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シルクを通して学んだ、身につけるものを選ぶことの重み

身につけるものを選ぶということ

あなたは、身につけるものの中で、何に一番お金をかけますか?

「昔っから服がどうしても好き!」
「ジュエリーに目がなくて、ジュエリー貯金をしています」
「女子はバッグでしょ!バッグ見てると幸せ〜」
「靴です靴、靴コレクションは玄関に収まりきりません」

といったように、人それぞれ重視している物があると思いますが、
私の場合は、下着とパジャマです。

そもそも、私は服にあまり興味がなく、当然センスもなく、お金も探す労力もかけない人間でした。子供の頃は、喜んで姉の服のお下がりを着て(自分の服を買いに行くのが面倒だからお下がりが嬉しい)、大人になった今は「私服の制服化」をしています。

樹木を見上げたり、葉っぱを観察するのが大好き


私服の制服化をする準備

「私服の制服化」をするにあたっては、パーソナルカラー、パーソナルデザイン、顔タイプなどイメコンの知識を片っ端から本やネットでかじり、自分の外見に似合う色や形、テイストを分析しました。

さらに、noteであきやあさみさんの「自問自答ファッション」という概念に出会い、ご著書や自問自答ガールズ達のnoteを読みながら、「自分がなりたい自分」に合致する服とはどういうものかを探究する、自己分析の時間も大いに楽しみました。
そして最終的に、そこに自分の生活する場所や行動パターンを考慮して、(自分的に)合格ラインの服を選ぶことができました。

私服の制服化をした結果

このように、選ぶまでには時間をかけましたが、その後は、全く同じものを3点買い求め(洗い換えのため)、毎日毎日ひたすら同じ格好を(寒さにより重ねるものは変えつつも)することで、毎朝何を着るか一切考えなくて済む被服生活を送っています。
クローゼットの中も、ワントーンで美しくまとまり、今までで一番物が少なくすっきりしているので見る度に満足。

そんな「スティーブ・ジョブズ」的スタイルを選んだ私の唯一のこだわりは、
下着とパジャマをシルク100%にすることでした。

映画で見つけた、シルクの下着

それは、日本の過酷な夏に、精神的にやられそうになっていた数年前のある夜のこと。
子供達を寝かしつけ、キャンドルを灯してお茶を淹れ、
美しいベトナムの田舎を舞台にした映画『第三夫人と髪飾り』を自宅のプロジェクターでうっとり観ていました。

キャンドルホルダーから漏れる、灯りの揺らぎに癒されます


ベトナムの温度と湿度の高さが映像を通してこちらにまで伝わってくるようなその映画の、しっとりとなまめかしく実に美しい女性陣は、艶やかなシルクの下着を着たまま川で水浴びをしていたのです。

その下着の形は、ホルターネックのキャミソールのような形で、正方形のハンカチと紐だけで作れそう。調べてみたところ、アオイム(Áo yếm)と呼ばれるもののようでした。

これはちょっと昔のベトナムの下着らしく、ブラジャーが西洋から入ってきて一般化する前のものだと思います。
だいぶ無防備で色っぽい、と言うのは見る側の視点ですが、締め付けが全くなくて汗をかいてもさらっと乾きそうなそれを見ていると、「私もこれが着たい!この熱帯化している日本の夏でもシルクの下着が絶対いいのでは?!」と思いつき、即座にシルク100%の下着を買いました。

これが大当たり。いくら汗をかいても全く不快にならないのです。

早速、下着を全てシルクのものに変えました。
その結果、外側に着ている洋服よりも、内側に着ている下着の方がお値段は高くなりましたが、大満足です。


また、パジャマや枕カバー、そしてナイトキャップ(寝る時の髪の毛を摩擦から保護するためにかぶるもの)もシルク100%に変えたところ、ツルンツルンな心地良さに囲まれて寝る時の幸福感がググンと上がりました。

シルクの良さは、肌触りの滑らかさ、肌を乾燥させないこと、あたたかみ、光沢の美しさ、発色の良さなどが知られています。
実際に肌着として毎日着用しては洗う、を繰り返してみると、洗った時の乾きの早さ、汚れ落ちの良さもシルクの素晴らしさだと分かります。雑菌も繁殖しにくく衛生的です。旅行先でも、夜に手洗いした下着が翌朝には乾いているので、持ち物が少なくて済むという利点があります。

こうしてますますシルクに惚れ込んだ結果、ハイブランドとは無縁なのに、シルクスカーフの最高峰と言われるエルメスの美しいヴィンテージカレを購入し、肌寒い季節に重宝するなんていう楽しいファッションの変化も起こりました。

しかし、この話にはとんでもない後日談があります。

役目を終えた葉っぱが、風に乗ってハラハラと舞い散るのが美しい

シルクの生みの親、お蚕さんとの出会い

こうして、着る物に頓着しない人生を歩んできた私が、初めて惚れ込んだ繊維がシルクだったのですが、ちょうど時を同じくして、子供が学校で蚕(カイコ)を飼うという面白い取り組みを始めました。

毎朝登校すると、蚕のフンを掃除し、新しい桑の葉を入れて、蚕の大きさを測り成長具合を見る。それを繰り返しているうちに、虫が苦手な子供が「蚕は手に乗せるとプニプニして柔らかいの。可愛いんだよ〜」と日々笑顔で蚕の習性と成長を語るようになりました。
私が授業参観で行った教室の後ろのロッカーの上には、バリバリと音を立てて一心に桑の葉を食べる、白くてよく太ったお蚕さん達がいました。

そして、すっかり蚕に親しんだ子供と共に、図書館から借りてきた養蚕業の歴史の本を寝る前に読むのが習慣になりました。そんな日々がしばらく続き、ある日、子供が学校から蚕の白い繭を持って帰ってきたのです。

それまで、「シルク大好き!シルク万歳!全部シルクにしたい!」と愛用していても、どうやって繊維が出来上がっているかということを真に理解はしていませんでした。
その優しい白い色をした空気のように軽い繭を自分の手のひらに載せた瞬間、

たくさんの蚕の命をもらって、この自分のパジャマは出来上がっている。

そのことが急に腑に落ちて、罪悪感という言葉では表現しきれない複雑な気持ちになりました。
スベスベと触り心地が最高で温かみのあるこのパジャマは、本当なら、蚕が羽化するために一生懸命作った大切なお部屋である繭だったのです。

考えてみれば、シルクという身につける繊維だけではありません。

私が無知のまま、あるいは知っていても深く考えずに消費している数々のものについて、いったいどれだけの命が奪われたり、命が奪われないとしても、人々や生き物の労力がかけられてきたのか。
それらのもののおかげで生きているのに、その意識がない自分を恥じるようになりました。

これからの被服生活の課題

お蚕さんとその白い繭を見てから、素晴らしい繊維だからと言ってシルクのものを新たに買うのが躊躇われるようになりましたが、では植物性だからコットンならいいのか。命まで奪わないウールやカシミアならいいのか。石油由来のポリエステルならいいのか。正解がよく分からなくなりました。

生み出される現場から遠いところで、意識もなくただ消費している自分には、それらを着用する資格すらないようにも思えます。

ただ今言えることは、自分の心に沿い、かつTPOに合う物をよくよく考えて手元に迎えたい。そうして迎えた出来るだけ少ない物を、私の手元に来るまでに尽力してくれた人々や生き物に常に感謝をして、大事に手入れをして出来るだけ長く着る
そして、なんらかの形で、命の源に恩返しをしていきたいと思います。

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ホガラカ明子
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