ホームに残されたカツ丼
ある日。
地下鉄の改札を通り
ホームで地下鉄が来るのを待とうとすると
ベンチの上にコンビニのカツ丼が
乗っていることに気がついた。
足を止めることなく
その横を通り過ぎてみた。
どうやら食べ残しでは無く新品のよう。
誰かが忘れてったんだな…。
そこからそのカツ丼の時系列を想像してみた。
きっと誰かがこの駅に来る前にコンビニに寄り
このカツ丼を買った。お腹が空いてたんだろう。
レジ袋は有料だから断って、手に持つことにしたんだ。
駅に着いて改札を抜けて
ホームのベンチに腰掛けて
スマホをいじる。
その時ベンチにカツ丼を置いたせいで
そのまま忘れ去られてしまった…
でもどうだろう。
スプーンや箸はなかったし…
実は全く違うエピソードがあって
知らない人にカツ丼をお裾分けされて
流石に怖くて置いて帰ったとか
実は3日前から放置された謎のカツ丼とか
毒薬が仕込まれた事件性の高いカツ丼とか
爆発するカツ丼とか。
カツ丼ひとつで妄想がどんどん広がった。
ある意味恐ろしい忘れ物に思えてきて
できるだけ関わりたくないと思い
カツ丼とは距離を置きながら地下鉄が来るのを待った。
そうすると
カメラを持った青年が
ホームへ歩いてきて、彼もカツ丼に気がついた。
あ、ちょうど地下鉄が来る。
その時青年は、手に持つ大きな一眼レフを
カツ丼に向けてパシャっとシャッターを切った。
カツ丼は彼のカメラの中に収められた。
彼はカツ丼にどんなストーリーを想像したのか。
何を感じてシャッターを切ったのか。
そしてなぜカツ丼はそこにあったのか。
コンビニのカツ丼ひとつで
きっとあそこのホームでカツ丼を見つけてしまった人たちは、いろんな想像を繰り広げる。
何通りも。
でも誰にもカツ丼の気持ちはわからない。
悲しいのか、寂しいのか、ホッとしているのか。
コンビニに陳列されているカツ丼よりも
少し存在感の増したカツ丼なのであった。
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