焼くくらいのことは造作も無いことだった。
だが、本作の最高難易度(レジェンド)はなかなか歯応えがある。オープンコートに振り回すだけの単調な攻めはコースを読まれてカウンターを喰らうし、少し甘い球が飛んできたからと無策でネットに飛び込めばパッシングの餌食になる。
ラリー戦を制するためには、ウィナーから逆算して少しずつ相手を崩していく必要がある。
そのためのアプローチ、例えばビッグサーブ&ビッグストロークを押し付けるのか、もしくはドロップショットやスライスを交えて相手のタイミングを狂わせるのかなど、戦術は使用する選手によって変わる。現実のテニスと同じだ。
少し油断したら簡単に負けるし、逆に集中して取り組めばヒリヒリとした「リアルなテニス」をCPUと楽しめる。スポーツシミュレーターとしてこれ以上の楽しみは無いだろう。
スポーツシミュレーターと対戦ゲーム
このゲームは「実在選手を扱ったテニスシム」として凄く良く出来ているし、遊んでいて楽しい。
だが、オリジナル選手を育成するマイキャリアと、その育成した選手を使用して世界中のプレイヤーとオンライン上で対戦するワールドツアーはハッキリ言って面白くない。
・マイキャリア
実在選手らと共に世界各地の大会を周り、グランドスラム制覇や世界ランキング1位を目指すオフライン専用のモード。
ただ、本作には実在する現役選手(男子)が8人しかおらず、本モード内ではゲーム側が用意したモブ選手かその8人としか対戦できないのがツライ。実在選手を使ってナンボのゲームだろうが!
当然、実在選手がエントリーするような最高グレードの大会に初めから出場できるわけではないので、序盤はトレーニング(ミニゲーム)で経験値を上げてステータス強化をしたり、下部大会でモブ選手を狩ってランキングを上げる必要がある。
そういった地道な作業を重ねてステータスやランキングを上げてMSやGSといったハイグレードの大会に出られるようになっても、1回戦あたりのアーリーラウンドでは結局モブ選手が相手だし、勝ち上がった先で戦うのは8人しかいない実在選手(の中でもランキングが高い選手)だけだ。
これが2、3年程度で終わるのならまだしも、レベルMAXや四大大会制覇を目指すのであれば少なくとも10年程度は回す必要があり、それだけ同じ作業をこなさなければならない中、対戦相手の変化も乏しければ飽きるのは必然だ。
てか何年経っても同じ顔ぶれしかいないのって冷静に考えておかしいよ、競技人口が数人しかいないローカルスポーツじゃあるまいし、普通は期待のルーキーが出てきたり、レジェンドも衰えて引退したりするもんだろ!
それはともかく、結局いつも同じ選手やモブとばかり対戦させられるんだったら、普通にエキシビションマッチ(対戦)モードで自分の好きな組み合わせで遊んだ方が楽しいというのが僕の感想だ。
・ワールドツアー
世界中のプレイヤーとお互いに自分で作成した選手同士でランクマッチを楽しめるモード。
だが、このモードに関しては、まずマトモに遊ぶことが難しい。ラグラグの回線弱者とマッチングすることが多く、タイミングが命のゲームであるのに、サーブやストロークを打つ際にラグが発生して正確なタイミングを取りにくく、それだけでもうイライラする。
実際のプレイ内容の話もすると、取れる戦術の幅が狭すぎると感じた。
ワイドサーブを打ってオープンコートにパワーショットを打ち込む、いわゆる「3球攻撃」がすこぶる強い。なんとかストローク戦に持ち込んでも、コートの真ん中から突然コーナーにウィナーを叩き込まれたりとなす術なしだ。
要は力こそパワーだ。環境があまりにもパワーテニス偏重すぎて駆け引きとか言ってられるような生温い環境じゃない。パワーテニス型のビルドを組まないと、まず戦えないだろうと思う。良くも悪くも今のプロテニスと同じだ。
それはシミュレーターとしては正しいのだが、フィジカルスポーツとしてのテニスというゲームの欠陥までも再現してしまっており、対戦ゲームとして純粋に楽しむ気にはなれなかった。
ゲームでテニスをする意味
実在選手を扱うスポーツゲームは山ほどある。
サッカーならFIFA、野球ならThe Show、バスケなら2K、アメフトならMaddenなどなど、人気の高いメジャースポーツでゲーム化されていないものは珍しいかもしれない。
だが、その消費者層が求めているのは「対戦ゲームとしての奥深さ」ではない気がする。FIFAや2Kは毎年リリースされているが、例えば『Valorant』や『ストリートファイター6』といった競技色の濃いゲームと同じようなモチベーションでプレイしている人は少ないだろう。
少なくとも僕が求めているのは、いつもはモニター越しに見ていることしか出来ない人気選手や贔屓のチームを自分で操作できること、その選手やチームになりきって楽しむこと、要は「ごっこ遊び」としての面白さだと思う。
リアルなテニスを遊びたいという欲求も、「ごっこ遊び」に没入したいからだ。
例えば、テレビで散々見たフェデラーの回り込みフォアハンドを再現したいと思ったとき、ゲーム内の挙動が現実の物理法則から逸脱しすぎていると成立しないし、その威力がショボかったりするのはゲーム的には正しかったとしても、プレイヤー心情としては萎える。
だから対戦ゲームとしてのバランス調整にリソースを注ぎ込むくらいだったら、リアルなキャラゲーとしての楽しさに全振りしてほしいというのが僕のスポーツシム全般に対する願いだ。
テニスの新時代
本作が13年ぶりのカムバックを果たした理由について、本作ディレクターのエルコラーニ氏は以下のように語っている。
おそらく氏の言うNetflix番組とは『Break Point』だろう。ツアーで世界各地を転戦するトッププレイヤーたちの「舞台裏」にある葛藤やドラマに迫るドキュメンタリーだ。
本作では番組に出演していた選手も多数プレイアブルになっているため、ドキュメンタリーからゲームに流れてくる人は、まあいるかもしれない。
新時代のスターといえば、アルカラスとシナーが思い浮かぶ。二人とも前世代の王者であるジョコビッチを倒してグランドスラムを優勝して世界ランク1位になった、新しい男子テニス界をリードしていく選手であり、僕も期待している。
だが、あの輝かしかった2010年代はとっくに終わっているにも関わらず、本作のパッケージを飾っているのは引退したレジェンドであるフェデラーとセレナだ。
現役選手が不甲斐ないなどと言うつもりは全く無いが、実際問題として新時代のスターたちは、まだまだ「テニスの顔」として世間一般に周知されているわけではないということだ。
かつてBIG4は男子ツアーを席巻する存在であったが、フェデラーは2年前に引退したし、ナダルとマレーも今年で引退、ジョコビッチもそう遠くない未来に現役から退くことになるのは間違いない。
それでも彼らが長年のキャリアで残した偉大な実績や傑出したプレーの数々はテニスファンの記憶に残り続けるだろうし、現役選手は彼らの幻影と戦っていかなければならないだろう。
彼らほどの実績と人気を兼ね備えた選手が今後現れることがあるのか、今は想像もつかないことのように思えるが、きっとあると僕は信じたい。
少し長くなってしまったが、今を輝くスターがTopSpinの次回作の表紙を飾るような「テニスの顔」となってくれることを願いながら、本稿を締めくくろうと思う。
最後に
今回の僕の記事は男子テニスの話がほとんどで、女子テニスおよび選手については触れてこなかったが、それは純粋に僕が女子テニスについて詳しくないから語れないだけであり、他意は一切無いことだけは理解していただけるとありがたい。